六畳一間の魔王さまの日本侵略日記
八月のある日。
ユーシャは小田と一緒にのどか 村駅にいました。
電車に乗れるようになれば、のどか村以外の都市に行くことができます。
魔王を探す範囲を拡げるため、電車の乗り方を教えてもらうことにしたのです。
今日も今日とて、ピコハンを空に掲げて誓います。
「フッフッフッ。待っているがいい魔王バルトロメウス! どこに潜んでいようと、私が必ずや討ち取ってみせよう」
「はいはい。わかったからピコハンをしまって、ユウさん。人前でやるとただの痛い人だから。あとついでに、家の前でホウキ持って素振りするのはやめて」
「毎朝の素振りは騎士として必要なことだ。いつ魔王が攻めてくるかわからないじゃないか」
騎士として暮らしていた頃の癖で、ユーシャは毎朝5時起床。
剣の代わりにホウキで素振りをしているのです。
テレビのレコーダーに残っていた大河ドラマを全話一気観したせいで、しばらくの間「どこに行けば坂本龍馬に会えますか。彼から剣術を学びたい」と言っていました。
演劇だと知ったときユーシャは落ち込み、その日の夕食でごはんのおかわりをできませんでした。(普段は三回おかわりする)
「いい? 各駅へ行くのにいくらかかるか運賃表に書かれているから、それを確認して切符を買うんだ。今日はオオキナ駅で降りるから310円」
「わかった」
教えられたとおりに券売機に小銭を入れてボタンを押すと、細いところから小さな紙がニュッ! と出てきました。
表面に【310円大人発行当日のみ有効】と印字されています。
「お金はどこに消えたんだ?」
「ボクらには見えないだけで、奥に入ってるよ。鍵を持っている人だけが中のお金を取り出せる」
「盗難防止になっているんだな。あちらの世界にもこういうものがあれば窃盗が減りそうだ」
異界では盗賊による窃盗がたびたび発生していたので、騎士たちは手を焼いていました。
「うーん、そっちに持っていっても動かないと思うよ」
「そうか。残念だ」
小田は一緒に暮らしている間に、ユーシャの世界のことを色々と聞きました。
ユーシャがいた異界は電気技術が発展していないようなので、機械を持っていっても稼働しません。
「それより、もうすぐ電車が来る時間だから早く。ほら、あれが電車」
二両編成の電車がガタゴト音を立ててホームに滑り込んできます。
「こ、こんなに大きい鉄の塊が動くなんて」
「感動するのは乗ってからにして。発車しちゃうよ」
小田はユーシャの腕を引っ張り電車に乗り込みました。
夏休みということもあり、私服姿の学生が何人も座席に座っています。
「あそこに見えるのは」
「電波塔です」
「あれは」
「パチンコ屋です」
日本で目にするものすべてが初めて見る物だから、ユーシャは外を見ながら小さい子のようになんでも聞いてきます。
自分も親に連れられて初めて乗ったときはこんな感じだったなと思い出して、小田はこっそり笑います。
親は年に一回テレビ電話してくるくらいで、兄は全然帰ってこない。
一人で暮らすのにだいぶ慣れたつもりだったけど、ユーシャが来てから考えが変わりました。
広い家に一人でいるのは寂しかったし、ユーシャの面倒を見るのは楽しいのです。
日本の常識を知らないから斜め上な行動をとることもありますが、悪い人ではありません。
《次はーオオキナ駅ーオオキナ駅ー。お降りの方はーー》
目的の駅が近づきアナウンスが流れます。
「さ、降りるよユウさん」
「もう着くのか。残念だ」
「帰りも乗れるから落ち込まなくていいよ」
ユーシャが魔王を見つけて倒したら、またひとり暮らしに戻ることになります。
二人で電車を降りながら、小田は「魔王を見つける日が、一日も遅くなればいいのに」なんて考えてしまうのでした。
ユーシャは小田と一緒に
電車に乗れるようになれば、のどか村以外の都市に行くことができます。
魔王を探す範囲を拡げるため、電車の乗り方を教えてもらうことにしたのです。
今日も今日とて、ピコハンを空に掲げて誓います。
「フッフッフッ。待っているがいい魔王バルトロメウス! どこに潜んでいようと、私が必ずや討ち取ってみせよう」
「はいはい。わかったからピコハンをしまって、ユウさん。人前でやるとただの痛い人だから。あとついでに、家の前でホウキ持って素振りするのはやめて」
「毎朝の素振りは騎士として必要なことだ。いつ魔王が攻めてくるかわからないじゃないか」
騎士として暮らしていた頃の癖で、ユーシャは毎朝5時起床。
剣の代わりにホウキで素振りをしているのです。
テレビのレコーダーに残っていた大河ドラマを全話一気観したせいで、しばらくの間「どこに行けば坂本龍馬に会えますか。彼から剣術を学びたい」と言っていました。
演劇だと知ったときユーシャは落ち込み、その日の夕食でごはんのおかわりをできませんでした。(普段は三回おかわりする)
「いい? 各駅へ行くのにいくらかかるか運賃表に書かれているから、それを確認して切符を買うんだ。今日はオオキナ駅で降りるから310円」
「わかった」
教えられたとおりに券売機に小銭を入れてボタンを押すと、細いところから小さな紙がニュッ! と出てきました。
表面に【310円大人発行当日のみ有効】と印字されています。
「お金はどこに消えたんだ?」
「ボクらには見えないだけで、奥に入ってるよ。鍵を持っている人だけが中のお金を取り出せる」
「盗難防止になっているんだな。あちらの世界にもこういうものがあれば窃盗が減りそうだ」
異界では盗賊による窃盗がたびたび発生していたので、騎士たちは手を焼いていました。
「うーん、そっちに持っていっても動かないと思うよ」
「そうか。残念だ」
小田は一緒に暮らしている間に、ユーシャの世界のことを色々と聞きました。
ユーシャがいた異界は電気技術が発展していないようなので、機械を持っていっても稼働しません。
「それより、もうすぐ電車が来る時間だから早く。ほら、あれが電車」
二両編成の電車がガタゴト音を立ててホームに滑り込んできます。
「こ、こんなに大きい鉄の塊が動くなんて」
「感動するのは乗ってからにして。発車しちゃうよ」
小田はユーシャの腕を引っ張り電車に乗り込みました。
夏休みということもあり、私服姿の学生が何人も座席に座っています。
「あそこに見えるのは」
「電波塔です」
「あれは」
「パチンコ屋です」
日本で目にするものすべてが初めて見る物だから、ユーシャは外を見ながら小さい子のようになんでも聞いてきます。
自分も親に連れられて初めて乗ったときはこんな感じだったなと思い出して、小田はこっそり笑います。
親は年に一回テレビ電話してくるくらいで、兄は全然帰ってこない。
一人で暮らすのにだいぶ慣れたつもりだったけど、ユーシャが来てから考えが変わりました。
広い家に一人でいるのは寂しかったし、ユーシャの面倒を見るのは楽しいのです。
日本の常識を知らないから斜め上な行動をとることもありますが、悪い人ではありません。
《次はーオオキナ駅ーオオキナ駅ー。お降りの方はーー》
目的の駅が近づきアナウンスが流れます。
「さ、降りるよユウさん」
「もう着くのか。残念だ」
「帰りも乗れるから落ち込まなくていいよ」
ユーシャが魔王を見つけて倒したら、またひとり暮らしに戻ることになります。
二人で電車を降りながら、小田は「魔王を見つける日が、一日も遅くなればいいのに」なんて考えてしまうのでした。