勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~
ハラクローイで薬が不足している。
薬草採取の護衛をするだけで1万EN。
冒険者一同は浮き足立っていた。
「いやぁ、今回はぼろい商売だよな。いつもの倍以上の報酬がもらえるし。お荷物ユーノがいないと取り分が増えていいなぁ」
「ほんとよね。三分割なら3300EN。宿の部屋グレードあげられるわー!」
「ヨ・クボウノ町あたりって強い魔物が出ないから実質労働しなくて稼げるわね」
なんて話をしながら山に向かった。
普段なら雑魚の筆頭スライムかウサギしか出ないようなルートだ。
なのに、なのに。
「な、な、なななんああ、なんで、土蛇がいるんだあああああ!!」
全長5メルトはある巨大な蛇の魔物、土蛇が前方に出現した。
護衛が全員逃げ出し、身を守るすべを失った薬師は手近な木にすがりついて震えている。
「ま、まて、おいていかないでくれ! なんのための護衛なんだ!」
「そんなの知るか。自分の命が最優先に決まってるだろ!」
薬師を見捨てて逃げた者たちは、土蛇の襲撃を受けていた。
どれだけ走って逃げようとも、地面の下を移動して追ってくる。
土蛇は体が土に覆われているから、剣じゃどうにもできない相手だ。
額にあるコアを攻撃するしかないが、歩兵では届かない。
そして逃げた先に、キラービーが現れた。
「クソ、蛇のコアもキラービーも高いところにいすぎて剣じゃ届かない。ユーノ、テメェちゃんと仕事し……」
こういうとき飛行系の魔物を狙撃してくれるユーノを切り捨てたのは、他ならぬゴーマンである。
「魔法でどうにかできないの!?」
「詠唱中に逃げ回るから魔法が当たらないわよ! ゴーマン! あんたがユーノを追い出したからよ」
「お前らだって賛成しただろ!」
後衛をおろそかにしたが故に、命の危機に陥っていた。
そして別のパーティーもまた、本来ならこの地に現れない鉄ネズミと遭遇して苦戦していた。
「なんなんだこれは、薬草採取の護衛なんて楽勝なはずなのに!」
取り落としてしまった剣は鉄ネズミがたかって刃があちこち欠けている。
鎧も次々にかみつかれて、見るも無惨に穴だらけだ。
なんで若造のルーザーなんかが勇者に選ばれたんだとくだをまいていた者たちだ。
そして薬師たちがすがりついている木、それはトレントである。
木が突然暴れだし、薬師も逃げまどう。
魔族軍大勝利な様子を、俺は上空から見物していた。
アストモが背に乗せてくれているのだ。
「おれの出番はなさそうだな」
「そうだなぁ、思った以上に冒険者は弱かった」
護衛を失い、魔物の群れの中に取り残された薬師が三人。山の手前で途方に暮れている。
「あいつらはどうする。食っていいか」
「俺はやさしいから、王都に連れて帰ってあげよう。アストモ、ちょっと離れたところに俺を下ろしてくれないか」
アストモがヘイワナに降りて、俺は山の入り口で震えている薬師たちのもとへ行った。
「俺はルーザー。ハラクローイ王に任命された当代勇者だ。帰れなくて困ってるんだろ。王都まで同行してやるよ」
三人とも、護衛が役目を放棄して絶望中だったから、まるで救いの神が現れたかのように喜ぶ。
「本当ですか! これで妻の元に帰れます」
「ありがとう、ありがとう。さすがは勇者だ。冒険者なんて偉そうなだけで何の役にも立たなかった」
「このままでは魔物に襲われて死んでしまうところだった。ありがとう、勇者様」
お礼を言ってもらってるとこ悪いけど、この魔物さんたちみんな俺が呼んだんだ。
ぶっちゃけマッチポンプなんすよ。
冒険者10人が束になっても勝てなかった魔物の軍勢の中、俺は非戦闘員三人を連れて王都へ向かう。
魔族のみんなこういうイベントが好きらしく、俺と戦うふりをしてくれる。
薬師たちを後ろにかばい、ユーちゃん様をかまえる。
「ここは俺に任せて、おまえたちは王都に帰りな。大丈夫。俺は勇者の剣の加護で死んでも死なない体になっているから!」
「シャアアアア!(はっはっは。演技派だなあルーザー。ちゃんと人間の味方っぽくみえるぞー。とりあえずオイラは尻尾でもふっとけばいい?)」
土蛇に指で〝よろしく!〟と合図して戦闘の演技をする。
俺は絶対に土蛇に当てないし、土蛇も技と攻撃を外す。
『くだらない小細工までするルーくんサイテー☆』
ユーちゃん様はだまらっしゃい。
「ああ、ありがとう勇者! 健闘を祈る!」
薬師たちも無事王都に逃げ帰ったから、ギルドに「強い魔物が異常発生して、冒険者ではどうにもならない」と報告してくれているはずだ。
そうして兵士の皆様を引きずり出すのが俺たちの目的。
さてさて。計画通りに出てきてくれるかな。
薬草採取の護衛をするだけで1万EN。
冒険者一同は浮き足立っていた。
「いやぁ、今回はぼろい商売だよな。いつもの倍以上の報酬がもらえるし。お荷物ユーノがいないと取り分が増えていいなぁ」
「ほんとよね。三分割なら3300EN。宿の部屋グレードあげられるわー!」
「ヨ・クボウノ町あたりって強い魔物が出ないから実質労働しなくて稼げるわね」
なんて話をしながら山に向かった。
普段なら雑魚の筆頭スライムかウサギしか出ないようなルートだ。
なのに、なのに。
「な、な、なななんああ、なんで、土蛇がいるんだあああああ!!」
全長5メルトはある巨大な蛇の魔物、土蛇が前方に出現した。
護衛が全員逃げ出し、身を守るすべを失った薬師は手近な木にすがりついて震えている。
「ま、まて、おいていかないでくれ! なんのための護衛なんだ!」
「そんなの知るか。自分の命が最優先に決まってるだろ!」
薬師を見捨てて逃げた者たちは、土蛇の襲撃を受けていた。
どれだけ走って逃げようとも、地面の下を移動して追ってくる。
土蛇は体が土に覆われているから、剣じゃどうにもできない相手だ。
額にあるコアを攻撃するしかないが、歩兵では届かない。
そして逃げた先に、キラービーが現れた。
「クソ、蛇のコアもキラービーも高いところにいすぎて剣じゃ届かない。ユーノ、テメェちゃんと仕事し……」
こういうとき飛行系の魔物を狙撃してくれるユーノを切り捨てたのは、他ならぬゴーマンである。
「魔法でどうにかできないの!?」
「詠唱中に逃げ回るから魔法が当たらないわよ! ゴーマン! あんたがユーノを追い出したからよ」
「お前らだって賛成しただろ!」
後衛をおろそかにしたが故に、命の危機に陥っていた。
そして別のパーティーもまた、本来ならこの地に現れない鉄ネズミと遭遇して苦戦していた。
「なんなんだこれは、薬草採取の護衛なんて楽勝なはずなのに!」
取り落としてしまった剣は鉄ネズミがたかって刃があちこち欠けている。
鎧も次々にかみつかれて、見るも無惨に穴だらけだ。
なんで若造のルーザーなんかが勇者に選ばれたんだとくだをまいていた者たちだ。
そして薬師たちがすがりついている木、それはトレントである。
木が突然暴れだし、薬師も逃げまどう。
魔族軍大勝利な様子を、俺は上空から見物していた。
アストモが背に乗せてくれているのだ。
「おれの出番はなさそうだな」
「そうだなぁ、思った以上に冒険者は弱かった」
護衛を失い、魔物の群れの中に取り残された薬師が三人。山の手前で途方に暮れている。
「あいつらはどうする。食っていいか」
「俺はやさしいから、王都に連れて帰ってあげよう。アストモ、ちょっと離れたところに俺を下ろしてくれないか」
アストモがヘイワナに降りて、俺は山の入り口で震えている薬師たちのもとへ行った。
「俺はルーザー。ハラクローイ王に任命された当代勇者だ。帰れなくて困ってるんだろ。王都まで同行してやるよ」
三人とも、護衛が役目を放棄して絶望中だったから、まるで救いの神が現れたかのように喜ぶ。
「本当ですか! これで妻の元に帰れます」
「ありがとう、ありがとう。さすがは勇者だ。冒険者なんて偉そうなだけで何の役にも立たなかった」
「このままでは魔物に襲われて死んでしまうところだった。ありがとう、勇者様」
お礼を言ってもらってるとこ悪いけど、この魔物さんたちみんな俺が呼んだんだ。
ぶっちゃけマッチポンプなんすよ。
冒険者10人が束になっても勝てなかった魔物の軍勢の中、俺は非戦闘員三人を連れて王都へ向かう。
魔族のみんなこういうイベントが好きらしく、俺と戦うふりをしてくれる。
薬師たちを後ろにかばい、ユーちゃん様をかまえる。
「ここは俺に任せて、おまえたちは王都に帰りな。大丈夫。俺は勇者の剣の加護で死んでも死なない体になっているから!」
「シャアアアア!(はっはっは。演技派だなあルーザー。ちゃんと人間の味方っぽくみえるぞー。とりあえずオイラは尻尾でもふっとけばいい?)」
土蛇に指で〝よろしく!〟と合図して戦闘の演技をする。
俺は絶対に土蛇に当てないし、土蛇も技と攻撃を外す。
『くだらない小細工までするルーくんサイテー☆』
ユーちゃん様はだまらっしゃい。
「ああ、ありがとう勇者! 健闘を祈る!」
薬師たちも無事王都に逃げ帰ったから、ギルドに「強い魔物が異常発生して、冒険者ではどうにもならない」と報告してくれているはずだ。
そうして兵士の皆様を引きずり出すのが俺たちの目的。
さてさて。計画通りに出てきてくれるかな。