六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

「そういえば登呂さん。リュウはお食い初めがまだじゃったのう」

 ある日トメさんが、お料理本を読みながら言いました。
 地域差はありますが、お食い初めは赤ちゃんが生まれてから100日から120日くらいに行う儀式です。
 魔王も育児本を読んで知識を得ていましたが、機会を逃していました。
 

「リュウの正確な誕生日がわからんからのう。明日仕事が休みだからやろうか」
「それじゃあ鯛と赤飯を用意しないとね。梅干しは去年つけた良いのがあるんだよ」
「楽しみだのう」

 翌日。魔王が借りている六畳間にてリュウのお食い初めが行われました。
 食べさせ役は家族の中で年長者がやるのが習わしなのです。
 せっかくなのでトメさんにお願いします。

 トメさんお手製のお赤飯、ハマグリのお吸い物、麸の荷物にたくあん、梅干し。それから歯固め。
 ご近所のみなさんが、リュウのためにと食材を提供してくれました。

 魔王がリュウを抱っこして、トメさんが順番にリュウの口元に持っていきます。

「強くていい歯が生えるといいのう、リュウ」
「毎日お父さんがミルクをたくさん飲ませてくれるし、たくさん寝ているから、大丈夫さね」

 トメさんの太鼓判をおされたなら大丈夫、という気がしてくる魔王です。

 リュウのお食い初めをやると話していたので、のどか荘の裏手に住む浦野先生もお祝いの品を持ってかけつけてくれました。

「おうおう、でかくなって。おれの孫んときもこんなふうだったなぁ」
「おお、せっかくだから先生にも頼もうか」

 トメさんと食べさせ役を交代し、浦野先生もたくあんを箸で取ってリュウの口元に近づけます。
 最後に浦野さんがリュウを抱っこしてくれて、魔王が歯固め石をリュウの口元に運びます。


「あう〜」
「おお、そうだの。お主がものを食べられるようになったあかつきには、真似でなくきちんと一緒に食べような」

 魔王の言葉を理解したのか、リュウは両手を広げて嬉しそうです。

 お料理はトメさんと魔王、浦野先生で美味しくいただきました。人間用に味がついたものなので、相伴に預かれなくてケルベロスは残念そうです。

 お食い初めの写真もきっちりスマホにおさめ、1日で100枚も撮って爺やに『撮りすぎです!』とお小言を言われる魔王なのでした。



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