中の人にも祝福を!〜リアルで口下手すぎるライバーは、自分を変えたくて奮闘する〜
バ美肉という言葉がある。
バーチャル美少女受肉……ようは美少女アバターを使いライバー活動をすることだ。
中の人は本当にきれいな女性だったり、五十歳超のオッサンだったり。
僕もまたバ美肉の中の人だ。
ただし美少女でなく、美青年執事のアバターをかぶって活動しているのだ。
タケSub[ズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイ]
ゆっち[クライスかっこいい!]
ゆっち[ゆっちがギフト【大好き!】500ptを贈りました]
たなかかな?[ないギフ!└(└ 'ω')┘< Fooooooooo!!!!!!!]
えびのしっぽ[やっぱクライスはテンポ速い曲あってるね。うまー!!]
イヌ派[88888888]
ライブ配信の枠に、僕を応援するコメントが届く。
僕はクライスという名前で歌・雑談配信をしている。
一曲歌い終えれば[次、トキのサマーバケーション聞きたい!]とコメントがきた。
「ゆっち、リクエストありがとう。それじゃサマバケいきますよ!」
仕事が終わってからの二時間だけの配信だけど、半年続けるうちに毎日聞きに来てくれる人が出てきた。
現在フォロワー512人。無所属勢だし、配信者としてはまだまだ殻のとれないヒヨコみたいなもんだ。
最高ランクにいる人気ライバーは、事務所所属で7000人超のフォロワーがいる。
僕がライブ配信する目的は、そこじゃないからべつにかまわない。
僕がライブ配信する目的は、友だちを作ることと、口下手を直す。この2点に尽きる。
本当の僕は内弁慶な口下手、会社で空気だ。
どれくらい空気かというと、新入社員歓迎会以降の飲み会に誘われたことがないレベル。
悲しいかな、後輩にあれ? こいつどこの部署のやつ? と思われていそうだ。
本名は倉井進 。彼女ない歴イコール年齢の23歳だ。
あたまの四文字をとって、クライス。
僕のリア友は片手の指の数より少ないけど、クライスには話し相手が500人もいるんだ。
クライスが現実であってほしい。
後輩や同期が、「昨日の店めっちゃお通しの量多くてびびったなー」なんてたわいない会話をしているのは、ちょっとむなしい。
僕、その飲み会誘われてすらいませんが。
今更あの輪に入れる気がしない。
今時の社会人男子って何話せばいいんだ。
経済の話か? それとも好きな女優の話か?
ソシャゲをするタイプでもないから、そういう話題にもついていけない。ちらほら聞こえた話によると、ウマの擬人化美少女が人気らしい。何だそれは。
興味もないのにまわりに合わせてアニメ映画を見に行くというのも違う気がする。
だから空気になるんだよ、と自分に内心で突っ込みを入れる。
職業選択を間違えたか……いや、話しかけられたときにテンプレなビジネス言葉しかでてこない僕では、どこに転職しても同じ。
今日は暑いねと言われたら「そうですね」で会話が終了してしまう。
いっそスマホに入っている自動応答ソフトのほうが円滑に会話していそう。
AIに負けてるよ、僕。
気の利いた会話をできるようになれば、と思ってライブ配信アプリをインストールした。
顔が見えない相手から、少しずつならそうと考えたんだ。
一曲歌い終わり、時刻は22時をまわったところ。
「そろそろ枠を閉じようか。みんな、今日も来てくれてありがとう。右から名前を呼んでいくから、起きていたら返事してくださいね。ゆっちー」
ゆっち[はーい(>vく*)]
「タケー」
タケSub[ノ]
「えびのしっぽー」
えびのしっぽ[わくとじ(((((└(:D」┌)┘)))))))ヤダヤダヤダヤダ]
「あははは! ありがとうね。たなかかなも、ありがとう〜!」
たなかかな?[\( 'ω' )/]
配信を見に来てくれたみんなの名前を呼んで、「おやすみ、また明日」と言って配信を終了する。
画面のバックライトが一瞬消灯して、そこには平凡な顔の僕が映った。
現実でもクライスみたいに高身長イケメン饒舌だったら人生バラ色だろうにな。
「あー、よかった。今日もみんなが来てくれた」
今日枠 に来てくれた人の八割方は、古参リスナーだ。
配信を聴くだけでなく、自らライブ配信している人もいる。
僕が風邪をひく一歩手前のときは[声がいつもよりかれているようです、だいじょうぶですか]とコメントをくれる。
軽いノリで話しかけてくれる楽しい人もいる。
いつかオフ会をしてみたいななんて考えて、すぐ考えを打ち消す。
人が目の前にいると緊張して、何を話せばいいかわからなくて、頭が真っ白。
イケメン高身長執事クライスの中身が、こんな口下手チビだなんてしれたらどうなるか。
「馬鹿なこと考えてないで、寝よ……」
明日は仕事上がりにカラオケに行って、よくリクエストされる歌手の曲を練習しておこう。えびのしっぽさんは湘北の凪の曲が好きなんだよな。
よく来てくれるフォロワーの好みをメモ帳にリストアップしている。
画面の向こうのリスナーさんたちは、人生輝いてんのかな。
ああ、だめだめ。こんな暗いこと配信で言えるわけがない。
ベッドに身を投げ出すと、SNSのダイレクトメッセージ着信通知音が鳴った。
開いてみると、それは“ゆっち”からだった。
ゆっち[とつぜんのDM失礼します。今日の配信も楽しかったです。折り入ってお願いがあるのですが、ご都合のよいお時間ありましたらよろしいでしょうか]
クライス[かまいませんよ。ゆっちさん、どうしたんですか]
ゆっち[ありがとうクライスさん。配信やこうしてメッセージすると、とても真摯な方だとお見受けするので、相談に乗っていただきたいのです。クライスさんはお付き合いしている女性はいますか]
おおっとお!
これはもしかして恋の告白パターン!?
ふだんのコメントから察するに女の子なんだよな、ゆっち。
いやいやいやいや、まて、落ち着け僕。バ美肉オッサンだったパターンを考えろ。
彼女もできたためしがないのに、掘られるわけにはいかん。
慎重に答えなければ。
クライス[いませんよ]
ゆっち[そうでしたか。あの、アタシみたいな女性ってどう思いますか]
スマホを持つ手が汗ばんで震える。
これもしかしてもしかする?
ゆっちが僕に告白する流れキタ!?
いや、先走るな僕。
クライス[明るいし誠実だし、素敵だと思います。どうしたんですか、そんこと聞いて]
数分おいて、ゆっちから次のメッセージがきた。
ゆっち[メッセージより実際に会って相談した方がわかりやすいかな。オフ会って、可能ですか]
おおおおおおおお、おぅふ。実際に会う!?
やばい、これはまじで来たのか。
ゆっち、ゆっち! マジかゆっち!
おっと、変なテンションになった。
僕知ってる。
こういうのってBL漫画でよくある。だいたいバ美肉オッサンでガチムチマッチョか、その筋のコワモテがくるんだ。
いや、そんなことを考えちゃいけない。ゆっちは純粋に悩みがあって、僕に相談したいだけなんだ。変な想像はゆっちに失礼だろう。
他の誰でもなく、僕を頼ってくれたんだ。
チビで冴えない|中の人《ぼく》に会ったら幻滅されるかもしれないけど。
悩みながらも、指先で返信を入力する。
クライス[だいじょうぶです。ただ、平日の日中は仕事があるので、土日でかまいませんか]
ゆっち[ありがとうございます。土日、行けます。クライスさんの都合が良い場所と時間ありますか]
すぐに返信が来た。
よほど切羽詰まった悩みなのかな。
翌週の日曜日、十時に上野駅緑のパンダ像の前で落ち合うと約束してメッセージが終了する。
「あああああ、会うのか僕。二人で会うのもオフ会だよな。そうだ、服。服どうしよう」
人と会うのに適した服を持っていないことを今更思い出す。
衣装ケースには、中1のときから着倒してびろびろのTシャツとデニムパンツしかない。
ゆっちに失礼のないよう、明日の仕事帰りにどこかでイイ感じの服を調達しよう。
……イイ感じの服ってどんなんだ?
バーチャル美少女受肉……ようは美少女アバターを使いライバー活動をすることだ。
中の人は本当にきれいな女性だったり、五十歳超のオッサンだったり。
僕もまたバ美肉の中の人だ。
ただし美少女でなく、美青年執事のアバターをかぶって活動しているのだ。
タケSub[ズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイズイ (ง˘ω˘)วズイ]
ゆっち[クライスかっこいい!]
ゆっち[ゆっちがギフト【大好き!】500ptを贈りました]
たなかかな?[ないギフ!└(└ 'ω')┘< Fooooooooo!!!!!!!]
えびのしっぽ[やっぱクライスはテンポ速い曲あってるね。うまー!!]
イヌ派[88888888]
ライブ配信の枠に、僕を応援するコメントが届く。
僕はクライスという名前で歌・雑談配信をしている。
一曲歌い終えれば[次、トキのサマーバケーション聞きたい!]とコメントがきた。
「ゆっち、リクエストありがとう。それじゃサマバケいきますよ!」
仕事が終わってからの二時間だけの配信だけど、半年続けるうちに毎日聞きに来てくれる人が出てきた。
現在フォロワー512人。無所属勢だし、配信者としてはまだまだ殻のとれないヒヨコみたいなもんだ。
最高ランクにいる人気ライバーは、事務所所属で7000人超のフォロワーがいる。
僕がライブ配信する目的は、そこじゃないからべつにかまわない。
僕がライブ配信する目的は、友だちを作ることと、口下手を直す。この2点に尽きる。
本当の僕は内弁慶な口下手、会社で空気だ。
どれくらい空気かというと、新入社員歓迎会以降の飲み会に誘われたことがないレベル。
悲しいかな、後輩にあれ? こいつどこの部署のやつ? と思われていそうだ。
本名は
あたまの四文字をとって、クライス。
僕のリア友は片手の指の数より少ないけど、クライスには話し相手が500人もいるんだ。
クライスが現実であってほしい。
後輩や同期が、「昨日の店めっちゃお通しの量多くてびびったなー」なんてたわいない会話をしているのは、ちょっとむなしい。
僕、その飲み会誘われてすらいませんが。
今更あの輪に入れる気がしない。
今時の社会人男子って何話せばいいんだ。
経済の話か? それとも好きな女優の話か?
ソシャゲをするタイプでもないから、そういう話題にもついていけない。ちらほら聞こえた話によると、ウマの擬人化美少女が人気らしい。何だそれは。
興味もないのにまわりに合わせてアニメ映画を見に行くというのも違う気がする。
だから空気になるんだよ、と自分に内心で突っ込みを入れる。
職業選択を間違えたか……いや、話しかけられたときにテンプレなビジネス言葉しかでてこない僕では、どこに転職しても同じ。
今日は暑いねと言われたら「そうですね」で会話が終了してしまう。
いっそスマホに入っている自動応答ソフトのほうが円滑に会話していそう。
AIに負けてるよ、僕。
気の利いた会話をできるようになれば、と思ってライブ配信アプリをインストールした。
顔が見えない相手から、少しずつならそうと考えたんだ。
一曲歌い終わり、時刻は22時をまわったところ。
「そろそろ枠を閉じようか。みんな、今日も来てくれてありがとう。右から名前を呼んでいくから、起きていたら返事してくださいね。ゆっちー」
ゆっち[はーい(>vく*)]
「タケー」
タケSub[ノ]
「えびのしっぽー」
えびのしっぽ[わくとじ(((((└(:D」┌)┘)))))))ヤダヤダヤダヤダ]
「あははは! ありがとうね。たなかかなも、ありがとう〜!」
たなかかな?[\( 'ω' )/]
配信を見に来てくれたみんなの名前を呼んで、「おやすみ、また明日」と言って配信を終了する。
画面のバックライトが一瞬消灯して、そこには平凡な顔の僕が映った。
現実でもクライスみたいに高身長イケメン饒舌だったら人生バラ色だろうにな。
「あー、よかった。今日もみんなが来てくれた」
今日
配信を聴くだけでなく、自らライブ配信している人もいる。
僕が風邪をひく一歩手前のときは[声がいつもよりかれているようです、だいじょうぶですか]とコメントをくれる。
軽いノリで話しかけてくれる楽しい人もいる。
いつかオフ会をしてみたいななんて考えて、すぐ考えを打ち消す。
人が目の前にいると緊張して、何を話せばいいかわからなくて、頭が真っ白。
イケメン高身長執事クライスの中身が、こんな口下手チビだなんてしれたらどうなるか。
「馬鹿なこと考えてないで、寝よ……」
明日は仕事上がりにカラオケに行って、よくリクエストされる歌手の曲を練習しておこう。えびのしっぽさんは湘北の凪の曲が好きなんだよな。
よく来てくれるフォロワーの好みをメモ帳にリストアップしている。
画面の向こうのリスナーさんたちは、人生輝いてんのかな。
ああ、だめだめ。こんな暗いこと配信で言えるわけがない。
ベッドに身を投げ出すと、SNSのダイレクトメッセージ着信通知音が鳴った。
開いてみると、それは“ゆっち”からだった。
ゆっち[とつぜんのDM失礼します。今日の配信も楽しかったです。折り入ってお願いがあるのですが、ご都合のよいお時間ありましたらよろしいでしょうか]
クライス[かまいませんよ。ゆっちさん、どうしたんですか]
ゆっち[ありがとうクライスさん。配信やこうしてメッセージすると、とても真摯な方だとお見受けするので、相談に乗っていただきたいのです。クライスさんはお付き合いしている女性はいますか]
おおっとお!
これはもしかして恋の告白パターン!?
ふだんのコメントから察するに女の子なんだよな、ゆっち。
いやいやいやいや、まて、落ち着け僕。バ美肉オッサンだったパターンを考えろ。
彼女もできたためしがないのに、掘られるわけにはいかん。
慎重に答えなければ。
クライス[いませんよ]
ゆっち[そうでしたか。あの、アタシみたいな女性ってどう思いますか]
スマホを持つ手が汗ばんで震える。
これもしかしてもしかする?
ゆっちが僕に告白する流れキタ!?
いや、先走るな僕。
クライス[明るいし誠実だし、素敵だと思います。どうしたんですか、そんこと聞いて]
数分おいて、ゆっちから次のメッセージがきた。
ゆっち[メッセージより実際に会って相談した方がわかりやすいかな。オフ会って、可能ですか]
おおおおおおおお、おぅふ。実際に会う!?
やばい、これはまじで来たのか。
ゆっち、ゆっち! マジかゆっち!
おっと、変なテンションになった。
僕知ってる。
こういうのってBL漫画でよくある。だいたいバ美肉オッサンでガチムチマッチョか、その筋のコワモテがくるんだ。
いや、そんなことを考えちゃいけない。ゆっちは純粋に悩みがあって、僕に相談したいだけなんだ。変な想像はゆっちに失礼だろう。
他の誰でもなく、僕を頼ってくれたんだ。
チビで冴えない|中の人《ぼく》に会ったら幻滅されるかもしれないけど。
悩みながらも、指先で返信を入力する。
クライス[だいじょうぶです。ただ、平日の日中は仕事があるので、土日でかまいませんか]
ゆっち[ありがとうございます。土日、行けます。クライスさんの都合が良い場所と時間ありますか]
すぐに返信が来た。
よほど切羽詰まった悩みなのかな。
翌週の日曜日、十時に上野駅緑のパンダ像の前で落ち合うと約束してメッセージが終了する。
「あああああ、会うのか僕。二人で会うのもオフ会だよな。そうだ、服。服どうしよう」
人と会うのに適した服を持っていないことを今更思い出す。
衣装ケースには、中1のときから着倒してびろびろのTシャツとデニムパンツしかない。
ゆっちに失礼のないよう、明日の仕事帰りにどこかでイイ感じの服を調達しよう。
……イイ感じの服ってどんなんだ?
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