ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜
「ここは、どこ?」
私は高校の友達と海水浴していた。
……していた、はず。
光る海流に足を取られて、気づくと、誰もいない砂浜に倒れていた。
自分の格好を見下ろすと、ワンピース水着の上に耐水性のパーカーを着たまんま。まさしく海水浴中の姿だ。
空は青。目の前の海(たぶん海)は水がオレンジ色。オレンジジュースかってくらいオレンジ。
海岸の反対側に目を向けると、鬱蒼と茂る森。
森からは〈ギシャァーーー!〉っていう、ジュラシックパーク的な咆哮が聞こえてくる。
「…………えー、落ち着け私。山岸《やまぎし》ヒカリ16才、好きなアニメはプリ○ュア。うん、オッケーオッケー。ここは日本の……日本、の」
少なくとも水がオレンジ色の海なんて地球上にはないと思う。日本どころか、地球ですらないよね、ここ。
「誰か! 誰かいませんかーー!!」
……返事はない。ここには私しかいないんだ。
どうしたらいいんだろう。途方に暮れて空を見上げると、視界を白いものが横切った。
鳥じゃない。鳥にしてはやたらと大きい。
白い何かはどんどん近づいてくる。
「ひえええっ、ド、ドドド、ドラゴン!? 本物? 夢でなく? 私ドラ○エの世界にでも来ちゃったの!?」
目の前に舞い降りてきたのは、RPGに出てくるようなドラゴンだった。
全身真っ白なそのドラゴンは首長で、前足が短くて後ろ足は太い。
ドラゴンの背中には、少年が乗っていた。
少年の髪はきみどり色。私を見る瞳は紫色。
わー、明らかに異世界の人間ですね。間違いなく異世界転移ってやつですね……泣きたい。
もしかして異邦人は狩られるような危険な世界なのかな。
不安で胸を埋め尽くされていた私に、少年は聞いてきた。
「黒髪に黒目のナガレビト……。もしかしてあんた、日本人?」
「え、私が、日本、人……ってわかるんですか?」
「うん。まあね。何年かに一回、君のように異界の人が流されてくるから。そういう人を、ここではナガレビトって呼ぶんだ」
少年の口から飛び出したのは日本語。しかも私が日本人だと知っている。
どういうこと。この人はどう見ても日本人に見えないのに。
「あー、ごめんごめん。いきなり流されてきたら混乱するよねー。オレはトモキ。シノミヤ・トモキ」
「ど、どうも。私は、山岸ヒカリです。シノミヤってことは、シノミヤさんも日本人?」
「そっか。よろしく、ヒカリ。オレ自身が日本人ってわけじゃないよ。ご先祖様が日本人なんだ」
シノミヤさんがサラリと軽く言ってくれたけれど、ドラゴンがいるような世界に、日本人がポンポン流されて来るって……。
「シノミヤさんなんてかたっ苦しい言い方しなくていいよ。トモキって呼び捨てて」
「と、トモキ」
「うむ。それでいい。そのかっこだと寒いでしょ。サイハテ町に行けば住む場所と服を提供できるから、ヒカリもおいで」
知らない人についていっちゃいけません、って母さんがいつも言っているけれど、このまま知らない海岸にいてもどうにもならない。
わらにもすがる思いでトモキさんの差し出した手を取る。
「シロの翼なら町までひとっ飛びだから。さ、後ろに乗って」
「……あの、このドラゴンはあなたが飼っているの? この世界ってモンスターを手懐けるゲーム的ななにか?」
って、『ゲーム』なんて言っても異世界の人に伝わるわけがないか。
「ゲームじゃないよ。こっちの世界にそういうブンメイはまだない。それと、シロはじいちゃんが赤ちゃんのときから育てているから、じいちゃんの子どもみたいなもんなんだよ」
「あ、ゲームがわかるんだ」
「ゲームがわかるし、ユーチューブもわかるよ。じいちゃんは日本でハイシンの仕事してたから。昔から、日本のこと色々と話してくれてさ。面白いんだよ」
「おじいさん、ユーチューバーなの?」
「うん。じいちゃん、今は町長やってるんだ。この世界でわからないことがあったら、まずはじいちゃんの日記を読むといいよ。ナガレビトの役に立つことがたくさん書いてあるから」
トモキはおじいちゃん子なんだなって言葉の端々から伝わってくる。
二言目にはじいちゃんが教えてくれたって言うんだもの。身近なあれこれの単語がトモキの口から出て、すごく安心した。
知らない世界に、日本のことを話せる相手がいるなんて。
トモキにいわれるまま、白いドラゴンの背に乗る。
「ヒカリ。すぐ町につくから、シロにしっかり掴まってて」
「う、うん」
「帰ったらまずはごはんかな。オレの母さんすっごく料理上手なんだ。ヒカリも絶対に気に入るよ。シロ、GO!」
トモキに撫でられ、ドラゴンがきゅぴー、と啼く。
見かけによらず啼き声がかわいい。
シロの背に乗って、私たちは森をひとっ飛び。
ファンタジックな建物がたくさんある場所が見えてきた。
広い畑には鮮やかな野菜が実っていて、町にはお店らしい建物が何軒も並んでいる。空から見えるだけでも獣人や翼のある人、普通の人間が行き交う。
「あ、いたいた。あそこだよ。じいちゃん! 母さんー! ナガレビトがいたよ〜!」
トモキが町の真ん中にいる人に向かって大きく手を振る。
黒髪に白髪の交じる男の人と、トモキと同じ髪色の女性が手を振り返している。
私たちを乗せて、シロがふんわり二人の前に降り立つ。
こうしてサイハテには今日もまた、新しい住人が増えています。
END
私は高校の友達と海水浴していた。
……していた、はず。
光る海流に足を取られて、気づくと、誰もいない砂浜に倒れていた。
自分の格好を見下ろすと、ワンピース水着の上に耐水性のパーカーを着たまんま。まさしく海水浴中の姿だ。
空は青。目の前の海(たぶん海)は水がオレンジ色。オレンジジュースかってくらいオレンジ。
海岸の反対側に目を向けると、鬱蒼と茂る森。
森からは〈ギシャァーーー!〉っていう、ジュラシックパーク的な咆哮が聞こえてくる。
「…………えー、落ち着け私。山岸《やまぎし》ヒカリ16才、好きなアニメはプリ○ュア。うん、オッケーオッケー。ここは日本の……日本、の」
少なくとも水がオレンジ色の海なんて地球上にはないと思う。日本どころか、地球ですらないよね、ここ。
「誰か! 誰かいませんかーー!!」
……返事はない。ここには私しかいないんだ。
どうしたらいいんだろう。途方に暮れて空を見上げると、視界を白いものが横切った。
鳥じゃない。鳥にしてはやたらと大きい。
白い何かはどんどん近づいてくる。
「ひえええっ、ド、ドドド、ドラゴン!? 本物? 夢でなく? 私ドラ○エの世界にでも来ちゃったの!?」
目の前に舞い降りてきたのは、RPGに出てくるようなドラゴンだった。
全身真っ白なそのドラゴンは首長で、前足が短くて後ろ足は太い。
ドラゴンの背中には、少年が乗っていた。
少年の髪はきみどり色。私を見る瞳は紫色。
わー、明らかに異世界の人間ですね。間違いなく異世界転移ってやつですね……泣きたい。
もしかして異邦人は狩られるような危険な世界なのかな。
不安で胸を埋め尽くされていた私に、少年は聞いてきた。
「黒髪に黒目のナガレビト……。もしかしてあんた、日本人?」
「え、私が、日本、人……ってわかるんですか?」
「うん。まあね。何年かに一回、君のように異界の人が流されてくるから。そういう人を、ここではナガレビトって呼ぶんだ」
少年の口から飛び出したのは日本語。しかも私が日本人だと知っている。
どういうこと。この人はどう見ても日本人に見えないのに。
「あー、ごめんごめん。いきなり流されてきたら混乱するよねー。オレはトモキ。シノミヤ・トモキ」
「ど、どうも。私は、山岸ヒカリです。シノミヤってことは、シノミヤさんも日本人?」
「そっか。よろしく、ヒカリ。オレ自身が日本人ってわけじゃないよ。ご先祖様が日本人なんだ」
シノミヤさんがサラリと軽く言ってくれたけれど、ドラゴンがいるような世界に、日本人がポンポン流されて来るって……。
「シノミヤさんなんてかたっ苦しい言い方しなくていいよ。トモキって呼び捨てて」
「と、トモキ」
「うむ。それでいい。そのかっこだと寒いでしょ。サイハテ町に行けば住む場所と服を提供できるから、ヒカリもおいで」
知らない人についていっちゃいけません、って母さんがいつも言っているけれど、このまま知らない海岸にいてもどうにもならない。
わらにもすがる思いでトモキさんの差し出した手を取る。
「シロの翼なら町までひとっ飛びだから。さ、後ろに乗って」
「……あの、このドラゴンはあなたが飼っているの? この世界ってモンスターを手懐けるゲーム的ななにか?」
って、『ゲーム』なんて言っても異世界の人に伝わるわけがないか。
「ゲームじゃないよ。こっちの世界にそういうブンメイはまだない。それと、シロはじいちゃんが赤ちゃんのときから育てているから、じいちゃんの子どもみたいなもんなんだよ」
「あ、ゲームがわかるんだ」
「ゲームがわかるし、ユーチューブもわかるよ。じいちゃんは日本でハイシンの仕事してたから。昔から、日本のこと色々と話してくれてさ。面白いんだよ」
「おじいさん、ユーチューバーなの?」
「うん。じいちゃん、今は町長やってるんだ。この世界でわからないことがあったら、まずはじいちゃんの日記を読むといいよ。ナガレビトの役に立つことがたくさん書いてあるから」
トモキはおじいちゃん子なんだなって言葉の端々から伝わってくる。
二言目にはじいちゃんが教えてくれたって言うんだもの。身近なあれこれの単語がトモキの口から出て、すごく安心した。
知らない世界に、日本のことを話せる相手がいるなんて。
トモキにいわれるまま、白いドラゴンの背に乗る。
「ヒカリ。すぐ町につくから、シロにしっかり掴まってて」
「う、うん」
「帰ったらまずはごはんかな。オレの母さんすっごく料理上手なんだ。ヒカリも絶対に気に入るよ。シロ、GO!」
トモキに撫でられ、ドラゴンがきゅぴー、と啼く。
見かけによらず啼き声がかわいい。
シロの背に乗って、私たちは森をひとっ飛び。
ファンタジックな建物がたくさんある場所が見えてきた。
広い畑には鮮やかな野菜が実っていて、町にはお店らしい建物が何軒も並んでいる。空から見えるだけでも獣人や翼のある人、普通の人間が行き交う。
「あ、いたいた。あそこだよ。じいちゃん! 母さんー! ナガレビトがいたよ〜!」
トモキが町の真ん中にいる人に向かって大きく手を振る。
黒髪に白髪の交じる男の人と、トモキと同じ髪色の女性が手を振り返している。
私たちを乗せて、シロがふんわり二人の前に降り立つ。
こうしてサイハテには今日もまた、新しい住人が増えています。
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