勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

 そんなわけで、ついさっきまで顔を合わせていたカス王の前に戻ってきたら第一声が

「しんでしまうとはなさけない」だった。


 いや、見返りもらえるわけでもないのに戦った俺は偉くない?
 元同僚へいしに両脇を掴まれて、また城の外に放逐された。

「ねぎらいの言葉くらいかけられんのかチクショーめ」

『わー、さすが勇者。一国の王相手にそのセリフが出るのソンケーっす。ルーくん敬語って知ってるっすか』

「誰がルーくんじゃい。俺の命をなんとも思ってないやつなんか尊敬できるか!」

『鏡見たほうがいいッス』

 すっすすっす耳タコだ。

「俺が死ぬの想定済みだろ。レベル1だぞ。そもそもなんで俺が勇者よ。勇者ってーのはもっと強くて、国や世界の未来を憂うような人格者じゃないのか」

『やだー。国の未来を背負う人格者を戦場に放り出せるわけないじゃないっすかー』

「ドユコト」

 ?を浮かべる俺に、剣は言い放った。

『ハラクローイの兵の中で一番死んでも心が痛まないクズを勇者に選んだっす。オラ、1000年勇者の剣をやってきたけどルーくんほど才能に溢れたクズはいなかったっす!』

 剣の無邪気な声が、俺のハートをザクザク切り裂く。

「え、なにそれ。判断基準おかしくね」

『人格者なら仲間を庇って死んでしまうし、モンスターを殺すのにも心を痛めるっす。その点ルーくんはスライム(父)をさっくり殺れたし天職っすね!』

 クソ明るい声音で言う剣。
 そんな才能褒められても嬉しくもなんともねー。

 それより腹が減ったし、夜はちゃんと宿屋のベッドで寝たいし、暗くならないうちに人里に着きたい。

 木陰からキラーラビットが飛び出してきた。人間の幼児くらいのサイズがあるウサギだ。串焼きが美味い。

「よくもオレの兄貴を殺したな人間め!」

 あ、今回は俺関係ないのに恨まれてますー?

「俺はお前に恨みがないけど、ゴメンネー? 経験値経験値! ついでに晩飯の肉!」

『さすがルーくん人の心がない鬼畜!』

 ざっくざっく。
 ユーちゃん様を振りおろして仕留めた。

 肉を焼いて食っているところで、また別のキラーラビットが出てきた。

「あたしのラビオ君を返してぇぇ!!! あんたを殺してあたしも死んでやる!」 

 まーさか、たった今食っているウサギの恋人に復讐されるとは思わないじゃん?

 俺、本日二度目の死亡。
 死因:メンヘラウサギ
 


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