勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

「起きろ犬!」
「ごふぅ!」

 朝っぱらからドラコに叩き起こされた。
 見た目は幼女でも竜人族。パワーがえげつない。
 俺のか弱い右腕ちゃんは、一撃で骨折した。

「たんとお食べ」

 ドラコが掴んでいるのは魚。焼き魚にすると美味いやつだ。
 生け捕りして間もないようで、左右にビチビチしている。

「あぁあぁあ!! やめてください助けてください! わたしには帰りを待つ妻と99匹の子どもがいるんです。子どもたちは生まれたばかり……」

 もしかして全種族言語翻訳ってモンスター以外に普通の生き物の言語も翻訳されちゃう?
 そっか、この魚、魚のくせに子持ちのパパさんかぁ。

「ドラコ。こいつ食うときに焼いていい?」
「ふむ、ルーザーは焼き魚派か。焼いてやる」

 ドラコの口から吹き出るファイア。
 俺の朝食は一瞬でケシズミになった。
 風に吹かれてかけらが飛んでいく。

「ぬー。ひかげんを、まちがえた」
「あー、うん。ミスは誰にでもあるからネー。はははは」


 明日は我が身。ドラコを怒らせないようにしよう。

「ところでリューガさん。ドラコの親はいないのか? 孫ってことは娘と息子がいるはずだよな」
「……去年死んだ。この子の両親は二人とも、ハラクローイの兵に殺されてしまった」

 あ、去年ハラクローイで商隊の通るルートにドラゴンが出るからって、討伐隊が向かったような。

 兵士長がドラゴンを討ち取ったのはその時の話だ。
 だから経験値たっぷり入ってレベル30なわけで。

「その敵が見つかったらどうします?」
「自ら討ち取り、息子夫婦の墓の前に首を供える」

 リューガさんの牙が怪しく光る。仇が目の前にいたら食い殺しそうな顔をしている。
 
 息子夫婦の仇なら仕方ないよね。
 家族が死んだら悲しいのは人間も魔族も同じ。
 ってなわけで、大切な仲間のために犯人を教えてあげよう。なんて仲間想いな俺。

「ハラクローイでドラゴンを倒せるなんて兵士長カーマ・セイ・ヌーだけです。通称ヌー兵士長」 
「そうか、ヌー兵士長か。良いことをきいた。必ずやこの手で討つ!」

 リューガさんが大剣を掲げて誓う。
 兵士長、死亡フラグ二本目が立ったぜ。



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