中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜
「九頭さんは悪いことをしているからやめておいた方がいいよ……ううん、ちがうな。かなみさんがされていたことをかなみさんのいないところで勝手に言うわけにもいかないし」
配信終わりにゆっちと通信するという約束をしていたものの、どう説明したらいいのか悩みに悩んでいた。
だって僕、職場で日常会話することもうまくできないんだよ。
気心知れたシンヤ相手ならまだしも、数回しか顔を合わせていないゆっちに、好きな相手が悪い男だって説明するの無理ゲーじゃないか。
でもゆっちが何も知らないまま告白したら、かなみさんがされたときのように奴らはゆっちを笑いものにするだろう。そうしたら絶対にゆっちは傷つく。
ゆっちが傷つくのをわかっていて黙って見ているのはできない。
でもうまく説明できる自信もない。
刻一刻と通信の時間が迫っていて、考えがまとまらないままつなぐことになった。
「ごきげんようクライスさん。折り入って話があるってメッセージがあったけど、どうしたんです?」
にこにこと笑顔のリリーアバターが画面に映し出される。
僕が見た男が別人なら何の問題もない。まずそこから確認しよう。
「ごきげんよう、ゆっち。ええと……。ゆっちの好きな人、九頭くんっていうんだよね。彼が学校でよく一緒にいる男友達って、カスとアクイだったりする? 腕と首にタトゥーが入っている」
あのとき聞こえた言葉から推理すれば、三人とも同じ服飾の学校に行っている。
プライベートでよく一緒にいるなら、学校でもそうしているはず。
ちがいますよーという返しを期待していたけれど、現実は無情だった。
「え、なんでクライスさんが知っているんですか? もしかして九頭くんと知り合い?」
ゆっちの言う九頭と僕が見た男が同一人物だと確定してしまった。
……ということは、カラオケで奴らが馬鹿にしていた「最近よく話しかけてくる花森」っていう子がゆっちなのか。
こんなに頑張っているゆっちが、陰で笑いのネタにされているなんて、かわいそうすぎて泣けてくる。
「知り合いじゃないよ。ええと、町でみかけたんだ。名前を呼び合っていたのと、服を作る話をしているのが聞こえたから、もしかしてって思って」
「あ、そうなんですね。そっか、九頭くんも卒業制作に向けてがんばってるんだなあ」
「違うよ」
もう、ブロックされるのを覚悟で言おう。
「がんばっていない。その三人が話していたのは、〝卒業制作めんどくさいから既製品の服いくつかつなぎあわせてそれっぽく提出する〟っていう内容なんだ」
ゆっちが息をのんだ。
「そんな、九頭くんたちが?」
「……信じてもらえないかもしれないけれど。祭で見かけたこともある。嫌がる女子高生をしつこくナンパしていた。このまま彼に告白するの、ゆっちのためにならない気がしたから。ゆっちが傷つくのを見たくないんだ。僕が嘘をついている、彼をおとしめようとしていると思うなら、このままブロックしてくれてかまわない」
時間にしたら一分にも満たない、沈黙。
ゆっちは静かに口を開く。
「隣のクラスの子にも、言われたこと、あるんです……「同じ高校出身だからわかる、彼はやめとけ」って。でも、あんまり親しくない子で、その子が九頭くんのこと好きだから私を排除したのかなって、そのときは思ったんです。クライスさんから言われるとは、思わなかった……」
やっぱり相当ショックを受けている。声がすごく震えていた。
「ごめんなさい、今日はこれで通信終わっていいですか。一人で考えたいです」
「うん。僕の方こそ、いきなりこんなこと伝えてごめん」
通信が切れて、ヘッドホンを外す。
緊張しすぎて汗びっしょりになっていた。
ゆっちとの通信は一〇分もなかったのに。心臓がバクバクいっている。
高校であの女子に告白したときより、ずっと心が重い。
ゆっちが傷つくのを見たくない。
僕が人と交流するきっかけをくれた、大切な友達だから。
ゆっちからメッセージが来たのは、それから三日後だった。
直接話したいと言うから、また前に一緒に行ったカフェに二人で入る。
前回と同じものを注文して、ゆっちは沈んだ様子で話し出す。
「クライスさんの話を聞いた後、どうしても自分の目で確かめたくて、学校帰り三人のあとをこっそり追ってみたんです」
いつ見ても誰かに迷惑をかけていた奴らだ。学校でイイ子ちゃんとも言っていたから、学校と外でのギャップにショックを受けたと思う。
「……クライスさんが、言ったとおりでした。あたし、学校にいるときの表面しか見えていなかった」
「そっか」
メッセージで伝えればすむことなのに、きちんと対面して話してくれる。
本当に誠実な子だな、ゆっち。
話し終えてから、ゆっちは明るく笑ってメニュー表をとる。
「あーあ、ダイエット、無駄になっちゃった。ケーキ注文しようかな」
「食べればいいよ。無理にダイエットしなくても、そのままのゆっちを好きって言ってくれる人と一緒にいればいんだから」
「そうします」
前にあったときよりほんのり痩せていて、彼のために努力していたんだとわかる。
まだ数日しか経っていないから、完全に吹っ切るのは時間がかかるだろう。
ゆっちがいい人と巡り会えるよう、心から願った。
配信終わりにゆっちと通信するという約束をしていたものの、どう説明したらいいのか悩みに悩んでいた。
だって僕、職場で日常会話することもうまくできないんだよ。
気心知れたシンヤ相手ならまだしも、数回しか顔を合わせていないゆっちに、好きな相手が悪い男だって説明するの無理ゲーじゃないか。
でもゆっちが何も知らないまま告白したら、かなみさんがされたときのように奴らはゆっちを笑いものにするだろう。そうしたら絶対にゆっちは傷つく。
ゆっちが傷つくのをわかっていて黙って見ているのはできない。
でもうまく説明できる自信もない。
刻一刻と通信の時間が迫っていて、考えがまとまらないままつなぐことになった。
「ごきげんようクライスさん。折り入って話があるってメッセージがあったけど、どうしたんです?」
にこにこと笑顔のリリーアバターが画面に映し出される。
僕が見た男が別人なら何の問題もない。まずそこから確認しよう。
「ごきげんよう、ゆっち。ええと……。ゆっちの好きな人、九頭くんっていうんだよね。彼が学校でよく一緒にいる男友達って、カスとアクイだったりする? 腕と首にタトゥーが入っている」
あのとき聞こえた言葉から推理すれば、三人とも同じ服飾の学校に行っている。
プライベートでよく一緒にいるなら、学校でもそうしているはず。
ちがいますよーという返しを期待していたけれど、現実は無情だった。
「え、なんでクライスさんが知っているんですか? もしかして九頭くんと知り合い?」
ゆっちの言う九頭と僕が見た男が同一人物だと確定してしまった。
……ということは、カラオケで奴らが馬鹿にしていた「最近よく話しかけてくる花森」っていう子がゆっちなのか。
こんなに頑張っているゆっちが、陰で笑いのネタにされているなんて、かわいそうすぎて泣けてくる。
「知り合いじゃないよ。ええと、町でみかけたんだ。名前を呼び合っていたのと、服を作る話をしているのが聞こえたから、もしかしてって思って」
「あ、そうなんですね。そっか、九頭くんも卒業制作に向けてがんばってるんだなあ」
「違うよ」
もう、ブロックされるのを覚悟で言おう。
「がんばっていない。その三人が話していたのは、〝卒業制作めんどくさいから既製品の服いくつかつなぎあわせてそれっぽく提出する〟っていう内容なんだ」
ゆっちが息をのんだ。
「そんな、九頭くんたちが?」
「……信じてもらえないかもしれないけれど。祭で見かけたこともある。嫌がる女子高生をしつこくナンパしていた。このまま彼に告白するの、ゆっちのためにならない気がしたから。ゆっちが傷つくのを見たくないんだ。僕が嘘をついている、彼をおとしめようとしていると思うなら、このままブロックしてくれてかまわない」
時間にしたら一分にも満たない、沈黙。
ゆっちは静かに口を開く。
「隣のクラスの子にも、言われたこと、あるんです……「同じ高校出身だからわかる、彼はやめとけ」って。でも、あんまり親しくない子で、その子が九頭くんのこと好きだから私を排除したのかなって、そのときは思ったんです。クライスさんから言われるとは、思わなかった……」
やっぱり相当ショックを受けている。声がすごく震えていた。
「ごめんなさい、今日はこれで通信終わっていいですか。一人で考えたいです」
「うん。僕の方こそ、いきなりこんなこと伝えてごめん」
通信が切れて、ヘッドホンを外す。
緊張しすぎて汗びっしょりになっていた。
ゆっちとの通信は一〇分もなかったのに。心臓がバクバクいっている。
高校であの女子に告白したときより、ずっと心が重い。
ゆっちが傷つくのを見たくない。
僕が人と交流するきっかけをくれた、大切な友達だから。
ゆっちからメッセージが来たのは、それから三日後だった。
直接話したいと言うから、また前に一緒に行ったカフェに二人で入る。
前回と同じものを注文して、ゆっちは沈んだ様子で話し出す。
「クライスさんの話を聞いた後、どうしても自分の目で確かめたくて、学校帰り三人のあとをこっそり追ってみたんです」
いつ見ても誰かに迷惑をかけていた奴らだ。学校でイイ子ちゃんとも言っていたから、学校と外でのギャップにショックを受けたと思う。
「……クライスさんが、言ったとおりでした。あたし、学校にいるときの表面しか見えていなかった」
「そっか」
メッセージで伝えればすむことなのに、きちんと対面して話してくれる。
本当に誠実な子だな、ゆっち。
話し終えてから、ゆっちは明るく笑ってメニュー表をとる。
「あーあ、ダイエット、無駄になっちゃった。ケーキ注文しようかな」
「食べればいいよ。無理にダイエットしなくても、そのままのゆっちを好きって言ってくれる人と一緒にいればいんだから」
「そうします」
前にあったときよりほんのり痩せていて、彼のために努力していたんだとわかる。
まだ数日しか経っていないから、完全に吹っ切るのは時間がかかるだろう。
ゆっちがいい人と巡り会えるよう、心から願った。