六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 マージョが日本に来て半月。
 サン姉弟は作戦会議を開きました。

「というわけで、姉さんの方はなにかわかりましたか」
「銭湯に入るときおばさまがたに話を聞いているのですけど。隣近所の家庭事情に詳しくなったくらいですわ」

 ユーシャお手製チャーハンをほおばりながら、マージョは首を左右に振ります。

 小田家の料理番はもっぱら小田とユーシャです。
 マージョは何を作ろうとしても炭が生成されるので、料理に挑戦して二日目で【マージョに料理させるべからず】の鉄則が生まれました。

 元の食材がわからないほど炭化した物質が出てきたときの衝撃は、今思い出しても身震いします。

「私は電車で近くの街を探し歩いているのですが、それらしい情報は得られていません」
「残念ですわ」

 乗り方を教わって以降、電車で情報を求めて方々探し歩いています。
 探しているその魔王がすぐ近くに住んでいるなんて、毛の先ほども思っていない二人。

「わたくし、思うのですけど。この近辺に巨大なドラゴンの脅威に晒されたような痕跡ありませんでしょ? もしかしたら魔王は魔法の力で人に化けて、異界に戻る日を狙っているのではありません?」
「まさか。尾のひとふりで町を吹き飛ばす、大きなドラゴンですよ? 人の姿になるなんて」
「そうでもないと、ここまでなんの被害もないなんて考えられませんでしょ」

 マージョの予想は当たらずとも遠からず。
 化けたのでなく、呪いで人の姿にされたのが現実です。異界に戻ろうと考えてもいません。

「わたくしたちが日本に来てから、この地で起きた異変といいますと……登呂さんがリュウという子を拾ったことでしょうか」
「私たちが飛ばされてすぐそばにあった、あの川を流れてきたと聞きました」

 姉弟が考え、一つの答えに行き当たりました。

「そうか。リュウくんが魔王なのでは!?」
「それですわ。それなら何も被害がないのも当然。きっと変化の術に失敗して赤ちゃんになったのよ!」

 斜め上の方に飛んでいく予想。

「そうよ。人間の脅威にならないよう、教育すればいいのよ。そうと決まれば!」

 マージョは家を飛び出してまっすぐ銭湯に向かいました。

「登呂さん! わたくし決めましたわ!」
「き、決めたとは、なにを?」

 入ってくるなり叫ぶマージョに、登呂も客たちも目が点です。


「わたくしがリュウのお母さんになりますわ! まっとうな人間に育て上げるのです!」

“変わり者ユウの妹が、変なことを言い始めた”とご近所の噂になったのは言うまでもない。


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