六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

《ゴン太さん。わたし、こんな窮屈な生活もう耐えられません。実家に帰らせていただきます!》
《待ってくれミキ!》

 お茶の間のテレビには、トメさんが毎日見ている昼ドラが映っています。
 いつもはテレビなんて気にしないのですが、今日の爺やは自分の境遇に重ねて感極まってしまいました。

 ぶっちゃけると、狭い鳥籠暮らしに嫌気がさしたのです。

 部屋んぽのタイミングで開いていた窓から飛び立ちました。

『魔王さま、爺めは窮屈な生活に耐えられません! 実家に帰らせていただきます!』
「爺!」

 魔王はぽかんとして、隣でおすわりしていたケルベロスに視線をやります。

「ううむ。実家、実家か……。爺の実家とは……どこだ?」
「くぅうん」

 三人とも力を封じられているので異界には渡れません。
 こちらの世界、日本の家と言うなら、いまさっきまでいたのどか荘です。

「ちょうど散歩の時間だし、爺を探しに行こうかの、ケルベロス」
「ワン!」

 リュウをおんぶして、ケルベロスの首輪に散歩用リードを繋いで準備万端。

 散歩がてら爺やを探すこととなりました。

 道行く人に爺やを見ていないか聞いてまわります。銭湯に来たことがある人ばかりなので、爺やがどんな見た目のインコなのか、みんな知っています。

 通りかかったケンとショウが、虫取り網とザルを手に助太刀しました。

「ジーヤが逃げたんだって? 俺に任せろ! このひっさつアルティメット網があればセミだろうとカブトムシだろうと捕まえられるぜ!」
「僕はこれもってきたよ! うめぼしを干すザル!!」
「頼もしいのう」

 ご近所さんもカゴやらザルやら持って手伝いに来てくれました。

「わたくしも助太刀いたしますわ!」

 と、マージョもお買い物袋を手に参戦します。
 みんなが迷子になってしまった(と思いこんで)爺やを探しに各地に散開します。

 一時間後。

『ぎゃーー! たーすーけーてーー!』

 のどか村のみんなに追い回され、最終的にケンのひっさつアルティメット網が炸裂しました。


『うっうっ。人間め、人間めぇぇ! サンダーバードに戻れたあかつきには仕返ししてやるぅ!』
「何事もなくて良かったのう爺や。最近このへんにトンビがたくさんいると聞いたから心配だったんだ」

 ネズミなどの小動物を捕食する猛禽類なので、小さい|爺や《インコ》なんて見つかった途端食べられてしまうでしょう。

 うっかり外に出たらトンビに食われるか村のみんなに捕獲されるかの二択。
 
 泣く泣く籠に戻る爺やでした。


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