六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 拾った赤ちゃんを育てると決めたものの、人間どころか生き物を育てたことなどない魔王。
 さっそく悩むことになった。

「ふぎゃ、あぅ!」
「爺。コヤツはなんと言っておるのだ」
『爺も人間のことはわかりかねます。魔王さまの翻訳スキルでなんとかなりませんか』
「全くわからん。とりあえず幼体の育て方を知っている者を配下に加えよう。人の姿なら人里に紛れても問題あるまい」

 ケルベロスが自信ありげに吠えて、ある方角に歩き出します。

「ふむ。ついてこいと申すか。頼もしい限りだ」

 魔王はケルベロスのあとに続いて歩きます。 

 しばらく歩くと、民家が見える場所に出ました。

 足元は土ではなく、灰色の平らな道にかわります。

 道の脇に畑があり、腰を丸めたおばあさんが野菜の手入れをしているのが見えました。
 この世界の人間なのだから、少なくとも魔王より赤ちゃんの育て方に長けているでしょう。

 そうふんで、魔王はおばあさんのそばまで行き命じました。

「そこの人間よ。この幼体を育てる方法を知らぬか」

 おばあさんは雑草を引っこ抜く手を止めて魔王の方を向き、腰を抜かしました。

「はああああ!? あ、ああ、あんた、なんで裸なん!? チカン!? それにその赤ん坊はなんなん!? け、警察!! おまわり呼ばにゃあ!」
「おお、ケイサツ? というのはよくわからんが、儂はこの世界でも恐れられる存在なのか。ふはははは!」

 翻訳スキルのおかげで会話はできますが、警察を呼ばれるのはまずいことだと、微塵も理解してません。

『サスガです魔王さま。小さき姿でも人間に恐れられるとは』 

 ワンワン! とケルベロスも吠え、赤子もぎゃあぎゃあ泣きます。

 馬鹿でかい叫び声と泣き声を聞きつけ、近くで農作業していた数名もやってきて、さらに大騒ぎとなるのでした。


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