勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

 俺たちが予想したとおり、王都のギルド掲示板には薬草採取の依頼が出た。
 世の中には薬師という仕事をする者がいて、その人の護衛をするという任務だ。

 素人には雑草と薬草、毒草の区別なんてつかないからな。
 よほど凶悪なやつがでない限りはかけだし~初級冒険者の仕事だ。
 兵はなにしてるのかって? 城や町の警備だ。

 どっかの国でも、ケーサツの仕事は保安。薬師の護衛なんてしないだろ。

 ギルドは誰でも出入りできるから、俺も冒険者たちに混じって掲示板を眺める。

「わー。薬草採取をする薬師護衛、普段の倍の値段じゃん」

 普段は薬草採取・帰還するまでの護衛で日給4000EN。今回は10000ENとなっている。ちなみに一人で行こうがパーティーで行こうが固定額10000EN。とうぜん、人数が少ない方がひとりあたまの取り分が多い。

 となると、みんな自分の取り分を増やすためにあることをする。


「ユーノ! お前はこのパーティーに不要だ! 今日限りで外れてもらう!」
「そ、そんな。なぜだゴーマン。僕はアーチャーとして貢献していたのに」
「貢献? 勘違いすんな。お荷物なんだよ!」

 ユーノと呼ばれた少年がクビを宣告され、その場に座り込んでしまった。
 あー、あのパーティー大丈夫かね。残ったのゴーマンって男と女剣士と女魔法使いだけど。
 近接攻撃と魔法攻撃しかできないなら、遠隔攻撃系の魔物と出くわしたら一発で全滅だね。おつおつ。
 よっしゃ、リューガさんに報告しとこ。
 例の場所には遠隔系で魔法耐性の強い子の派遣ヨロシクって。

『そんなこと思っちゃうルーくん、さすが歴代一の勇者適正者☆』

 ユーちゃん様はダマらっしゃい。
 こんな感じの現象がそこかしこで起こり、醜い椅子取りゲーム状態になっている。

「あ、あれってルーザー? 勇者に選ばれたっていう? なんでここにいるんだ。魔王討伐に行ったんじゃないのか」
「知らん。もとは新兵だって聞くし、おおかた怖じ気づいたんじゃないか」
「がははは。あんな若造じゃ、スライムにも勝てまい」


 聞こえてるぜー。国のために戦えってカス王に言われてんのに、国民からの評価がこれかあ。

 今ギルドに集まっている冒険者たちの情報をあらかたメモして、ギルドを後にした。
 勇者になっても見た目は普通の人間のままだから、こういうとこ便利だよな。
 情報横流しし放題。

 集めた情報を元にして、あちこちの魔族に声をかけて部隊を作った。

 地面の下を移動できる土蛇さん、動く樹木トレントさん、麻痺毒を持つキラービーさん、鉄ネズミさん。
 あ、鉄ネズミさんは鉄類を好んで食べるネズミ系モンスターなんだ。
 鉄鉱石はもちろん、剣とか鎧とか、そういうのね。
 小さくてすばしっこいから攻撃が当たらないので有名だ。

 頼もしいことに、竜人族のアストモ部隊もヘイワナ周辺の伏兵として来ている。

 もともとこのあたりに住んでいる獣人は争いを好まない、おとなしい種族だから、魔族の中でもとりわけ好戦的な子を呼んでもらった。

 もう間もなく王侯貴族からの薬草採取依頼を請け負った冒険者たちがやってくる。
 本来このあたりに現れないような魔物を伴っているとは夢にも思っていないはず。

 さあ、魔族軍の反撃、開始だ!



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