勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

「おおゆうしゃ、しんでしまうとはなさけない」

 本日、2回目の情けないいただきましたー。
 俺が何か言う前に、兵に掴まれて城外へポイ。まだ2回目なのに手慣れてません先輩たち。

 1日に2回も「しんでしまうとはなさけない」を言われるの、この世界で俺だけじゃね。
 いや、普通は死んだら死にっぱなしだから、そんなこと言われない。
 俺はHP1状態に蘇生してここに戻る。

 もうすぐ日暮れだし、城下町の外に出るのイヤだなー。モンスターは夜に活発になる。

「あ、そうだ。賭場で金作るべ金。布の服一枚で突っ込むから死ぬんだ。宿代もできるし、俺ってばあたまいい!」
『やめといたほうがいいと思うんす』

 いざ尋常に勝負!



 ーーーーボロ負けして所持金がゼロになったぜ!!


 勝てると思ったのに完敗だぜ。
 今夜の宿どころかメシも買えない。
 モンスターがうろつく草原で野宿かよー。


『だーからオラはやめとけってアドバイスしたのに。戦闘力だけでなく運もカスカスっすね』
「カス言うな」

 そもそも俺が自分で装備品用意するのおかしくね?
 人員を出せないにしても、人類の未来がかかってるなら最高級の防具をくれてもいいはずだ。


『オラはこの国で一番すごい武器』
「いや、普段着じゃ防御力0だから、神防御力の鎧渡せって話」

 ユーちゃん様、切れ味はいいんだけどね。防具が平凡な布切れだからスライムにすら負けるわ。

『“攻撃は最大の防御!!!!”って初代勇者が言ってたっす』
「初代勇者ノウキンすぎね?」
『よくわかったっすね。初代勇者はノーキンさんっす』

 誰だよノーキンさん。
 そして剣一本のまま何も解決してねえ。

 いやまてよ。防具を買わなくても、声が聞こえるなら、モンスターと交渉できそうだ。
 

 人間の国同士の戦争でもよくある話。
 そして和平交渉もよくある話。


 意気込んで草原に出た俺の前に、人型モンスターが現れた。

 鱗に覆われた筋骨隆々な肉体にコウモリ系の翼、トカゲのように尖った尾。

 竜人ってやつだ。
 人間で言えば60歳前後の見た目をしている。
 いかにも高貴そうなオーラを持つその人が、俺の前に舞い降りてきた。
 

「ハラクローイに勇者が現れたと聞いた。貴殿がそうだな。その剣、見覚えがあるぞ」 

 竜人は真っ直ぐに俺を見て一礼する。

「我は魔族連合軍の参謀、リューガ。竜人族の王命により参った」
「魔族の参謀様がなんの用でしょ」

 リューガは腰にさげていた布袋を俺に差し出して言った。

「魔族側についてくれ。……ただでとは言わぬ。これは竜人族からの気持ち・・・だ」

 袋の中には宝石が山盛り入っていた。売れば10年は遊んで暮らせそう。

「儂はまだるっこしい話が向かんでの。交渉には相応の対価を払うのが礼儀だと考えておる。どうじゃ、前向きにけん……」
「なるなる、なります! 俺、人類を捨てて魔族側につきまっす!」

 挙手して食い気味に答えた。

『エエエェエェ……。ルーくん1秒も迷わないの』
「俺、人情を大事にするタイプなんで。カス王よりリューガを信じる。やっぱ世の中、金だな金」

 俺をないがしろにする国の未来より、自分の明日のほうが大事に決まってるジャーン?
 勇者の沙汰も金次第ってね。

 勇者就任初日。
 勇者おれは魔王の配下になった。


image
4/18ページ