勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

 薬草採取の人たちを追い返して数日。
 第二陣がやってきた。
 前回の奴らより冒険者ランクが高いメンバーだ。

「うーん。そんなすぐに兵士はこないか。みんなまたオナシャッス」
「おっけー☆ 前より手応えあるといいなあ」
「ふーむ。今回は少しは戦えるかな」

 トレントさんにアストモ、前回ぜんぜん遊べなくて退屈だったって言ってたもんね。
 弓兵を連れてきているあたり、金に目がくらんでメンバーを減らしちゃだめって勉強したのかな。

 厳選冒険者たちも、魔物の皆さんとレベル差がありすぎて5分持たなかったよ。

 そして第三陣。
 ついに兵士団のみんながやってきた。
 リューガさん大歓喜!

「あの白マントつけてる人が兵士長ですよ、リューガさん」
「そうか。では皆の衆。打って出ようか」

 竜人族の戦士部隊の皆さん大集合。
 まずこんなド田舎に現れるはずもないドラゴンの群れに、兵士のみなさんは逃げ出した。

「まじかよドラゴンがこんなに!? 死にたくない。こんな仕事やってられるか!!」
「ま、待てお前ら!!」

 兵士のみんなのレベルや弱点も調査済みだから、竜人族に死角なし。
 一人だけは残って戦おうと頑張っている。

 その唯一が兵士長。

「我が子たちを奪った報いを受けよ!」

 魔族の言葉がわからない兵士長には、ただの咆哮にしか聞こえない。

「くそ、報告と違う。なぜこんなにドラゴンがいるんだ」

 一体だけならまだなんとかなったかもしれないが、数えることを諦めるほどの大群だ。
 必死に剣を振るっているけれど、リューガさんのウロコにはかすり傷ひとつつかない。
 兵士長は右腕を食いちぎられて、聞き手ではない左でなんとか剣を持っていた。

「ルーザーはなにをしているんだ。ルーザーがさっさと魔王を仕留めていればこんなことには」

「あれま、なんで俺のせいになってんのさ兵士長」

 物陰から様子をうかがっていたけれど、名前が出てきたから顔を出した。

「ルーザー! おまえ、なんでこいつらを斬らない。勇者の剣ならこいつらを斬ることくらいたやすいだろう! なぜおれひとりが戦わなければならない」

「なに矛盾したこと言ってるんすか。俺は今のあんたみたいに全身ズタボロになっても、何度死んでも、一人だけで戦えって言われている。だから一人でがんばってくださいね」

 挨拶だけして、その場を離れる。

「な、なんだとルーザー! おまえ、勇者だろう! 勇者の仕事は魔族と戦うこと……」

 俺を追おうとしても、今の兵士長にドラゴンの群れを突っ切る力はない。

 竜人族の皆さんの大活躍で、ハラクローイ兵士団は1日にして壊滅した。
 リューガさんも、食いちぎった腕を息子さん夫婦の墓前に供えるんだって。

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