六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 さてさて、なぜユーシャが指名手配一歩手前にまでなっていたかといいますと

 理由は魔王がお知らせを受け取った時間から三時間さかのぼります。

 畑で第一村人たちに追い立てられたユーシャは、たまたま機嫌が悪かったのかと思い、他の場所に移動しました。
 大人がだめなら、と空き地で遊んでいた子どもたちに声をかけます。

「きみたち。このあたりで巨大な黒いドラゴンを見なかったか。サンダーバードかケルベロスでもいい」
「ぎゃ! なんだあんた! あれか! トクサツに出てきた悪モンだろ! やっちゃえやっちゃえ!」

 勝ち気そうな方の子どもが、ユーシャに向かってタンク付き水鉄砲を噴射しました。

「ぼくも戦うよケンちゃん! こいつ大きな刃物持ってるし、変なカッコだし悪いやつだ!」

 帽子をかぶった背の低い子が、作っている最中だった泥団子を振りかぶります。
 べションと音を立ててユーシャの鎧にあたりました。

「な、な、子どもまでが私を攻撃するなんて。翻訳スキルがうまく働いていないのか!? とにかく、私は怪しい者じゃない。話を聞いてくれ」
「なんかよく知らんけどやっちゃえー!」
「あっちいけ悪者ー!」

 泥と水鉄砲の噴射でビッチャビチャになりながら、再び林の中に逃げ込みました。


 そんなわけで、日がとっぷり暮れてユーシャは林の中で野宿の用意をしていました。

 なぜ同族である人間に敵視されているのか、何度考えても理解できません。
 焚き火を前に苦悩します。
 
「……早く寝よう。明日も夜明けとともに起きて魔王を探さなければ。魔王と幹部たちが人里を踏み潰し、この国を支配してしまうかもしれない。そうなる前に止めないと」

 魔王たちが呪いで無力化しているので、人里を踏みつぶすのはユーシャの行き過ぎた妄想ですが、ある意味で半分当たりです。

 魔剣を鞘から抜いて、必ず魔王を仕留めると、月に誓いを立てます。

 異界と違って日本には【銃刀法】という法律があること、その剣を持っているといつまでも人に話を聞いてもらえない、とユーシャが気づくのはいつになるでしょう。


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