勇者は寝返ることにした ~新弟子舞うとはな酒ないと言われてやってらんねーので俺は魔族軍につく~

 転移魔法で送ってもらったのはハラクローイ北端にある町ヨ・クボウノ。
 かつての名前はヘイワナ町。

 1年前まではウサギ獣人が暮らしていた。
 今はハラクローイに占領されて、ハラクローイの領土となっている。

 争いごとを好まないウサギ獣人は、なすすべもなく故郷を追われた。

「幸運を祈るぞ、ルーザー」
「任しといてくださいよリューガさん。中の状況バッチリ探って来くるから」

 俺はやる気満々でヨ・クボウノ町に踏み込んだ。

 城下町より人が少ないけど、町人や巡回の兵、商人の馬車が行き来している。
 もう完全に人間の支配下ダヨネ……。

 あ、でもウサギ獣人もちょっといる?

 【カスラ王別邸】と札が立っている建設現場に、ウサギ獣人が5名。
 みんなおそろいの真っ黒な首輪を付けている。

『あー、あれ従属魔法っすね。術者に逆らうと首が吹っ飛ぶ魔法っす』
「なにそれこわい」

 ハラクローイはこの地を乗っ取っただけじゃなく、獣人を何人か奴隷にしてるってことでOK?

『そそそそ。ルーくんバカだけどそういう理解は早いっすね』
「褒めてんの? 貶してんの?」

 太い材木を運んでいたウサギ獣人の女の子が転んで、材木が地面に落ちた。
 足も手もボロボロで、すごく痩せている。

「大丈夫か?」

 俺は駆け寄って手を出す。

「たす、けて」

 今にも死んでしまいそうなかすれた声で、女の子が言う。
 監視役の魔導兵が鞭を振った。

「そこの男、余計なことをするな! そいつの仕事は命をかけて陛下の別邸を建設をすることだ」

 かっちーん。
 なんでカス王、こんな子どもを奴隷にしてるわけ。
 俺は自分が一番かわいいクズだけど、カス王もゴミクズじゃねーか。

「この子に従属魔法かけたの誰? あんた?」
「それがどうした」

 頭硬そうなオッサンがのたまう。
 だから俺は、誠意を示すことにした。

「この子たち俺がもらうわ」
「は?」

 ハラクローイの紙幣は1000ENまでしかない。

 1EN、10EN、100EN、1000EN。
 そこから先は硬貨。
 銅貨1万EN、銀貨10万EN、金貨100万EN。

 100万を札で持っていたのは、札のほうが細かい買い物に便利だから。
 金貨で支払っても、小さな商店は釣りを出せない。

 惚けるオッサンに、俺は皮袋の中身をぶちまける。

「これだけあれば足りるよな?」

 足元に飛び散る金貨、およそ1000枚。

「これあげるから、この人たちを俺にちょうだい。かわりに人間を雇いなよ」

 ニッコリ笑ってお願いしたら、オッサンはすぐさま全員の従属魔法をといてくれた。


 オッサンは「ふははは、これを陛下に献上すればわたしの地位は上がるに違いない。こんな辺鄙な街で終わる男じゃないんだ!」なんて言いながら散らばった金貨ーーもといミミックをかき集めている。


 ウサギ獣人たちを連れ歩くわけにいかないから、俺はいったんヨ・クボウノ町をあとにした。

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