六畳一間の魔王さまの日本侵略日記

 魔王が銭湯でバイトしている頃、魔王が落ちてきたあの川辺に人影が現れました。

 魔法陣に包まれて出てきたのは甲冑を身に着けた長身の青年です。
 腰には魔剣と呼ばれる魔物に効果のある大剣。
 名をユーシャ・サンと言います。

 異界送りにした魔王一派の生体反応が途切れないため、まだ息があると判断した王国が、ユーシャを派遣したのです。


「ここは……。あたりが木ばかりで何もわからないな。とにかく人里に出るまで歩いてみるか。あれだけ巨大なドラゴンがいるなら、目撃情報があるはず」

 ユーシャは川沿いに歩き出しました。
 やがて舗装された道に出て、路傍で農作業している人が見えます。

「そこの農民よ。すまないが私は魔王バルトロメウスとその幹部を探してここに来た。協力をーー」

 ダイコンを引っこ抜いているおばあさんに声をかけると、おばあさんは叫び声をあげて腰を抜かしました。

「ひいいいえええええっ! な、なんね、その物騒な刃物は!? おらたち老い先短いのを殺したって何もなんねえぞ!」
「順さん呼ぶべ! はよぅ! こんの、怪しい奴め! うちのばあさまに何するが! 銃刀ホー違反だで!」

 おじいさんは雑草を取るのに使っていたカマを振り上げて怒鳴ります。

「な、わ、私は怪しいものではありません! 魔王の脅威からあなた達を助けるため異界から来ーー、いたたたた、石を投げないでください!!」

「んなけったいなかっこうして、でかい刃物持って来よるやつが怪しくないわけあるか!」

 鉄鎧に身を包んでデカい剣を持っている男。
 どう見ても危険人物です。
 ユーシャは日本の事情など知る由もありません。


 なんとか翻訳スキルで相手の言っていることがわかったものの、ユーシャに怯えているし威嚇してきます。

 あちらの国民なら「魔物を狩ってくださるんですね」と泣いて喜ぶのに。

 相手がこちらを刺さんばかりの剣幕とはいえ、人間相手に剣を振るうことはユーシャの騎士道が許しません。

 話し合いできそうもないと判断して、ユーシャは林に逃げ戻ることになりました。

 魔王たちの息の根を止めるまで帰ってくるなと言われているのに、異界の人間たちと会話すらままならない。
 任務達成できるかどうか先行き不安になるのでした。


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