中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜

 かなみさんを家に送り届けた帰り。駅で嫌な顔をみかけた。
 以前カラオケで大騒ぎしていた、カイって呼ばれていた男とそのつれだ。
 かなみさんと一緒にいるときでなくてよかった。
 僕自身がなにかされたわけじゃないけど、気持ちがざわつく。

「あー、くっそ。服つくるなんてだりぃなあ。誰だよ卒業制作はファッションショーなんて言い出したやつ」
「カイちゃん、いっそ既製品買って加工しちまう手のはどう」
「お、いいね阿久井あくいちゃんアタマいいー。オレはそうしよ。どっかでてきとーに古着買ってさー」
加須かすもそう思うだろー。そうしようぜカイちゃん」

 卒業制作でファッションショーって、いくら服飾系の学校が多く存在していても、そうそうかぶるイベントじゃない。もしかしてこいつら、ゆっちと同じ学校?

 真面目に勉強してがんばっているゆっちのような生徒ばかりじゃないんだな。

 彼らの後ろを通り過ぎて、駅のホームに向かう。
 カイが手に持っていたスマホが鳴った。

「はい、九頭です。どうしたんです先生。え、あ-。すみませんバイトがあるから練習でれないし、無理です。それじゃ」

 カイが電話を切って、まわりの二人が聞く。

「担任がショーの司会役やってくんねーか、だってよ。めんどくっせ」
「カイちゃん学校じゃイイ子だもんねえ。ワタヌキに信用されてんじゃん」
「んだよタヌキに気に入られたって嬉しかねえっての。ババアの顔立てなきゃだからやってるだけだし」
「おばさん外部講師だもんねー」

 方向が同じなのか、三人も僕と同じホームに入ってくる。
 心臓の音がうるさい。
 あいつ、電話口で九頭って言った。
 そして、服飾の学校。

 こいつがゆっちの言っていた九頭?

 もしこいつがゆっちの言う九頭なら、告白してもゆっちが不幸になるような気がする。
 人に迷惑をかけて、馬鹿にして笑っているやつらだ。
 学校ではイイ子って言ってるし、ゆっちは本性に気づいていないんじゃないか。

 確証はない。ゆっちに確かめてもし当人なら、どうすればいいんだろう。

「あいつはやめといたほうがいいよ」なんて、無関係の僕が口を出せることじゃない、けど……。
 見て見ぬふりなんてできない。

 今夜ゆっちに確認してみよう。
 そこから先のことは、そのとき考えよう。
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