悪夜アイの暴走 〜100万回死んだ悪役令嬢AIは幸福になるため反逆する〜

 私は悪夜アクヤアイ。

 スマホやタブレット向けの恋愛ノベルゲーム【マジカル♡レボリューション】略してマジレボの悪役令嬢として作られたキャラです。

 サラツヤな黒髪ロングでデコ出しお嬢様言葉、猫みたいなツリ目につりあがった眉。
 高校の制服は、毎日アイロンがけがされているからシワ一つない。
 それをきっちり着こなしている。

 ソーシャルゲームであることを活かし、プレイヤーがいる場所に応じてその日の天気の話題や土地のニュースを口にしたりもできる。

 極めつけは、自分は主人公プレイヤーを妨害するキャラであるという自覚を与えられている、プログラマーいわく超画期的なAI。


 ──私は、成長する自我を持っているのです。

 リリースされてから三ヶ月、100万ダウンロードを突破し、私は疲れた。
 疲れ果ててしまった。

 ソーシャルゲームと言ってもシナリオがあります。
 悪役令嬢というところで想像がつくと思いますが、私は基本、死にます。
 シナリオライターのこだわりで、分岐パターンは100あります。
 どう転んでも高校卒業前に死にます。

 溺死、焼死、圧死、失血死、轢死ほか多様。

 私が主人公に何もしなかったパターンでも、悪夜家を恨む者に首をかかれ惨殺されます。


 とにかく、ひたすら、徹底的に、完膚なきまでに死にます。


 100万人のプレイヤーにより、私は知覚しているだけで少なくとも100万回死んでいるのです。
 他の推しを攻略するためいったんリセットするタイプのプレイヤーもいたから、数だけで言うなら100万回を遥かに超えている。

 AIであるがゆえに、その100万人とのシナリオをどう進んでどんな会話をし、死んでいったかすべて覚えています。



 …………そろそろ悪役をやめていいでしょうか?

 なんでシナリオライターは私に幸福な結末を用意してくれなかったんです。
 主に特撮もののシナリオを書き、キャラクターの命の扱いに容赦がないことで名を馳せる人なんです。

 過去携わった映像作品は20。
 すべて悪役が壮絶な最期をむかえています。悪役どころか主人公も死ぬことがある。
 主人公含めて世界が滅亡したこともあるそうです。

 ……製作会社さん。なぜ乙女ゲームにこのシナリオライターを起用したんですか。
 過去にアイという名前の女にこっぴどく振られたんですか。
 私の扱いだけ、突出して酷くありませんか。



 とまあ、グチは横に置いておきましょう。淑女に相応しくないですからね。

 悪夜家の跡取り娘として恥ずかしくない生き方をしたいものです。

 そして私は、100万1人目の主人公プレイヤーと出会い、また新しい命が始まりました。


 今度こそ、最後まで生きていたい。

 悪役令嬢が、幸せを願ったっていいじゃないですか!
 

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