六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

「うーむ。まさか魔女がリュウのほうを魔王だと勘違いしていたとは」

 炭弁当を渡された後日。
 魔王は仕事が休みなので、散歩のあとリュウをあやしていました。

『昨日は危なかったですね、魔王さま』
「それだ、爺。あやつらもおそらく翻訳スキルを使える。お主のそれを聞かれたら、いずれ儂のことだと気づくやもしれぬ」

 爺やは籠の中で羽をバサバサさせて困り果ててしまいます。

『しかし魔王さまは魔王さまですから』
「皆が儂を登呂と呼ぶのだ。それに合わせていればよい」
『ぬぬぬ、配下として主の命は絶対……お命を守るため仕方ありませんね。では、登呂さま』
「それでよい」

 ガラガラを鳴らしてやれば、リュウがきゃっきゃと笑います。
 あまりの可愛さにスマホで連写したら、メモリ不足と画面の真ん中に表示されてしまいました。

「ぬう。カメラフォルダがいっぱいになってしまった。どうしたものか」

 音成さんに相談をしたら、必要なものだけプリントアウトしてアルバムに入れてみては? とアドバイスをくれました。
 要領を増やすメモリーカードも雑貨屋で買えるそうです。

「登呂さん、持ってきましたよ。これがプリンターです」
「おお、助かるのぅ」

 音成さんは気を利かせて、家で使っているフォトプリンターを貸してくれました。
 説明を聞きながらスマホと接続して、何分もしないうちにプリンターからリュウとケルベロスの写真が出てきます。

「おおおお、なんと素晴らしい!」
「こっちのアルバムも買いすぎて余ってたんで差し上げますよ」
「ありがたい」

 10000枚を超えた写真の中から厳選した写真を印刷してアルバムに入れ、眺めてホクホク顔になる魔王。

「人の成長というのは尊いのう。最初の頃のリュウはこんなに小さい」
「確かに、リュウくんは大きくなりましたよね」

 もうすぐ育て始めて五ヶ月になります。あっという間に歯も生えてお食い初めというのをするようになるはずです。
 どんどん増える成長記録が嬉しくて、魔王はアルバムをリュウに見せます。

「あう〜!」
「ほらリュウ。そなたの成長記録だ。たくさん作るからな」
「わんわんわん!」

 ケルベロスも、自分の記録もほしいと言いたげに吠えます。

「そうだ登呂さん。まだリュウくんと登呂さんでの写真は撮ってないんじゃないですか? よかったら撮りますよ」
「いいのか? では頼もう。ケルベロスと爺もこい」

 遠慮する爺やを籠から出して、リュウを抱っこしてのどか荘の前で一枚。
 それからトメさんも入って一緒に撮りました。

 これが生まれて初めての家族写真。
 早速プリントアウトして、もらった写真立てに入れて机に飾ります。

「トロー! 遊びに来たぞー!」
「トロさーん!」

 どうやらケンとショウが遊びに来たようです。またベビー服やおもちゃをたくさん抱えています。

 今日ものどか荘は平和そのもの。

「登呂さん! 今日こそは食べてくださいませ!」
「ねえさ、じゃないマージョちゃんそれは人に食べさせられる代物じゃないって」
「昨日より上達したのですわ」

 ……マージョが危険物さえ持ってこなければ。




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