勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

 勇者になって3回目のデスワープですわ。

「おおゆうしゃ、しんでしまうとはなさけない」

「そのセリフ聞き飽きたんで、次死ぬときまでに別のセリフ考えといてくれません?」

 相変わらずカス王が言うことカスなんで、俺もついつい本音トークしちまったい。


 普通の人間なら初回の死で普通に召されてるのに、俺は何回も死ぬからね。
 どうせ次も同じこと言うんでしょ? というのを遠回しに伝えたら、王のこめかみがピクリとしたのを見逃さなかったぜ。

「おおゆうしゃ、しんでしまうとはふがいない」
「不甲斐ないのはテメエじゃボケーー! そんだけ言うなら自分で魔王討伐に行けや!」

「愚か者が! 平民風情が国王陛下になんてことを言うんだ!」

 元同僚に両腕掴まれて引きずられるのももう慣れました。慣れってコワイねー。

『オラ、1000年剣をやってきて、国王にそこまで楯突く勇者初めて見たっす! 
怖いもの知らずってルーくんみたいな人を言うんすね。ワクワク!』
「俺もこんなにベラベラ喋る剣に初めて会った」

 持ち主が引きずられているのに、楽しげにワクテカしてるユーちゃん様。いい性格だよね。

 城の外に出て俺を地面に放り出すとき、兵士Aがのたまった。

「ルーザー、こんなにバカスカ負けてきて、やる気あるのか! お前は人類の未来を背負っているんだぞ!」
「無理やり背負わされたのであって、立候補した記憶はねー」

 もしかして俺が自ら「ハラクローイの未来のために魔王を倒すぜ!!」って言ったことになってんの? 話ねじ曲がってない?

 まあ不慮の死とはいえ城下町に戻ってきたのでな。
 質屋で宝石を少し売って、防具屋でいっちゃん高価な炎無効化鎧一式を所望した。

 脛の装甲グリーブ足鎧サバトンもセットだぜ。

 防具屋のひげもじゃ親父が

「儂の最高傑作ファイアファントムは、あんたみたいな貧乏人に買えるもんじゃないぞ。冷やかしなら帰んな」

 などと言いよる。
 まあ度重なる戦いで服がボロ布だから、見た目ちょい浮浪者だけど、そんなこと言っていいのかね。

「ちなみにおイクラ万EN?」
「100万ENだ。儂が3年かけて打った傑作。1ENたりともまけないからな!」
「なんだ。100万でいいのか。はいよ」

 札束をドンとカウンターに出したら、ひげもじゃが叫んだ。

「は? え? 100、万EN? 分割でなく、現ナマで!?」
「ちゃんと払ったんだからそれもらっていいんだよな」

 ひげもじゃは震える手で札を1枚ずつ数え、俺に向き直る。

「確かに受け取った。偽札でもない。鎧はお主のものだ」
「よっしゃ」


 金の力ってスゴイねー。
 ついさっきまで俺を浮浪者呼ばわりしていたオッサンが鎧の装着方を手ほどきしてくれてるんだぜ。
 マネーいずパワーぁ!

 ペラい布の服じゃ、竜人のハグだけで死ぬってわかったからな。ハハハー。
 あとドラコのブレス、ぶおーーーっで死にたくないから炎無効化の魔法が付加されているこの鎧は大事。

 ついでに言うなら人間側の兵と戦うことになっても、炎魔法を喰らわなくなるのは良いことだ。

 この資金は魔族から支給されたってのが皮肉だよ。

 とりあえず、勇者おれは鎧を手に入れた。




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