勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

 城下町の外に出たら、リューガさんが迎えに来てくれた。

「本当に殺されても死なんとはな……」
「ハハハ。自分でもこの特異体質なんとかしたいわー」

 リューガさんの転移魔法でさっきまでいた集会場へとぶ。


「ぁぁあ、ルーザー、生きていたか!!!! すまん、本当にすまない!! 他の種族は竜人族ほど頑丈な作りをしていないということを忘れていた!」

 アストモは両手を合わせて何度も俺に謝る。
 生きていたというか、一回死んだ。
 肋骨全部逝くとかどんだけパワー強いのよ、竜人。
 ハグで逝くから、迂闊に犬や猫飼えないよね。

 悪気があって俺を殺したわけじゃないからフォローしておく。

「大丈夫だ。もらった軍資金で鎧を買ったから、たぶん少しは防御力上がってるぜ」
「そうか」

 アストモは安心して息を吐く。
 俺が帰還したから、リューガさんが会合を仕切り直す。

「さて、これからのことだが。少し前にハラクローイの軍が魔族の地に侵攻した。まずは奪われた地を取り返さねばならん」

 やだー、先に手を出したのカス王なんかい。
 それで魔族の皆さんめちゃめちゃ怒って、土地を取り返そうとしてると。

 ハラクローイって人間の国の中でもとりわけ領土が狭い、世界最小の国家なのよ。
 魔族の地なら人間の領地ではないから人の国とは争わずに済むってところか。

 俺よりハラクローイの皆さんのほうが勇者に適してない?

「そいじゃ奪われた地に俺が潜入しようか。俺が魔族側についたこと、まだ気付かれてないっぽいし」

 さっきハラクローイに飛ばされたとき、寝返ったことについて何も指摘されなかった。つまり潜入して町の内側に罠を仕掛け放題。
 魔物の手引きもたくさんできちゃうね!  

「それならば、こやつらを連れていくといい」
「なんだ?」

 リューガさんがデカイ箱の蓋を開けると、EN硬貨が詰まっていた。

「あらこんにちは、あなた今代の勇者? ずいぶん若いのねぇ」
「若いみそらで戦場に出されるなんて、かわいそうねぇ」

 硬貨たちが口を開いた。本当に、比喩でなく物理的に口がある。開いた口の中には鋭い牙が並んでいる。

「こいつらはミミックという種族だ。人間の国の金に似た姿形をしているが、まごうことなき魔族。肉食の生き物だ。必ずや役に立つであろう」
「確かにすごく役に立ってくれそう〜。よろしくな、ミミックたち!」

 俺はミミックを皮袋につめ、リューガさんの魔法で占領された町に飛んだ。

『ほんとうに魔族に味方してるんすねぇ……オラはとんでもねぇヤツを勇者に選んじゃったっす』

「ゲヘヘへへへ。自分が一番かわいいニンゲンを選んだ時点で終わってんだよ。兵士長を選んどきゃよかったって思っても手遅れさ!」

『ルーくんてばほんと、歴代勇者の中でトップのクズっす』

 てっきり寝返りを咎めるのかと思ったけど、ユーちゃん様は怒ったりしない。

『何百年も封印されて城壁しか見れなくてクソだるかったから、ルーくんにハラクローイを滅ぼしてもらえばオラは自由になれるんじゃないかと思うっす』

 寝返ったからもうないけど、たとえば俺が魔王を討てたなら、ユーちゃん様は来たるべき日のために城の奥深くに封印される。
 そんな人生(剣生?)つまらないもんな。

「ユーちゃん様とはいい酒が飲めそうだ」

 物理的に握手はできないから、心の中で固く握手をしておく。

 てなわけで、ユーちゃん様も寝返った。



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