勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

 解放したウサギ獣人たちを連れてリューガさんのもとに戻る。
 町の現状を伝えると、リューガさんはハラクローイの所業に怒りを爆発させた。

「なんということだ。ハラクローイめ! おまえたち、こんなに痩せて。すぐに仲間の元に戻してやるからな!」
「伯父上。こいつらをウサギ獣人に連れて行くのは俺に任せろ」

 アストモが転移魔法で、ウサギ獣人たちの新しい町まで連れて行ってくれることになった。持つべきものは仲間だね。
 一番小さなウサギの女の子が、頭をぺこりと下げる。

「ありがとう、勇者のおにいちゃん」
「いいってことよ」

 勇者になってから一番最初に感謝の言葉を伝えてくれたのが、元敵方の魔族さんってどうかと思う。
 家族の元に帰るウサギっ子を見送って、リューガさんと話し合う。

「他にも捕虜になっている者がいないか、ミミックたちに見ていてもらうかのう」
「え、そんなことできるの?」

 リューガさんの手元にはEN銅貨……もといミミックさん。

「じつはあたしたち、硬貨ミミック間でテレパシーができるの。ルーザーが魔導師のもとに置いてきた子たちの声はずっと聞こえているわ」
「わー、スパイにぴったりだね君たち」

 あのオッサン(ザコダというらしい)は、俺が撒いた金がモンスターだなんて気づいちゃいないようだ。
 今は屋敷に持って帰って、ニヤニヤ笑いながら金貨ミミックたちを磨いているらしい。

「ルーザー。捕まっている獣人はあの子たちで全員みたいよ。金貨ちゃんが、“こいつムカツクから食っていい?”って言ってるけどどうする?」
「あ、獣人ちゃんたちがムチ打たれるのあの子たちも見てたもんねー。でも食うのは待って。あのオッサン、「この金を陛下に献上して地位を買う」とかなんとか言ってたんだよね。たぶんオッサンは王城以外にも各貴族の家にも賄賂という名のミミックちゃんを送り込む」

 あとは言わなくてもわかるな?
 リューガさんもうんうんと深く頷く。

『ミミックによる大量捕食事件が起きても、犯人はミミックを献上したザコダだ! と思われるから、ルーくんの名前は一切汚れないと。闇が深いっすね』

 ユーちゃん様はだまらっしゃい。

「あらまー、あたしたちみたいなお肉を食べるしかできない硬貨ミミックがそんな大役を担っちゃっていいのかしら」
「王城にいる兵士長だけはとっといてくれよな。あれはリューガさんの獲物だから」
「任しときなさい」


 それから俺は城下町とヨ・クボウノ町で、傷薬と薬の材料になる薬草を棚買いした。
 ほら、俺最前線に出る勇者様だから怪我するし? いざ傷を治したいタイミングで薬がないと困るじゃん?
 ハラクローイが剣以外を支給してくれないから、治療薬を自分で買うほかないよね。

 べつにザコダをはじめ貴族たちが傷薬を必要とするタイミングで町の薬在庫ゼロってのを狙ってるわけじゃないよ、うん。

 買い占めた薬は魔族軍にまるっとお届け。
 奴隷にされていた五人は家族と合流できたようで、改めて一族そろってお礼を言われた。

 それから五日。ほどよく王様や貴族たちの手元に金貨ミミックが行き渡ったところで、

 作戦が開始された。
 

 
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