六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 田舎の中の田舎、のどか村にもひとつだけ高校があります。
 その名ものどか・・・高校。
 のどか高校一年、小田おたは昨日配られたビラを手にして心躍らせていました。

 町内会長のカツラがふっとんだくらいしか事件がなかったこの村に、事件が起きたのです。

 ご近所に住む幼児ケンとショウが遭遇したというので、人相書きを描いてもらいました。



 角が生えていて、鎧を着ていて、剣を持っています。

「本当にこんなやつがいたのか」
「そーだぞ! すげー危ないヤツだからオタのにーちゃんも気をつけろよ! なんなら俺の水鉄砲貸すぞ」
「ぼくの泥団子もあげるよ!」

 子どもたちの善意を丁重にお断りして、小田は一人で林に向かいました。

「あぁ、ワクワクするなぁ。もしかしてこの人って異世界転移してきた戦士かな。異世界転移ってアニメの中だけの話じゃなかったんだ。異世界の文化がどんな風か聞いてみたいな」

 ぶっちゃけた話、小田は中二病を患って三年目に突入しておりました。
 一番好きなアニメは【異世界の勇者様が日本に転移してきた】
 異世界転移は大好物のネタなのです。

 しばらく進むと、焚き火の煙が見えました。その煙を頼りに歩くと、焚き火のそばに白鉄の鎧をまとった剣士がいました。

「キターーーー! ほんとにいた! いかにも異世界人っぽい人!」

 小田の声に驚いて、ユーシャが飛び起きました。すぐさま剣を構えますが、声の主が人だと気づいて安堵の息をつきます。

「きみは……?」

「ボクは小田っていいます。あなたは、異世界から来たんですか」

「なぜそれを」

「異世界転移は鉄板ネタですから!」

 鉄板てなんやねんとツッコむ人もおらず。

 そして小田に日本の法律なんたるかを説明され、ユーシャは初めて人々に逃げられている理由を理解しました。

「銃刀法違反、だと……」
「あ、はい。一般人が武器を持ってちゃいけないって法律があるんです」

 地面に膝と手をついてうなだれるユーシャ。

「そんな。魔王を倒してこいと、陛下から勅命を受けているのに」

「いやー、そもそもこの世界にドラゴンもケルベロスもサンダーバードもいないですよ。ええと、ユーシャさんにわかりやすい言葉で言うなら、演劇や書物の中にしかいない空想の生き物」

「し、しかし、確かにこの世界に飛ばしたと、国一の魔法使いたちが言っていたんだ」

 たしかにこの国にいるのだと言われても、小田は現実の世界でドラゴンやケルベロスを見たことがありません。

「ええと、とにかくうちに来ます? ずっとここにいても、魔王を探せないでしょ」
「あ、ありがとうございます。助かります!」



☆ユーシャは中二病な高校生と出会い野宿を脱した。

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