中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜
月曜日。
かなみさんが通院するということで田中さんは半休を取った。
まだ一人で出歩くのは怖いから、家族の誰かが同伴してクリニックまで行く。
診療はじめの頃に比べたら、だいぶ会話ができるようになったというのは田中さん談。
僕はリアルで顔を合わせてからそんなに経っていないから、昔のかなみさんを知らないけれど、昔はもっと快活に話せる子だったらしい。
もとは明るかった子があそこまで人におびえるようになってしまったのだから、九頭たちの業は深いと思う。
僕も高校以来女性の目を見て話せなくなったから、笑い事じゃない。
仕事が終わると同時に、田中さんからラインが入った。
予定がなかったら駅前で一緒に夕ご飯食べよう。かなみもいるぞ
一人だとコンビニ弁当を買って終わらせてしまうだろうから、ここはお誘いを受けておこう。
OKのスタンプを返して、書かれている待ち合わせの場所に急ぐ。
二人は改札外、駅の案内看板の前にいた。
「倉井さん、こっちこっち」
「こんばんは。田中さん、かなみさん」
かなみさんはガチガチに固くなったまま首を縦に振る。うん、今日もすごく緊張しているね。
僕一人だとまず入らないであろう、ファミレスに入ってそれぞれ好きなものを注文する。
僕はハンバーグセット、田中さんは大盛りオムライスセット、かなみさんは単品のサラダ。
「……それだけでいいの? あまり食べる量が少ないと、体に悪いと思うよ」
「あ、で、でも」
太るのを気にしている、のかな。なんて言えば遠慮せずに食べてくれるんだろ。
「かなみ。倉井さんの好みは肉付きのイイ女だ。主に胸」
「それは田中さんでしょう」
「おうともよ。胸は最低でもEカップほしいよな。掴んでこぼれるくらいの肉がほしい」
「同意を求めないでくれません?」
そもそもモテないから、女性の体型の好みなんて考えたこともない。
かなみさんをはじめ、周囲の席の女性から白い視線が集中している。田中さん、これさえなければモテるのに。
「……まあ田中さんの好みは横に置いといて、食べ過ぎはよくないけど、食べなさすぎも体によくないよ。あ、そうだ。一皿食べるのが難しいならシェアしよう。ハンバーグにエビフライとクリームコロッケがついてるから」
僕の分のセットが運ばれてきて、店員さんに頼んで取り分け用の小皿をもらう。
ハンバーグを半分と、エビフライを皿に乗せてかなみさんの前に出す。ライスでなくパンにしていたから、パンも半分。
「さあ、どうぞ」
「あ、ありがとう、ございます。でもそれじゃ倉井さんの分が」
「僕は家に買い置きがあるから、帰ってからなにかしら食べられるし」
買い置きと言ってもカロリークッキーのたぐいだけど。
「うう、目の前で妹と同僚のイチャイチャを見せられる俺の立場グフゥ!」
嘆くふりをする田中さん、かなみさんから全力の肘鉄を食らって沈黙した。
三人分のご飯がそろって食事を始める。
田中さんがポテトを頬張りながら聞いてくる。
「そういや倉井さん、今日はなんか楽しそうだったな。日曜になんかあった?」
「あー……」
東京のファッション専門学校ファッションショーの司会というお役目。
綿貫先生と直接会って話し、本当に引き受けることになった。
僕ではなく、ビジョンにクライスのアバターを映して実況という形だ。学校の機材と僕の機材があればできる。顔は出さないで、あくまでもライバー執事のクライスとして請け負うという形をとっている。
今の段階でどういう流れでショーが進行するか大まかなところは決まっていて、あとは生徒たちが名簿順で一人ずつ舞台に上がって服を披露していく。
「それぞれの服のこだわりなんかも当日までにメモをもらっておくので、いい感じに合いの手も入れてもらえると助かります」とのことなので、だからこそライバーの僕に話が来たのかと納得した。名前だけ読み上げても盛り上がりに欠ける。
学校側のホームページで正式に公表されてから僕の枠でもお知らせすることになる。
「詳しく決まってから話すよ。今は話せないから」
「なんか悩み事なら気兼ねなく言えよな」
「ありがとう。そのときは頼ります」
そんなことをさらりと言ってくれるんだから、頼もしい限りだ。
「そうだ、かなみ。こんど一緒に行きたいとこがあるんだろ。話しちまえ」
「兄貴は黙ってて」
また肘鉄を食らう兄。学習しないなあ。
かなみさんはエビフライを飲み込んでから、一息ついて頭を下げる。
「また外に出るの、つきあってください」
「うん。いいよ。どこいこっか」
かなみさんと出かけるのは気分転換になるし、僕と気質が近いから話しやすい。
その一緒に行ってみたい場所、というのが、まさかの僕が司会をする予定の文化祭だから驚いてしまった。
かなみさんが通院するということで田中さんは半休を取った。
まだ一人で出歩くのは怖いから、家族の誰かが同伴してクリニックまで行く。
診療はじめの頃に比べたら、だいぶ会話ができるようになったというのは田中さん談。
僕はリアルで顔を合わせてからそんなに経っていないから、昔のかなみさんを知らないけれど、昔はもっと快活に話せる子だったらしい。
もとは明るかった子があそこまで人におびえるようになってしまったのだから、九頭たちの業は深いと思う。
僕も高校以来女性の目を見て話せなくなったから、笑い事じゃない。
仕事が終わると同時に、田中さんからラインが入った。
予定がなかったら駅前で一緒に夕ご飯食べよう。かなみもいるぞ
一人だとコンビニ弁当を買って終わらせてしまうだろうから、ここはお誘いを受けておこう。
OKのスタンプを返して、書かれている待ち合わせの場所に急ぐ。
二人は改札外、駅の案内看板の前にいた。
「倉井さん、こっちこっち」
「こんばんは。田中さん、かなみさん」
かなみさんはガチガチに固くなったまま首を縦に振る。うん、今日もすごく緊張しているね。
僕一人だとまず入らないであろう、ファミレスに入ってそれぞれ好きなものを注文する。
僕はハンバーグセット、田中さんは大盛りオムライスセット、かなみさんは単品のサラダ。
「……それだけでいいの? あまり食べる量が少ないと、体に悪いと思うよ」
「あ、で、でも」
太るのを気にしている、のかな。なんて言えば遠慮せずに食べてくれるんだろ。
「かなみ。倉井さんの好みは肉付きのイイ女だ。主に胸」
「それは田中さんでしょう」
「おうともよ。胸は最低でもEカップほしいよな。掴んでこぼれるくらいの肉がほしい」
「同意を求めないでくれません?」
そもそもモテないから、女性の体型の好みなんて考えたこともない。
かなみさんをはじめ、周囲の席の女性から白い視線が集中している。田中さん、これさえなければモテるのに。
「……まあ田中さんの好みは横に置いといて、食べ過ぎはよくないけど、食べなさすぎも体によくないよ。あ、そうだ。一皿食べるのが難しいならシェアしよう。ハンバーグにエビフライとクリームコロッケがついてるから」
僕の分のセットが運ばれてきて、店員さんに頼んで取り分け用の小皿をもらう。
ハンバーグを半分と、エビフライを皿に乗せてかなみさんの前に出す。ライスでなくパンにしていたから、パンも半分。
「さあ、どうぞ」
「あ、ありがとう、ございます。でもそれじゃ倉井さんの分が」
「僕は家に買い置きがあるから、帰ってからなにかしら食べられるし」
買い置きと言ってもカロリークッキーのたぐいだけど。
「うう、目の前で妹と同僚のイチャイチャを見せられる俺の立場グフゥ!」
嘆くふりをする田中さん、かなみさんから全力の肘鉄を食らって沈黙した。
三人分のご飯がそろって食事を始める。
田中さんがポテトを頬張りながら聞いてくる。
「そういや倉井さん、今日はなんか楽しそうだったな。日曜になんかあった?」
「あー……」
東京のファッション専門学校ファッションショーの司会というお役目。
綿貫先生と直接会って話し、本当に引き受けることになった。
僕ではなく、ビジョンにクライスのアバターを映して実況という形だ。学校の機材と僕の機材があればできる。顔は出さないで、あくまでもライバー執事のクライスとして請け負うという形をとっている。
今の段階でどういう流れでショーが進行するか大まかなところは決まっていて、あとは生徒たちが名簿順で一人ずつ舞台に上がって服を披露していく。
「それぞれの服のこだわりなんかも当日までにメモをもらっておくので、いい感じに合いの手も入れてもらえると助かります」とのことなので、だからこそライバーの僕に話が来たのかと納得した。名前だけ読み上げても盛り上がりに欠ける。
学校側のホームページで正式に公表されてから僕の枠でもお知らせすることになる。
「詳しく決まってから話すよ。今は話せないから」
「なんか悩み事なら気兼ねなく言えよな」
「ありがとう。そのときは頼ります」
そんなことをさらりと言ってくれるんだから、頼もしい限りだ。
「そうだ、かなみ。こんど一緒に行きたいとこがあるんだろ。話しちまえ」
「兄貴は黙ってて」
また肘鉄を食らう兄。学習しないなあ。
かなみさんはエビフライを飲み込んでから、一息ついて頭を下げる。
「また外に出るの、つきあってください」
「うん。いいよ。どこいこっか」
かなみさんと出かけるのは気分転換になるし、僕と気質が近いから話しやすい。
その一緒に行ってみたい場所、というのが、まさかの僕が司会をする予定の文化祭だから驚いてしまった。