六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 魔王が日本に飛ばされてから、ひと月が経ちました。
 本日初めての給料日を迎え、いつもよりテンションが高めです。
 銭湯を経営している雇い主、千頭さんは厚い茶封筒を魔王に手渡します。

「ありがとう、登呂さん。これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそ、感謝するぞ」

 魔王は給料袋を大切に受け取ります。

 本日はバイトが半日なので、仕事あがりに家賃の支払いと、リュウを育てるのに必要なものを買おうと決めていました。

「リュウの粉ミルクとおしりふきとオムツを買わねばならん。ケンのところの店で買えるかの」
「自分の買い物はしねーのかい」
「自分用に買いたいものはないのう。リュウのために使うのが有意義だろう」

 元がドラゴンなので、人間のような物欲が無いに等しいのです。
 お腹が減ったら何か食べたいなと思うくらい。
 食事はトメさんが作ってくれるので困っていません。

 なら何かと物入りになるだろうリュウのために使おうと考えただけです。
 千頭さんは天井を見上げ、バンダナで目元を隠します。

「くっ。いけねぇ、雨が降ってきやがった」
「ほう。屋内でも雨は降るのだな」
「給金を弾むから、バイトと言わず正社員として働いてくれないか」
「助かるのう」

 魔王バルトロメウス、バイト歴一ヶ月にして正社員に昇格。




 のどか荘に帰ってすぐ、トメさんに家賃を払いました。

 「トメ、家賃を払うのが遅くなってすまなかったのう。食事の費用も入れておいた」
「あらまあ。ありがとうねぇ登呂さん」

 トメさんは封筒の中身を確認して、家賃用の手持ち金庫にしまいます。

「このあと買い物に行くんらろ。リュウくんを連れたままだと大変だろうから、おれが見ていてやるて」
「すまんのう」

 トメさんからもらった手縫いのサイフにお金を入れて、準備万端です。

「ワンワン!」
「ぬう。ケルベロスも行きたいのか? しかしたくさん買い物をすると両手が塞がるだろうからな。諦めてくれ」
「くぅ〜ん」 
『いえ、魔王さま。ケルベロスは“イヌまっしぐら ビーフ味”が食べたいと』

 イヌまっしぐら。
 ケンが「ポチ郎が食べなくなったからやる」と言って持ってきてくれた犬エサです。
 ちょうど三日前に底をついたので、ねこまんまに戻っていました。

「ふむ、ケンのところでイヌまっしぐらも売っているかの?」
「犬エサ猫エサ小鳥のエサひと通り扱っとるよ」
「ならそれも買おう」

 魔王は買うものをメモして、はじめてのお買い物に出発しました。



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