中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜

 レジ袋いりません。
 その一言が言えなくて、最近はセルフレジがあるコンビニやスーパーを愛用するようになった。

 そんな僕は今、通勤に使っている駅前にある大型ビルの服屋にいた。
 よくわからないから、とりあえずメンズファッションと書かれている店を選んだ。
 仕事はスーツだから何も考えなくていいけど、プライベートはそうはいかない。

 デザインや値札よりも気になるのはサイズだ。
 目の前のハンガーにかかっていた半袖シャツ、タグを見たらMサイズ。
 男物で一番小さいのはこれらしい。

 適正身長160㎝~

 二度見、三度見しても記載された数字は変わらない。
 152㎝しかない人間に酷だと思わないか。
 平均以下のチビは人間にあらずってか。泣ける。

「何かお探しですか」
「ひゃい!」

 なんかオシャレな女性店員が話しかけてきた。
 緩くカールした髪に店の服、キラキラしてて直視できん。

「そちらこの夏の新作でして。お父様への贈り物ですか? 父の日が近いですものね」

 めっちゃ爽やかな笑顔で言ってくれるけど、もしかして高校生だと勘違いしている?
 いくら小さくて童顔だからって、僕自身が着るために探していると思われていないあたりツラ。
 お姉さんが親切で言っているからさらにツラい。

 あいまいに笑ってその店のフロアを離れた。

 あてどなく店内を歩いていたら、おばあちゃんに話しかけられた。

「坊や、ハンカチ落としたよ」

 周りを見ても坊やに該当するような年齢の人間がいない。
 そしておばあちゃんが持っている紺のハンカチは僕のだ。

「坊や中学生かね? 塾の帰りかもしれんが、あんまり遅くなると親御さんが心配するよ」

 またも親切心が僕のメンタルを串刺しにする。
 なんかもうね、僕は23歳の社会人ですよって言葉にしづらい雰囲気。
 泣いていい?



 
 近くのベンチに座って数少ない友達、シンヤに「なんかいい服教えて」とラインしたら、3分で既読と返信がきた。

[ウニ買え]

 ウニって海鮮のウニでなく、僕でも知っている大手アパレル店の略称だ。サイズ展開が豊富。
 サンキュスタンプを返してスマホをしまう。

 エレベーター脇についている店のフロアマップには載っていない。ググると近くのモールにテナントがあるらしい。
 自分でてきとうに選んだらクソダサい組み合わせになりそうだから、だれかにかっこいいコーディネイトってやつを教えてほしい。
 でも店員に話しかける勇気が出ない。
 なんて言えばいいんだ。それに店員みんな忙しそうだし。
 再びシンヤにラインしたら[店員に聞け]と返ってくる。

 それができないから聞いてんだよ-!

 結局、マネキンが着ていた服の組み合わせで、自分サイズの服を選ぶという超無難な選択をした。

 僕のバカ。
 クライスなら爽やかに笑顔で受け答えできるのに!



 オフ会のための服はゲットできたけど、すでにメンタルが大ダメージを食らっている。
 ズタボロのなりながらも、ゆっちに会う日を迎えるのだった。



image
2/32ページ