中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜
金曜の仕事上がりに田中さんの家で夕食をご馳走になる……という体でかなみさんに会いに行くことになった。
僕がクライスであることは伝えていないけれど、スタリーを教えてくれた同僚、とは伝えているらしい。
帰路の電車は、僕と同じように仕事帰りの人がたくさん乗っている。
座席があいてなくて、出入り口近くの手すりにつかまってぼんやり車窓を眺める。
窓に映る僕は、すごく緊張した面持ちをしている。
前髪をつまんで、ちょっと後悔する。
電車内にいる同年代の男性を見れば、ファッション雑誌みたいなキマッた髪型をしている。
ヘアサロンに行っているのかな。
人は見た目が9割、っていう言葉を思い出す。
中学生のときから変わらず近所の1000円カットの床屋で済ませているのは、もしかしてあまりよろしくない?
オシャレな店って僕みたいなのが行っちゃいけない気がするんだよな。
シンヤにラインで聞いてみたら、一分で返事が来た。
シンヤ[
(∵)<グ
(∵)<グ
(∵)<れ
(∵)<カ
(∵)<ス]
シンヤ[俺に聞いてばかりだと自分で判断できなくなるぞ、進]
いや、正論だけど! 正論だけども!
言われたとおりググる。
十数件ヒットする。星の数で選べば良いのか……? でもやたら褒めちぎっているのってサクラコメントかもしれないし。
こうして他人の意見に左右されてばかりなの、自分でも悲しい。
自分を強く持っていれば、人の顔色も気にしなくてよくなるかな。
ゆっちに会うときも思ったけど、僕、髪型にも気を配った方が良いのかな。
中学生のときから同じ髪型だから幼く見えるのかもしれない。
髪型と呼ぶのもおこがましい。ただ短くカットしただけの頭だ。
大人っぽい髪型になれば、もしかしたら年相応に見えるかも。
どこがいいかわからないならもう、目の前の店に入ってしまおう。
マンションの最寄り駅で降りて、ググって一番近く、予約無しでもカットしてもらえるサロンに入る。
ミラーワールドという札が下がる扉には10:00~20:00と書かれている。
扉をくぐると、すらりとした女性店員と、やたらと陽気な男性店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。ご新規のお客様ですね」
「らっしゃーい!」
「あ、はい」
「今ご案内しますね。カタログがあるので、ご希望のスタイルがありましたらお申し付けください」
渡された数冊のうち一冊を開いてみる。
うん、わからん。
このイケメンカットモデルさんたちだから似合うのであって、自分の顔で当てはめて想像したら似合わなすぎる。
悩んでいる間に席に案内されて、皇 という名札をつけた女性がケープをかけてくれる。首にタオルを巻かれて、襟足の髪をもちあげる。
「お好みの髪型、ありました?」
「あ、えと、おまかせ、ってできますか」
「はい。可能ですよ。おおまかなご希望はありますか」
「事務、仕事なので、あまり派手にならないように……」
「かしこまりました」
鏡越しに皇さんをみると、慣れた手つきでスプレーを手にして、パサついた髪に吹きかけブラシをいれていく。そんなに小さいのに社会人なんですか、なんて突っ込みを食らうかと思っていたけど一度もそんなこと言われなかった。
僕があまり喋るのが得意でないのを察してくれて、必要なこと以外聞いてこない。
もうひとりの男性のほうは、掃き掃除を終えて席の用意を始めている。時計をチラチラ見ているから、予約の人がいるのかな。
店の扉が開く音がして、チャイナ服姿の男性が入ってきた。
「歩さんいらっしゃーい。待ってましたよう!!」
「こんばんは、岸さん。あんた今日もうるさいわねえ」
「うるさいとは失礼な。俺みたいのは、元気って言うんですよー」
歩さんって人はオネェさんなのか。声は確かに男性だけど、しゃべり方と仕草が女性っぽい。
隣の席に案内されて、帽子を取るときれいなライトブルーに染まった髪があらわれる。
どんな仕事をしているのか分からないけれど、堂々としていてかっこいいな。
鮮やかな色彩の服で髪も明るく染まっていて、それでいて本人は服に負けていない。
「あら、アタシに何か用?」
「え、あ、すみません。きれいだなって思っただけで……悪気は、ないんです」
じろじろ見たら失礼だよね。謝って正面を向く。
「別に怒っているわけじゃないわ。あんた、良い声してるわね。背中を丸めていたらもったいないわよ。背中に定規が入っている感じで歩くと良いわよ」
「定規」
「そう。今の子は定規ってわからないかしら?」
歩さんは正面の鏡に目をやる。もしかして若々しい見た目に反して、僕よりかなり年上?
「わかり、ます。小学校で使っていたあれですよね」
竹製の30㎝定規。裏に名前を彫ったあの定規は、小学校を卒業するとき隣の家の子が次に小学校に上がるとかでお下がりにあげた記憶がある。
「歩さーん、新しい毛染め剤入荷したんすよ。メーカーは同じで色みも同じだけど、髪に優しい天然素材だから、パサつきにくくなったんす」
「へえ。じゃあ今日はそれを使ってもらおうかしら」
「承知しました!」
歩さん、鎌倉駅の近くでセレクトショップを営んでいるそうだ。民族衣装も取り扱っていて、今着ているのは店にも置いているものだという。
図らずもお隣さんと会話がはずみ、皇さんの神テクで僕の野暮ったかった髪型はオシャレ男子に変わった。
「今日のセットはソフトツイストっていうんです。ワックスを指になじませて、毛先をこうするだけでもセットできるので試してみてください。ビジネスマンの方でもこれくらいなら大丈夫ですから」
「はい。ありがとう、ございます」
髪の手入れの仕方についていろいろ教えてもらって、お値段以上のものをもらえた気分だった。
そして地味で野暮ったい僕から少しだけレベルアップして、金曜の終業時間を迎えた。
僕の最寄り駅から三つほど先の駅で降りて、駅から徒歩10分くらいで田中さんの実家に着いた。
来る前に駅で買った土産の紙袋をさげて、田中さんの後に続く。
「ただいまー。お袋。話していた同僚連れてきたよー」
「いらっしゃい、待っていたわよ〜。どうぞあがって」
田中さんそっくりの、笑顔が華やかなお母さんが出迎えてくれた。
おばちゃんって感じでなく、姉御。そう、姉御って感じ。
「く、倉井です。本日はお世話になります。これ、よかったらどうぞ。皆さんで食べてください」
かなみさんが以前の配信で鎌倉屋のチーズケーキが好きだと言っていたから、たぶん喜んでくれるはず。
「ありがとうねー。気を遣ってもらっちゃって。かなみー、お兄ちゃんの同僚さんからチーズケーキもらったわよー!」
家の奥に向かって大きな声を出すお母さん。
いきなり兄の同僚が来ても、恥ずかしくて出てこれないのでは。僕なら無理。
「ま、あがってくれよ倉井さん。親父は出張でいないんだ。オレと母さんとかなみしかいないから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「お……おじゃまします……」
スリッパをはいて上がらせてもらうと、黒猫が階段を駆け下りてきて、僕の足にすり寄る。
「ひえっ」
うちで猫を飼ったことがないから、どう扱っていいのかわからない。
これ撫でるべきなの? 無視するべきなの?
「クロ、こら、ご飯がほしいならあとにしろー」
「ンニアー、ナー」
クロは来客があろうがそんなの関係ねーってご飯をねだっている。
田中さんは玄関脇にセットされているネコ餌セットの中からカリカリの袋をとって小皿に盛り付け、慣れた様子でクロの前に出す。
「ニァ、ンナー」
「……ぜんぜん食べないけど、おなかいっぱい、なの?」
「そんなこたないはず。こいつグルメだから嫌いなやつは食わないんだよ」
五種類くらい並んだ餌の前で、田中さんは指をさまよわせる。
「それ、ちがう。兄貴、クロはカツオ味じゃないと」
「かなみ」
女の子……かなみさんが奥の部屋から出てきた。
僕より背が低いかもしれない。
小柄で、細身。もこもこ素材のハーフパンツにフード付きのパーカーを着ていて、伸び放題の黒髪は肩甲骨より下まである。
起き抜けなのか、寝癖で髪がぼさぼさ。
かなみさんは赤い袋の封を切って別の皿に盛った。かつお節をまぶして足下に置くと、クロはネコが変わったみたいにがっつき始めた。
「きょ、きょうはたまたま、間違えただけだからな、うん」
視線をそらしてごまかす田中さん。たぶん餌やりはかなみさんの仕事なのだ。
かなみさんは僕に気づくと、硬直しながら、ぎこちなく会釈する。
なるほど、うん、僕と同族だ。
「かなみ。この人がスタリーを教えてくれた同僚の倉井さん。倉井さん、この子が妹のかなみ」
「よろしく、かなみさん」
家で100回くらい予行練習していたから、噛まずに言えたぞ! 僕えらい!
かなみさんは10秒くらいフリーズして、後ずさった。
左右を見て自分の服を見下ろして、あわあわ。泣きそうになっている。
「く、く、く、くらい、す!? まさか、そんな」
たった一言でばれちゃうなんて。さすが古参フォロワーって、感心している場合じゃない。
やっぱ僕が冴えないチビだから絶望してるじゃーん。田中さん、やっぱ僕、会わない方がよかったんじゃ。
「ああああああ兄貴のバカ! どうしてクライスだって、教えてくれなかったの、わたし、こんな気の抜けた格好で会うつもりなんて、ああもう、幻滅されたらどうしてくれんの。こんなチビでダサい女がフォロワーってばれたらブロックされちゃうかもしれな……。ごめんなさいごめんなさい、いま会った記憶は消してください、クライスにこんな部屋着姿のダサチビを見せるなんて」
大混乱で泣き出すかなみさん。
ああ、ほんとだ。
人目を気にして、些細なことで後悔して一人反省会するその姿は、僕によく似ていた。
僕がクライスであることは伝えていないけれど、スタリーを教えてくれた同僚、とは伝えているらしい。
帰路の電車は、僕と同じように仕事帰りの人がたくさん乗っている。
座席があいてなくて、出入り口近くの手すりにつかまってぼんやり車窓を眺める。
窓に映る僕は、すごく緊張した面持ちをしている。
前髪をつまんで、ちょっと後悔する。
電車内にいる同年代の男性を見れば、ファッション雑誌みたいなキマッた髪型をしている。
ヘアサロンに行っているのかな。
人は見た目が9割、っていう言葉を思い出す。
中学生のときから変わらず近所の1000円カットの床屋で済ませているのは、もしかしてあまりよろしくない?
オシャレな店って僕みたいなのが行っちゃいけない気がするんだよな。
シンヤにラインで聞いてみたら、一分で返事が来た。
シンヤ[
(∵)<グ
(∵)<グ
(∵)<れ
(∵)<カ
(∵)<ス]
シンヤ[俺に聞いてばかりだと自分で判断できなくなるぞ、進]
いや、正論だけど! 正論だけども!
言われたとおりググる。
十数件ヒットする。星の数で選べば良いのか……? でもやたら褒めちぎっているのってサクラコメントかもしれないし。
こうして他人の意見に左右されてばかりなの、自分でも悲しい。
自分を強く持っていれば、人の顔色も気にしなくてよくなるかな。
ゆっちに会うときも思ったけど、僕、髪型にも気を配った方が良いのかな。
中学生のときから同じ髪型だから幼く見えるのかもしれない。
髪型と呼ぶのもおこがましい。ただ短くカットしただけの頭だ。
大人っぽい髪型になれば、もしかしたら年相応に見えるかも。
どこがいいかわからないならもう、目の前の店に入ってしまおう。
マンションの最寄り駅で降りて、ググって一番近く、予約無しでもカットしてもらえるサロンに入る。
ミラーワールドという札が下がる扉には10:00~20:00と書かれている。
扉をくぐると、すらりとした女性店員と、やたらと陽気な男性店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。ご新規のお客様ですね」
「らっしゃーい!」
「あ、はい」
「今ご案内しますね。カタログがあるので、ご希望のスタイルがありましたらお申し付けください」
渡された数冊のうち一冊を開いてみる。
うん、わからん。
このイケメンカットモデルさんたちだから似合うのであって、自分の顔で当てはめて想像したら似合わなすぎる。
悩んでいる間に席に案内されて、
「お好みの髪型、ありました?」
「あ、えと、おまかせ、ってできますか」
「はい。可能ですよ。おおまかなご希望はありますか」
「事務、仕事なので、あまり派手にならないように……」
「かしこまりました」
鏡越しに皇さんをみると、慣れた手つきでスプレーを手にして、パサついた髪に吹きかけブラシをいれていく。そんなに小さいのに社会人なんですか、なんて突っ込みを食らうかと思っていたけど一度もそんなこと言われなかった。
僕があまり喋るのが得意でないのを察してくれて、必要なこと以外聞いてこない。
もうひとりの男性のほうは、掃き掃除を終えて席の用意を始めている。時計をチラチラ見ているから、予約の人がいるのかな。
店の扉が開く音がして、チャイナ服姿の男性が入ってきた。
「歩さんいらっしゃーい。待ってましたよう!!」
「こんばんは、岸さん。あんた今日もうるさいわねえ」
「うるさいとは失礼な。俺みたいのは、元気って言うんですよー」
歩さんって人はオネェさんなのか。声は確かに男性だけど、しゃべり方と仕草が女性っぽい。
隣の席に案内されて、帽子を取るときれいなライトブルーに染まった髪があらわれる。
どんな仕事をしているのか分からないけれど、堂々としていてかっこいいな。
鮮やかな色彩の服で髪も明るく染まっていて、それでいて本人は服に負けていない。
「あら、アタシに何か用?」
「え、あ、すみません。きれいだなって思っただけで……悪気は、ないんです」
じろじろ見たら失礼だよね。謝って正面を向く。
「別に怒っているわけじゃないわ。あんた、良い声してるわね。背中を丸めていたらもったいないわよ。背中に定規が入っている感じで歩くと良いわよ」
「定規」
「そう。今の子は定規ってわからないかしら?」
歩さんは正面の鏡に目をやる。もしかして若々しい見た目に反して、僕よりかなり年上?
「わかり、ます。小学校で使っていたあれですよね」
竹製の30㎝定規。裏に名前を彫ったあの定規は、小学校を卒業するとき隣の家の子が次に小学校に上がるとかでお下がりにあげた記憶がある。
「歩さーん、新しい毛染め剤入荷したんすよ。メーカーは同じで色みも同じだけど、髪に優しい天然素材だから、パサつきにくくなったんす」
「へえ。じゃあ今日はそれを使ってもらおうかしら」
「承知しました!」
歩さん、鎌倉駅の近くでセレクトショップを営んでいるそうだ。民族衣装も取り扱っていて、今着ているのは店にも置いているものだという。
図らずもお隣さんと会話がはずみ、皇さんの神テクで僕の野暮ったかった髪型はオシャレ男子に変わった。
「今日のセットはソフトツイストっていうんです。ワックスを指になじませて、毛先をこうするだけでもセットできるので試してみてください。ビジネスマンの方でもこれくらいなら大丈夫ですから」
「はい。ありがとう、ございます」
髪の手入れの仕方についていろいろ教えてもらって、お値段以上のものをもらえた気分だった。
そして地味で野暮ったい僕から少しだけレベルアップして、金曜の終業時間を迎えた。
僕の最寄り駅から三つほど先の駅で降りて、駅から徒歩10分くらいで田中さんの実家に着いた。
来る前に駅で買った土産の紙袋をさげて、田中さんの後に続く。
「ただいまー。お袋。話していた同僚連れてきたよー」
「いらっしゃい、待っていたわよ〜。どうぞあがって」
田中さんそっくりの、笑顔が華やかなお母さんが出迎えてくれた。
おばちゃんって感じでなく、姉御。そう、姉御って感じ。
「く、倉井です。本日はお世話になります。これ、よかったらどうぞ。皆さんで食べてください」
かなみさんが以前の配信で鎌倉屋のチーズケーキが好きだと言っていたから、たぶん喜んでくれるはず。
「ありがとうねー。気を遣ってもらっちゃって。かなみー、お兄ちゃんの同僚さんからチーズケーキもらったわよー!」
家の奥に向かって大きな声を出すお母さん。
いきなり兄の同僚が来ても、恥ずかしくて出てこれないのでは。僕なら無理。
「ま、あがってくれよ倉井さん。親父は出張でいないんだ。オレと母さんとかなみしかいないから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「お……おじゃまします……」
スリッパをはいて上がらせてもらうと、黒猫が階段を駆け下りてきて、僕の足にすり寄る。
「ひえっ」
うちで猫を飼ったことがないから、どう扱っていいのかわからない。
これ撫でるべきなの? 無視するべきなの?
「クロ、こら、ご飯がほしいならあとにしろー」
「ンニアー、ナー」
クロは来客があろうがそんなの関係ねーってご飯をねだっている。
田中さんは玄関脇にセットされているネコ餌セットの中からカリカリの袋をとって小皿に盛り付け、慣れた様子でクロの前に出す。
「ニァ、ンナー」
「……ぜんぜん食べないけど、おなかいっぱい、なの?」
「そんなこたないはず。こいつグルメだから嫌いなやつは食わないんだよ」
五種類くらい並んだ餌の前で、田中さんは指をさまよわせる。
「それ、ちがう。兄貴、クロはカツオ味じゃないと」
「かなみ」
女の子……かなみさんが奥の部屋から出てきた。
僕より背が低いかもしれない。
小柄で、細身。もこもこ素材のハーフパンツにフード付きのパーカーを着ていて、伸び放題の黒髪は肩甲骨より下まである。
起き抜けなのか、寝癖で髪がぼさぼさ。
かなみさんは赤い袋の封を切って別の皿に盛った。かつお節をまぶして足下に置くと、クロはネコが変わったみたいにがっつき始めた。
「きょ、きょうはたまたま、間違えただけだからな、うん」
視線をそらしてごまかす田中さん。たぶん餌やりはかなみさんの仕事なのだ。
かなみさんは僕に気づくと、硬直しながら、ぎこちなく会釈する。
なるほど、うん、僕と同族だ。
「かなみ。この人がスタリーを教えてくれた同僚の倉井さん。倉井さん、この子が妹のかなみ」
「よろしく、かなみさん」
家で100回くらい予行練習していたから、噛まずに言えたぞ! 僕えらい!
かなみさんは10秒くらいフリーズして、後ずさった。
左右を見て自分の服を見下ろして、あわあわ。泣きそうになっている。
「く、く、く、くらい、す!? まさか、そんな」
たった一言でばれちゃうなんて。さすが古参フォロワーって、感心している場合じゃない。
やっぱ僕が冴えないチビだから絶望してるじゃーん。田中さん、やっぱ僕、会わない方がよかったんじゃ。
「ああああああ兄貴のバカ! どうしてクライスだって、教えてくれなかったの、わたし、こんな気の抜けた格好で会うつもりなんて、ああもう、幻滅されたらどうしてくれんの。こんなチビでダサい女がフォロワーってばれたらブロックされちゃうかもしれな……。ごめんなさいごめんなさい、いま会った記憶は消してください、クライスにこんな部屋着姿のダサチビを見せるなんて」
大混乱で泣き出すかなみさん。
ああ、ほんとだ。
人目を気にして、些細なことで後悔して一人反省会するその姿は、僕によく似ていた。