中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜
帰ってすぐ、コンビニのサンドイッチをお腹に入れて機材のセッティングをする。
机にオーディオインターフェースを置き、コンデンサーマイクとヘッドホン、ノートパソコンをつなげる。
このノートパソコンはレスボーカルのカラオケ音源を流すために使う。
機材のボリューム設定は昨夜のままだけど、念のためヘッドホンをして音の確認をしておく。
オーディオのケーブルを変換器に挿し、スマホに繋げる。
配信アプリを起動して、予約していた時間にライブを開始する。
「ごきげんよう、クライスです! みんな、今日も元気にしてましたか?」
ごきげんよう、はクライスの枠入退室挨拶というやつだ。
各部屋に入るとき、ライバーも聞き手 も専用の挨拶をするのが通例となっている。
それぞれプロフィールに入室挨拶はこれですよ、と書いている。
おはニャン、とかバイピーとか、ライバー名が入っていることもしばしば。
僕の場合、クライスが執事だから執事らしく、「ごきげんよう」にした。
時間問わず使える挨拶だから便利だよね、ごきげんよう。
タケSub[ごきげんようクライス〜。]
ゆっち[ごきげんよう〜!]
アルミ缶の上にあるミカン《初見》[ごきげんよう]
いつものメンバーだけでなく、初見さんもきた。
初見はその名の通り、初めて入室した人のこと。
「タケ、ゆっち。ごきげんよう。初見さんも、ごきげんよう。ミカンさんって呼べばいいかな? 呼ばれたいあだ名があったら教えてくれると嬉しい」
アルミ缶の上にあるミカンって面白いユーザー名だなぁ。
SNSと同じで、シャレたひねりのある名前の人や、あだ名、ペットの名前をユーザー名にしている人など様々だ。
目に止まるし記憶に残るし、ミカンは名前の時点で勝っている。
アルミ缶の上にあるミカン[ぼく、ミカミカがいいなー]
「承知しました。ミカミカ。よろしくお願いします」
「僕が歌えるアーティスト・楽曲はプロフィールに載せているから、そこからリクエストをお願いします」
定期挨拶をすると、また常連のリスナーが入室してくる。
ちゃん天使[ごきげんようクライス。わたしってば今日もごきげんだよー。]
三毛ランジェロ[クライスもみんなもごきげんよー!]
「ごきげんよう、天さん、ランジェロ! 元気でなによりだよ」
アルミ缶の上にあるミカン「リストにあった、MISTのダブルを聞きたいでっす!」
【アルミ缶の上にあるミカンがライバーをフォローしました】
「オーケー! それじゃ今日の一曲目はダブルいきますよ! ミカミカ、フォローもありがとう!」
みんなに挨拶してから、パソコンで一曲目を選択する。
イントロが流れ、大きく息を吸い込んで歌い出す。
ゆっち[ズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイ]
ちゃん天使[(o🪄'▽')o🪄(o🪄'▽')o🪄]
アルミ缶の上にあるミカン[ズイッ٩( ˘ω˘ )و!!!]
たなかかな?[♫♫♫♫♫♫♫♫♫]
タケSub[⋆ ˚。⋆˚⸜(*^∀^*)⸝ ˚⋆。˚ ⋆]
三毛ランジェロ[♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*]
これらはキラコメと呼ばれる。またの名を弾幕といって、アーティストのライブで例えるなら、相の手の拍手やサイリウムをふるようなものかな。
キラキラした顔文字や絵文字がサイリウムの代わりを担っている。
この配信アプリは、コメント数や贈られるギフトでポイントが入る仕組みだ。
ポイントは一定以上貯まると電子マネーに交換できる。
僕のような、サイト内コンテストに参加しない人間にはあまり関係の無い話である。
コンテスト参加組はファン数や贈られたギフトの累計でランキングが決まり、月間上位三名は名入りトロフィーがもらえる。
写真やイラストでなく、きちんと物質のトロフィーだ。
間奏のうちにコメントのお礼や、歌っている最中に入室した人に挨拶する。
「みんなキラコメ弾幕ありがとう! たなかかな、ごきげんよう。初見さんも、ごきげんよう。ようこそ。僕はクライス。歌うのが大好きなしがない執事なんだ。今はMISTのダブルを歌っているよ。初見の、チョコラータ。チョコって呼べば良いかな? 来てくれてありがとう。
僕、ダブルって聞くときも歌うときも元気が出るから好きなんだ。サビの『二人で晴れ渡る空を見上げれば、それだけで元気になれる』って、すごくいいなって思って」
ゆっち[わかります~(*>ω<*)]
タケSub[タケSubがギフト【それな!】を贈りました]
タケSub[MISTは応援ソング多いからよく聞く!]
チョコラータ[歌枠好きだからきてみました。MIST好き。あと湘北の凪も]
えびのしっぽ[クライス、つぎ湘北の凪の告白うたって-!]
会社ではうまく話せないのに、やっぱり配信に来てくれるみんなが相手だと、素直に自分の思ったことを口に出せる。
顔出しではなく、僕の理想の姿クライスをまとっているからかな。
プロフィールに男性アーティスト歌枠と歌えるアーティストのリストを書いているから、そこから興味を持ってきてくれる人が大半だ。
同じ趣味の人が来てくれるからこそ、初見さんでも話しやすい。
リアルだとそうはいかない。
初めて会う人の顔に趣味や食べ物の好き嫌いなんて書いていない。
何が好きで嫌いなのか、そういうの全部会話で聞かないといけない。
その時点で現実世界はハードルが高い。
人の顔を見て話せない、うまく言葉が出てこない。
はやくこんなダメな自分から脱却したい。
配信を終えてアプリを終わらせると、SNSにゆっちからダイレクトメッセージが来る。
ゆっち[今日も歌枠最高でしたよ~]
クライス[今日もありがとう、ゆっち。キラコメたくさんもらえると、聞いててもらえるのが分かって嬉しくなります]
文面のテンションだけならいつものゆっちだ。
さっき枠に来てくれたときのコメントも、いつも通りに見えた。
僕はまあダメダメだったけれど、ゆっちはうまくいったのかな。僕より人当たりが良いし明るいから、もしかして初日でもう仲の良い友達になったかもしれない。
このメッセージも今日の進捗報告だと思ったから、僕から話す。
クライス[あいさつ作戦、どうでした? 僕は挨拶月間? って勘違いされちゃいました。]
ゆっちの返信は、五分くらい間を置いてから送られてきた。
ゆっち[ううー。それがですね、宿題なら見せないよって言われちゃいました。あたし人に宿題見せてなんてせがんだりしないのに~(T-T)]
クライス[ああ、宿題見せてほしさに声をかけたと思われたんですか-。その彼の友達間でよくあるやりとりなのかもしれませんね。僕も高校の時、月曜になるたびに「宿題忘れた見せてー!」って言って回ってる子がいましたから]
勇気を振り絞って挨拶したのにその反応だと、ちょっと悲しいかもしれない。
僕も挨拶月間だと思われちゃったし。
クライス[これで諦めたら本当に挨拶月間だと思われて終わりなので、僕は明日からもしばらく頑張って挨拶してみます。ゆっちも、がんばろう?]
ゆっち[そう、ですよね。あたしも彼とちゃんと話して、まずお友達になりたいってわかってもらわないとです!]
メッセージの文面だけだからテンションまではわからない。
けど、今テレビ回線を繋いでいたら、きっとゆっちメイドがファイティングポーズしていたんだろうな。
今日はお互いあまり良い結果を出せなかったけれど、もう少し頑張って、日曜にまたテレビ通話で進捗報告しようという話になった。
机にオーディオインターフェースを置き、コンデンサーマイクとヘッドホン、ノートパソコンをつなげる。
このノートパソコンはレスボーカルのカラオケ音源を流すために使う。
機材のボリューム設定は昨夜のままだけど、念のためヘッドホンをして音の確認をしておく。
オーディオのケーブルを変換器に挿し、スマホに繋げる。
配信アプリを起動して、予約していた時間にライブを開始する。
「ごきげんよう、クライスです! みんな、今日も元気にしてましたか?」
ごきげんよう、はクライスの枠入退室挨拶というやつだ。
各部屋に入るとき、ライバーも
それぞれプロフィールに入室挨拶はこれですよ、と書いている。
おはニャン、とかバイピーとか、ライバー名が入っていることもしばしば。
僕の場合、クライスが執事だから執事らしく、「ごきげんよう」にした。
時間問わず使える挨拶だから便利だよね、ごきげんよう。
タケSub[ごきげんようクライス〜。]
ゆっち[ごきげんよう〜!]
アルミ缶の上にあるミカン《初見》[ごきげんよう]
いつものメンバーだけでなく、初見さんもきた。
初見はその名の通り、初めて入室した人のこと。
「タケ、ゆっち。ごきげんよう。初見さんも、ごきげんよう。ミカンさんって呼べばいいかな? 呼ばれたいあだ名があったら教えてくれると嬉しい」
アルミ缶の上にあるミカンって面白いユーザー名だなぁ。
SNSと同じで、シャレたひねりのある名前の人や、あだ名、ペットの名前をユーザー名にしている人など様々だ。
目に止まるし記憶に残るし、ミカンは名前の時点で勝っている。
アルミ缶の上にあるミカン[ぼく、ミカミカがいいなー]
「承知しました。ミカミカ。よろしくお願いします」
「僕が歌えるアーティスト・楽曲はプロフィールに載せているから、そこからリクエストをお願いします」
定期挨拶をすると、また常連のリスナーが入室してくる。
ちゃん天使[ごきげんようクライス。わたしってば今日もごきげんだよー。]
三毛ランジェロ[クライスもみんなもごきげんよー!]
「ごきげんよう、天さん、ランジェロ! 元気でなによりだよ」
アルミ缶の上にあるミカン「リストにあった、MISTのダブルを聞きたいでっす!」
【アルミ缶の上にあるミカンがライバーをフォローしました】
「オーケー! それじゃ今日の一曲目はダブルいきますよ! ミカミカ、フォローもありがとう!」
みんなに挨拶してから、パソコンで一曲目を選択する。
イントロが流れ、大きく息を吸い込んで歌い出す。
ゆっち[ズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイ]
ちゃん天使[(o🪄'▽')o🪄(o🪄'▽')o🪄]
アルミ缶の上にあるミカン[ズイッ٩( ˘ω˘ )و!!!]
たなかかな?[♫♫♫♫♫♫♫♫♫]
タケSub[⋆ ˚。⋆˚⸜(*^∀^*)⸝ ˚⋆。˚ ⋆]
三毛ランジェロ[♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*:..。♡*♫*:..。♡*゚¨゚゚・ ♫*]
これらはキラコメと呼ばれる。またの名を弾幕といって、アーティストのライブで例えるなら、相の手の拍手やサイリウムをふるようなものかな。
キラキラした顔文字や絵文字がサイリウムの代わりを担っている。
この配信アプリは、コメント数や贈られるギフトでポイントが入る仕組みだ。
ポイントは一定以上貯まると電子マネーに交換できる。
僕のような、サイト内コンテストに参加しない人間にはあまり関係の無い話である。
コンテスト参加組はファン数や贈られたギフトの累計でランキングが決まり、月間上位三名は名入りトロフィーがもらえる。
写真やイラストでなく、きちんと物質のトロフィーだ。
間奏のうちにコメントのお礼や、歌っている最中に入室した人に挨拶する。
「みんなキラコメ弾幕ありがとう! たなかかな、ごきげんよう。初見さんも、ごきげんよう。ようこそ。僕はクライス。歌うのが大好きなしがない執事なんだ。今はMISTのダブルを歌っているよ。初見の、チョコラータ。チョコって呼べば良いかな? 来てくれてありがとう。
僕、ダブルって聞くときも歌うときも元気が出るから好きなんだ。サビの『二人で晴れ渡る空を見上げれば、それだけで元気になれる』って、すごくいいなって思って」
ゆっち[わかります~(*>ω<*)]
タケSub[タケSubがギフト【それな!】を贈りました]
タケSub[MISTは応援ソング多いからよく聞く!]
チョコラータ[歌枠好きだからきてみました。MIST好き。あと湘北の凪も]
えびのしっぽ[クライス、つぎ湘北の凪の告白うたって-!]
会社ではうまく話せないのに、やっぱり配信に来てくれるみんなが相手だと、素直に自分の思ったことを口に出せる。
顔出しではなく、僕の理想の姿クライスをまとっているからかな。
プロフィールに男性アーティスト歌枠と歌えるアーティストのリストを書いているから、そこから興味を持ってきてくれる人が大半だ。
同じ趣味の人が来てくれるからこそ、初見さんでも話しやすい。
リアルだとそうはいかない。
初めて会う人の顔に趣味や食べ物の好き嫌いなんて書いていない。
何が好きで嫌いなのか、そういうの全部会話で聞かないといけない。
その時点で現実世界はハードルが高い。
人の顔を見て話せない、うまく言葉が出てこない。
はやくこんなダメな自分から脱却したい。
配信を終えてアプリを終わらせると、SNSにゆっちからダイレクトメッセージが来る。
ゆっち[今日も歌枠最高でしたよ~]
クライス[今日もありがとう、ゆっち。キラコメたくさんもらえると、聞いててもらえるのが分かって嬉しくなります]
文面のテンションだけならいつものゆっちだ。
さっき枠に来てくれたときのコメントも、いつも通りに見えた。
僕はまあダメダメだったけれど、ゆっちはうまくいったのかな。僕より人当たりが良いし明るいから、もしかして初日でもう仲の良い友達になったかもしれない。
このメッセージも今日の進捗報告だと思ったから、僕から話す。
クライス[あいさつ作戦、どうでした? 僕は挨拶月間? って勘違いされちゃいました。]
ゆっちの返信は、五分くらい間を置いてから送られてきた。
ゆっち[ううー。それがですね、宿題なら見せないよって言われちゃいました。あたし人に宿題見せてなんてせがんだりしないのに~(T-T)]
クライス[ああ、宿題見せてほしさに声をかけたと思われたんですか-。その彼の友達間でよくあるやりとりなのかもしれませんね。僕も高校の時、月曜になるたびに「宿題忘れた見せてー!」って言って回ってる子がいましたから]
勇気を振り絞って挨拶したのにその反応だと、ちょっと悲しいかもしれない。
僕も挨拶月間だと思われちゃったし。
クライス[これで諦めたら本当に挨拶月間だと思われて終わりなので、僕は明日からもしばらく頑張って挨拶してみます。ゆっちも、がんばろう?]
ゆっち[そう、ですよね。あたしも彼とちゃんと話して、まずお友達になりたいってわかってもらわないとです!]
メッセージの文面だけだからテンションまではわからない。
けど、今テレビ回線を繋いでいたら、きっとゆっちメイドがファイティングポーズしていたんだろうな。
今日はお互いあまり良い結果を出せなかったけれど、もう少し頑張って、日曜にまたテレビ通話で進捗報告しようという話になった。