ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 朝ごはんが終わって無限ジョウロ製造の仕事をする。オレの席の隣には、ベビーベッドが設置されている。

 村長が用意してくれた、ビリーが赤ん坊の頃に使っていた代物である。

 ベビーベッドのふかふかクッションの上では、現在シロが体を丸めて寝息を立てている。
 ドラゴンでも生まれたての赤ちゃんだから、たくさん寝ないといけないみたいだな。

「きゅ〜〜〜、ぷぅ〜」
「寝息は人間と大差ないんだなぁ」

 昨日はかなり気負わないといけないような気がしていたが、実はわんニャンの赤ちゃんを育てるのとそう変わらない……のかもしれない?
 ユーチューバーとして、ここは成長記録をつけるべきでは。○ネコ日記とかわんこ兄弟ブログとか、そういう感じの動物育成記ユーチューバーさんいるよね。

題して、『ミニドラゴンのママになったので育成記録つけてみた』

 インターネットみたいに映像を遠くに送れなくてもいいから、ビデオカメラほしいなぁ。
 赤ちゃんのシロが日々大きくなっていく映像を録りたい。
 カメラがなけりゃノートに日記をつけるというアナログな方法でいくか。
 テーブルの向かいで作業をしている、村長の奥さんに聞いてみる。

「ネリスさん、使ってないノートないです? ……もしかしてこの世界だと超高級品かな」
「ノート?」

 この世界にはノートという名前で存在しないんだ。聞き返されちまったい。でも本があるなら、あるんじゃないかな。


「あー、ノートって英語かぁ。こっちの世界だとなんて呼ぶんだ。紙が真っ白の、本? 日記帳?」
「それなら、もうすぐファクターが村に来るから、ファクターから買えばいいんじゃないかい? 毎回文具を仕入れているし」
「ありがとう。そうする」

 ここは異世界の、雑貨屋一つないど田舎。困ったときの行商人ファクターさんである。

「ファクター、月イチでなく、ずっといてくれたらすごく助かるのにな」
「そうさねぇ。ファクターは毎年、冬のあいだは村に住むからね。雪解けまでに説得してみなさいな」
「え、そうなんだ!」

 この世界にも雪が降るということがわかった。新潟県の豪雪地レベルに積もるかは不明だけど、道にどっさり雪が積もっていたらまともに荷車が動かないもんな。
 冬のあいだ一か所に留まるって賢い選択だ。

 ファクターが来るの楽しみだな。オレたちの村発展計画の中には、常設の商店を建てるというものもある。
 もうすぐラビィの病院もできるし、次に必要なのは日用品を扱ってくれる店だ。それと無限ジョウロの販売もそこで行う。
 ヴェヌスまで行くよりここに店舗を建ててお客様を呼ぶのだ。

 おかげさまで無限ジョウロの売上は好調。村に販売店を作れば、きっと人を呼べる。

 ふくらむ計画にウッキウキ。鼻歌交じりにジョウロの基礎を組み立てていると、コトリさんがやってきた。

「キムラン殿、兄上から手紙が来ているぞ」
「わー、ありがとうコトリさん。前に頼んでいたやつの返事かな」

 少し前、売上報告書と一緒に、『遠方の人と会話する魔法具を作れないか、もしくは映像記録の道具はないか』とお伺いの手紙を送っていた。

「その手紙と、これもキムラン殿に渡しておくよう書いてある」
「箱?」

 30センチ四方くらいの木箱だ。もしやもう開発済……もしくはこの世界にあるのか。
 手紙の封を切って、箱も開ける。
 箱の中には、昔懐かしいポラロイドカメラに似た物が入っていた。プラスチックなんてないから、金属とガラスを組み合わせて作られている。

『これは目の前の景色を紙に焼き付ける道具だ。その昔、地球のナガレビトが作った。キムラ殿の役に立つだろうから使ってくれ』そう書かれている。

「ほう。フォトンボックスか。キムラン殿はそれが欲しかったのか?」
「うん、そう。やりたいことに必要なんだ。カズタカさんにお礼の手紙を書かないと」

 動画を残せなくても、写真と日記があれば出来ることの幅はぐんと広がる。
 どんな形であれ、いろんな人に自分の見たもの感じたことを伝えるのが、オレのやりたいことだ。

 ミミに拾われたこと、初めての狩り、初めて育てた野菜が実ったこと、日本人の末裔と出会ったこと、シロを拾ったこと。村での生活や、村が発展していく様子。
 遠い未来、日本からのナガレビトがきて、オレの書き残すものを読むかもしれない。
 平安時代に書かれた源氏物語が、令和の日本まで残されているのに似た感じ。
 それってなんかすごく面白いと思うんだ。
 オレが生きている間にこの世界の文明が発達したら、そのときは動画で残したいな、やっぱり。

 まずはファクターが来たら日記帳を買おう。
 それから、村で最初の商店を経営してくれないかって頼んでみよう。



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