中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜
かなみさんとのおでかけ3回目。
かなみさんが服を見てみたいというので、駅からほど近い商店街にきた。
バターの香りがただようベーカリーの隣にあるのが、僕の幼なじみ新川 シンヤが働いている服屋だ。
「えと、あの、こんなことにつきあわせて、ごめんなさい。私、高校以来あたらしい服を買っていなかったんです……」
「あ、わかる。僕もこの服買うまで、中学の時から着ていたTシャツくらいしかなかったんだ」
人に会いたくないと、服装に頓着しなくなるんだよね。
びろびろTシャツで平気だった自分はなんだったんだろう。今じゃ恥ずかしくて、あれで外を歩けない。
そんな話をしながら店に入る。
「いらっしゃいませ!」
〝とらかど〟という名札をつけたショートヘアの女性店員が、笑顔でおじぎする。
夏らしいホットパンツと肩だしシャツがとても似合う人だ。
かなみさんがゼンマイ人形みたいにかたい会釈をかえす。
商品棚に並ぶ夏の新作を一枚手に取って、震えている。
「ああ、服屋なんて、何年ぶりかな……。異世界に来ちゃった気分……。私、場違いじゃないです? さっきのお姉さんすごくきれいだったし、服屋に入るのもドレスコードがいるのかな」
「さ、さすがにドレスコードはいらないんじゃ、ないかな」
僕もウニに入るのすらガクブルしていたけど、はたから見たらこんな風だったんだな。
おびえすぎである。
夏物上着のコーナーには、棚卸し作業中のシンヤがいた。
「進。おまえがここにくるなんて珍しいな。なにかあったのか」
「この子の買い物につきあっているんだよ」
「素直そうで可愛い子だな。いつのまに彼女ができたんだ」
我が友よ。妙齢の女の子といるだけでカレカノにしたがる方程式ってなんなんだ。
僕とかなみさんって、友だち、なのかな。
彼氏彼女ではないし。かといって勝手に友だちにするのも。
同僚の妹……? ライバーとフォロワー? ううううん。ただの知り合い、って言うのもなんだし。
かなみさんもなんと言っていいのかわからないようで、頭の上に?を浮かべている。
どう説明したらいいかわからなくて、悩んだ末、否定も肯定もしないことにした。
「新川先輩、ちょっとレジ混んできたから手伝ってー」
「今行きます! それじゃ、好きに見てってくれよ、進。彼女さんも」
とらかどさんに呼ばれて、シンヤはレジ応援に向かった。
「かなみさん、なんか勝手に彼女ってことにされちゃってごめん。あとでちゃんと訂正しておくから」
「あ、ええと、わ、私はそれでもかまわないっていうか、むしろ歓迎……いえ、なんでもないです! ちょっと、これ着てみるので……」
かなみさんは薄手のシャツとスカートのセットを持って試着室に飛び込んでいった。
……聞き間違いでないなら、歓迎って言ったよね。
僕の彼女だって思われてもいいってこと?
どうしよう。そんなふうに言ってくれる子は初めてで、どう反応していいかわからない。
でも、僕も嫌じゃない。うれしいのかな。チビで、人前だとあがっちゃってうまく話せない、そんな僕でもいいと思ってくれる人がいるんだ。
口角があがっちゃうのをなんとかおさえる。
「お、いけいけ。そのまま告白に持ち込んでしまえー」
聞き覚えのある声が物陰からして、棚の横に設置された大鏡に、たなか兄が見えた。
妹のお出かけをこっそり尾行するお兄ちゃんって……、マンガみたいなこと本当にする人いるんだな。
「なにしてんです田中さん。すっごく怪しいですよ」
「や、やあ奇遇だな倉井さん。俺はあれだ、たまたま通りかかっただけだ」
わざとらしい咳払いをして偶然を装う田中さん。
試着室から出てきたかなみさんに蹴られたのは言うまでもない。
かなみさんが服を見てみたいというので、駅からほど近い商店街にきた。
バターの香りがただようベーカリーの隣にあるのが、僕の幼なじみ
「えと、あの、こんなことにつきあわせて、ごめんなさい。私、高校以来あたらしい服を買っていなかったんです……」
「あ、わかる。僕もこの服買うまで、中学の時から着ていたTシャツくらいしかなかったんだ」
人に会いたくないと、服装に頓着しなくなるんだよね。
びろびろTシャツで平気だった自分はなんだったんだろう。今じゃ恥ずかしくて、あれで外を歩けない。
そんな話をしながら店に入る。
「いらっしゃいませ!」
〝とらかど〟という名札をつけたショートヘアの女性店員が、笑顔でおじぎする。
夏らしいホットパンツと肩だしシャツがとても似合う人だ。
かなみさんがゼンマイ人形みたいにかたい会釈をかえす。
商品棚に並ぶ夏の新作を一枚手に取って、震えている。
「ああ、服屋なんて、何年ぶりかな……。異世界に来ちゃった気分……。私、場違いじゃないです? さっきのお姉さんすごくきれいだったし、服屋に入るのもドレスコードがいるのかな」
「さ、さすがにドレスコードはいらないんじゃ、ないかな」
僕もウニに入るのすらガクブルしていたけど、はたから見たらこんな風だったんだな。
おびえすぎである。
夏物上着のコーナーには、棚卸し作業中のシンヤがいた。
「進。おまえがここにくるなんて珍しいな。なにかあったのか」
「この子の買い物につきあっているんだよ」
「素直そうで可愛い子だな。いつのまに彼女ができたんだ」
我が友よ。妙齢の女の子といるだけでカレカノにしたがる方程式ってなんなんだ。
僕とかなみさんって、友だち、なのかな。
彼氏彼女ではないし。かといって勝手に友だちにするのも。
同僚の妹……? ライバーとフォロワー? ううううん。ただの知り合い、って言うのもなんだし。
かなみさんもなんと言っていいのかわからないようで、頭の上に?を浮かべている。
どう説明したらいいかわからなくて、悩んだ末、否定も肯定もしないことにした。
「新川先輩、ちょっとレジ混んできたから手伝ってー」
「今行きます! それじゃ、好きに見てってくれよ、進。彼女さんも」
とらかどさんに呼ばれて、シンヤはレジ応援に向かった。
「かなみさん、なんか勝手に彼女ってことにされちゃってごめん。あとでちゃんと訂正しておくから」
「あ、ええと、わ、私はそれでもかまわないっていうか、むしろ歓迎……いえ、なんでもないです! ちょっと、これ着てみるので……」
かなみさんは薄手のシャツとスカートのセットを持って試着室に飛び込んでいった。
……聞き間違いでないなら、歓迎って言ったよね。
僕の彼女だって思われてもいいってこと?
どうしよう。そんなふうに言ってくれる子は初めてで、どう反応していいかわからない。
でも、僕も嫌じゃない。うれしいのかな。チビで、人前だとあがっちゃってうまく話せない、そんな僕でもいいと思ってくれる人がいるんだ。
口角があがっちゃうのをなんとかおさえる。
「お、いけいけ。そのまま告白に持ち込んでしまえー」
聞き覚えのある声が物陰からして、棚の横に設置された大鏡に、たなか兄が見えた。
妹のお出かけをこっそり尾行するお兄ちゃんって……、マンガみたいなこと本当にする人いるんだな。
「なにしてんです田中さん。すっごく怪しいですよ」
「や、やあ奇遇だな倉井さん。俺はあれだ、たまたま通りかかっただけだ」
わざとらしい咳払いをして偶然を装う田中さん。
試着室から出てきたかなみさんに蹴られたのは言うまでもない。