中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜
仕事を終えて、かなみさんたちと合流する。
かなみさんは頬を紅潮させながら、早口に言う。
「倉井さん、お疲れ様でした。あの、す、すごくよかったです。まさか良ちゃんの舞台でクライスのアナウンスが聞けるなんて」
「楽しんでもらえたなら、僕もがんばってよかった」
いつもは画面越しに送られてくる応援や感想を、こうして直接もらえるって嬉しいな。
初田先生も笑顔で拍手してくれる。
「ファッションショーもライブ配信というのも初めて見ましたが、興味深いですね。歩も仕事がなければ観に来たいと言っていました」
「あ。俺が撮った写真と動画があるからそれ送りましょうか」
田中さんがスマホを出して提案する。ちらっと見えただけで、数十枚撮影しているのが見えた。それ、会社で他の人に見せないよね。そう願いたい。
「それは助かりますねぇ。わたしは携帯で写真を撮らないものですから」
先生はのんびりと笑う。歩さんと旧友だという話だけど、たしかに二人は気が合いそうだなあなんて思う。 みんなでのんびり出店を見て回ろうかと話をしていると、ゆっちが駆け寄ってきた。
「クライスさん! よかった、まだいた。今日はありがとうございました。お疲れ様です!」
「あ、ゆっち。ゆっちもお疲れ様」
僕とゆっちは顔見知りだけど、他のみんなは初対面だ。ぽかんとして僕とゆっちを見ている。
そのことに気づいて、ゆっちを紹介する。
「この子はいつも配信に来ているゆっちだよ。ゆっち。こっちはたなか兄と、たなかかな? あと配信とは関係ないけど、初田さん」
かなみさんは目をぱちくりさせて、思わぬ対面に固まっている。
「え、ゆっち!? わー。俺、たなか兄だよ。リリーも可愛いけど本人もめっちゃ可愛いじゃん!」
田中さんが未だかつてないくらいにテンション高くなっている。
会社の女性社員相手でも、ここまでになったことはない。
「たなか兄《あに》さん? か、かわいい、って、あたしが? 初めて言われました……」
手放しで褒め倒されて、ゆっちは顔が真っ赤。挙動不審になっている。
あ、もしかして僕らお邪魔ですかね。
「リリーとは?」
初田先生は配信を知らないから、首をかしげている。
「僕がクライスをやっているように、彼女もリリーってキャラクターでたまに配信しているんです」
「そうなんですね」
ようやく硬直がとけて、かなみさんもゆっちと会えたことを喜んでいる。
「えと、あの、リリーにも会えるなんて、嬉しい」
「たなかかな? ちゃん、かなちゃんって呼んでいいのかな。あたしも会えて嬉しい。いつも配信に来てくれてありがとね。もうすぐ再開するから」
「う、うん。楽しみにしてる」
ゆっちは社交的だし、かなみさんも明るくて優しい子だし、ふたりはリアルでもいい友達になれそうだ。
今度あらためてちゃんとオフ会をする約束をして、帰路についた。
「ああ、すっごく可愛かったなあ、ゆっち。百合花ちゃんっていうのか、へへへへ」
「兄貴、変な顔で笑ってないでよ」
しまりない顔で電車のつりかわを掴む田中さんは、かなみさんに指摘されてもデレデレが直らない。
一目惚れってやつですかね。
「なあなあ倉井さん。ゆっちってどういうタイプの男が好みかなあ、彼氏いるのかな。いないなら俺にもチャンスが」
「そういうのは本人に聞いたらどうだろう……」
彼氏がいたら「九頭くんに告白したい」なんて相談をもちかけてこないから、あのあと彼氏ができたんじゃないかぎりはフリーだ。
ゆっちが新しい恋を見つけたら立ち直れる気がするから、心の中で応援しよう。田中さん、たまにから回るけど根はいい人だし、きっとゆっちと気が合う。
初田先生は珍しいモノを見るような目で田中さんを観察している。
「ちなみにお兄さんは彼女のどのあたりに惹かれたのでしょう」
「えー? 全体の雰囲気がかわいいし胸おっきいし明るいし声もかわいいし……ていうか先生、どうしてそんなことを聞くんだ?」
「心理学の研究です。異性がいても、誰もが同じ人に惹かれるわけではないでしょう。だから、聞いてみたんです。人とは何をもって恋愛感情にいたるのかと」
ぼんやりしているのかと思ったら、そんな小難しいことを考えていたなんて。
でも言われてみたら不思議だな。
なにがきっかけで恋愛感情になるんだろう。
「えと、私は、見た目だけじゃないと思います。だって、ちょくせつ会わなくても、ずっと、いいなって思ってたから。声とか、優しい話し方とか。うちのおばあちゃんも、おじいちゃんと出会ったきっかけは文通だったって言ってたの。いつもおばあちゃんを気遣う優しい言葉が綴られていて好きになったって」
かなみさんが微かに笑みを浮かべながら、ぽつりとこぼす。
隣り合って座り、かなみさんと触れた右肩が温かい。
直接会わなくても惹かれていたって、僕のことだったら嬉しいな。
だって僕も毎回配信で優しい言葉を贈ってくもらえて、すごく、嬉しかったんだ。
かなみさんは頬を紅潮させながら、早口に言う。
「倉井さん、お疲れ様でした。あの、す、すごくよかったです。まさか良ちゃんの舞台でクライスのアナウンスが聞けるなんて」
「楽しんでもらえたなら、僕もがんばってよかった」
いつもは画面越しに送られてくる応援や感想を、こうして直接もらえるって嬉しいな。
初田先生も笑顔で拍手してくれる。
「ファッションショーもライブ配信というのも初めて見ましたが、興味深いですね。歩も仕事がなければ観に来たいと言っていました」
「あ。俺が撮った写真と動画があるからそれ送りましょうか」
田中さんがスマホを出して提案する。ちらっと見えただけで、数十枚撮影しているのが見えた。それ、会社で他の人に見せないよね。そう願いたい。
「それは助かりますねぇ。わたしは携帯で写真を撮らないものですから」
先生はのんびりと笑う。歩さんと旧友だという話だけど、たしかに二人は気が合いそうだなあなんて思う。 みんなでのんびり出店を見て回ろうかと話をしていると、ゆっちが駆け寄ってきた。
「クライスさん! よかった、まだいた。今日はありがとうございました。お疲れ様です!」
「あ、ゆっち。ゆっちもお疲れ様」
僕とゆっちは顔見知りだけど、他のみんなは初対面だ。ぽかんとして僕とゆっちを見ている。
そのことに気づいて、ゆっちを紹介する。
「この子はいつも配信に来ているゆっちだよ。ゆっち。こっちはたなか兄と、たなかかな? あと配信とは関係ないけど、初田さん」
かなみさんは目をぱちくりさせて、思わぬ対面に固まっている。
「え、ゆっち!? わー。俺、たなか兄だよ。リリーも可愛いけど本人もめっちゃ可愛いじゃん!」
田中さんが未だかつてないくらいにテンション高くなっている。
会社の女性社員相手でも、ここまでになったことはない。
「たなか兄《あに》さん? か、かわいい、って、あたしが? 初めて言われました……」
手放しで褒め倒されて、ゆっちは顔が真っ赤。挙動不審になっている。
あ、もしかして僕らお邪魔ですかね。
「リリーとは?」
初田先生は配信を知らないから、首をかしげている。
「僕がクライスをやっているように、彼女もリリーってキャラクターでたまに配信しているんです」
「そうなんですね」
ようやく硬直がとけて、かなみさんもゆっちと会えたことを喜んでいる。
「えと、あの、リリーにも会えるなんて、嬉しい」
「たなかかな? ちゃん、かなちゃんって呼んでいいのかな。あたしも会えて嬉しい。いつも配信に来てくれてありがとね。もうすぐ再開するから」
「う、うん。楽しみにしてる」
ゆっちは社交的だし、かなみさんも明るくて優しい子だし、ふたりはリアルでもいい友達になれそうだ。
今度あらためてちゃんとオフ会をする約束をして、帰路についた。
「ああ、すっごく可愛かったなあ、ゆっち。百合花ちゃんっていうのか、へへへへ」
「兄貴、変な顔で笑ってないでよ」
しまりない顔で電車のつりかわを掴む田中さんは、かなみさんに指摘されてもデレデレが直らない。
一目惚れってやつですかね。
「なあなあ倉井さん。ゆっちってどういうタイプの男が好みかなあ、彼氏いるのかな。いないなら俺にもチャンスが」
「そういうのは本人に聞いたらどうだろう……」
彼氏がいたら「九頭くんに告白したい」なんて相談をもちかけてこないから、あのあと彼氏ができたんじゃないかぎりはフリーだ。
ゆっちが新しい恋を見つけたら立ち直れる気がするから、心の中で応援しよう。田中さん、たまにから回るけど根はいい人だし、きっとゆっちと気が合う。
初田先生は珍しいモノを見るような目で田中さんを観察している。
「ちなみにお兄さんは彼女のどのあたりに惹かれたのでしょう」
「えー? 全体の雰囲気がかわいいし胸おっきいし明るいし声もかわいいし……ていうか先生、どうしてそんなことを聞くんだ?」
「心理学の研究です。異性がいても、誰もが同じ人に惹かれるわけではないでしょう。だから、聞いてみたんです。人とは何をもって恋愛感情にいたるのかと」
ぼんやりしているのかと思ったら、そんな小難しいことを考えていたなんて。
でも言われてみたら不思議だな。
なにがきっかけで恋愛感情になるんだろう。
「えと、私は、見た目だけじゃないと思います。だって、ちょくせつ会わなくても、ずっと、いいなって思ってたから。声とか、優しい話し方とか。うちのおばあちゃんも、おじいちゃんと出会ったきっかけは文通だったって言ってたの。いつもおばあちゃんを気遣う優しい言葉が綴られていて好きになったって」
かなみさんが微かに笑みを浮かべながら、ぽつりとこぼす。
隣り合って座り、かなみさんと触れた右肩が温かい。
直接会わなくても惹かれていたって、僕のことだったら嬉しいな。
だって僕も毎回配信で優しい言葉を贈ってくもらえて、すごく、嬉しかったんだ。