ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜
翌朝。
宿までからあげとレシピを届けに行くと、カズタカさんがぐったりしていた。テーブルに突っ伏してうなっている。
二日酔いだけが原因じゃなさそうだ。
「…………大丈夫です?」
「大丈夫に見えるのか」
「かなりお疲れに見えます」
「そうだろうとも。泥酔した村長と村長の息子にからまれたからな。キムラ殿。ああなるとわかっていたな?」
「すみませんでしたー。黙っていたお詫びの品ってことで、これどうぞ」
カズタカさんの前にお皿を置く。さっき揚げたばかりのほくほくジューシなからあげだ。
蓋を取ると香ばしいかおりが部屋に広がる。
「日本の家庭でよく食べられているおかず、からあげです。コケトリスの肉で作りました」
「ほう」
カズタカさんはからあげにフォークをさし、観察してほおばる。
パッと目を輝かせ、あっという間にひと皿平らげた。もしかして兄妹揃って食欲魔人ですか。
ニコニコしながら肉を食べる姿は|妹《コトリさん》そっくりである。
ハンカチで口元をぬぐって一言。
「うん。悪くないな。これがご先祖様の国の料理か」
「茶わん蒸しとからあげのレシピを書いてきたのでどうぞ。材料さえあればカズタカさんのところでも食べられます」
「もらっておこう」
かっこよく言っているが、たった今子どものように無邪気に食べる姿を見ているから、笑いがこみ上げてくる。
コホンと咳払いして、カズタカさんはオレを見上げる。
「キムラ殿。貴方《あなた》なら読めるのではないかと思って、これを持って来たんだ。訳してくれるのなら報酬は払う」
「これ、とは」
カズタカさんが革のトランクを開き、一冊の厚い本を取り出した。紙は日に焼けて変色し、そうとう年季が入っているのがわかる。
「シノミヤ家の始祖様が、この世界の文字を覚える以前に書いた手記だ。この世界の文字を覚えてから書かれた手記は読めるのだが、ニホンゴのものは読めなくて困っていた。日本人である貴方なら読めるのではないか」
自分のルーツを知りたい、カズタカさんの表情から、期待と不安の気持ちが伝わってくる。
「一応義務教育と高校は卒業しているので、よほど小難しい漢字を使っているのでない限りは、読めると思います。たまたまこの世界に来ただけなのに、お金なんてもらえませんよ」
促されてカズタカさんの向かいの席につき、手記を開く。一部虫に食われて欠落しているが、読めなくはない。
1ページ目から声に出して読み上げる。
『いつかおれたちのように、この世界に日本人が流されてくることもあるかもしれない。その人のために、これを記そう。
●●年四ノ宮貴之 』
『高校からの帰り道、気づいたら見知らぬ海岸にいた。弟の●●も一緒だ』
『最果ての森に残った●●は元気でいるだろうか。おれはどうしても日本に帰りたかった。旅をしてきたが、まだ帰る方法が見つからない』
『●●のように、助けてくれた、最果ての森の住人のもとにいればよかったのか』
『好きな人ができた。よそからの流れ者のおれを、言葉もわからないおれを助けてくれる』
『ここにいたい理由ができてしまった。日本に帰れなくても、この世界の、妻と子どもたちを守りたい。●●もこんな気持ちだったのか』
「……と、読めるのはこれくらいです。あとは劣化がひどくて読み取れない」
「これだけ読み取れただけでも感謝だ。本当にありがとう、キムラ殿。そうか、もしかしたらご先祖様の弟君の子孫も、どこかに。会えたならどれだけ嬉しいだろう」
高校生ということは、18才かそこらだ。オレより若くしてこの世界に流されてしまった兄弟。
オレもサイハテ村の人々に助けてもらえなければのたれ死んでいた。二人の苦労は察するにあまりある。
「そのことなんだけど。たぶん、貴之さんの弟の子孫って、この村の人たちのことだと思うんだ」
「は?」
オレが思ったことを口にすると、カズタカさんは目を見開いた。
「サイハテ村の名前……『|最果《さいは》て』って、日本語なんだよ。この兄弟が流されてきた海岸って、オレが流れ着いたのと同じ、そこの森の向こう側にある海岸だ。村長いわく、異界から来る人はみんなそこに流れ着くって話だし」
「この村が……」
「手記には最果ての森と書かれているし、兄弟が流れ着いた時代はまだここに村なんてなかった。弟さんが結婚して子供が生まれて人が増えていった結果、村になったと考えるのが自然だ」
カズタカさんは何か考えるように目を閉じる。
「ふっ。ご先祖様の築いた村にコトリが来たのも、運命なのかもしれないな」
「そうかもしれませんね」
オレも四ノ宮兄弟の血がこの世界に残っていることを考え、不思議な気持ちになった。
宿までからあげとレシピを届けに行くと、カズタカさんがぐったりしていた。テーブルに突っ伏してうなっている。
二日酔いだけが原因じゃなさそうだ。
「…………大丈夫です?」
「大丈夫に見えるのか」
「かなりお疲れに見えます」
「そうだろうとも。泥酔した村長と村長の息子にからまれたからな。キムラ殿。ああなるとわかっていたな?」
「すみませんでしたー。黙っていたお詫びの品ってことで、これどうぞ」
カズタカさんの前にお皿を置く。さっき揚げたばかりのほくほくジューシなからあげだ。
蓋を取ると香ばしいかおりが部屋に広がる。
「日本の家庭でよく食べられているおかず、からあげです。コケトリスの肉で作りました」
「ほう」
カズタカさんはからあげにフォークをさし、観察してほおばる。
パッと目を輝かせ、あっという間にひと皿平らげた。もしかして兄妹揃って食欲魔人ですか。
ニコニコしながら肉を食べる姿は|妹《コトリさん》そっくりである。
ハンカチで口元をぬぐって一言。
「うん。悪くないな。これがご先祖様の国の料理か」
「茶わん蒸しとからあげのレシピを書いてきたのでどうぞ。材料さえあればカズタカさんのところでも食べられます」
「もらっておこう」
かっこよく言っているが、たった今子どものように無邪気に食べる姿を見ているから、笑いがこみ上げてくる。
コホンと咳払いして、カズタカさんはオレを見上げる。
「キムラ殿。貴方《あなた》なら読めるのではないかと思って、これを持って来たんだ。訳してくれるのなら報酬は払う」
「これ、とは」
カズタカさんが革のトランクを開き、一冊の厚い本を取り出した。紙は日に焼けて変色し、そうとう年季が入っているのがわかる。
「シノミヤ家の始祖様が、この世界の文字を覚える以前に書いた手記だ。この世界の文字を覚えてから書かれた手記は読めるのだが、ニホンゴのものは読めなくて困っていた。日本人である貴方なら読めるのではないか」
自分のルーツを知りたい、カズタカさんの表情から、期待と不安の気持ちが伝わってくる。
「一応義務教育と高校は卒業しているので、よほど小難しい漢字を使っているのでない限りは、読めると思います。たまたまこの世界に来ただけなのに、お金なんてもらえませんよ」
促されてカズタカさんの向かいの席につき、手記を開く。一部虫に食われて欠落しているが、読めなくはない。
1ページ目から声に出して読み上げる。
『いつかおれたちのように、この世界に日本人が流されてくることもあるかもしれない。その人のために、これを記そう。
●●年
『高校からの帰り道、気づいたら見知らぬ海岸にいた。弟の●●も一緒だ』
『最果ての森に残った●●は元気でいるだろうか。おれはどうしても日本に帰りたかった。旅をしてきたが、まだ帰る方法が見つからない』
『●●のように、助けてくれた、最果ての森の住人のもとにいればよかったのか』
『好きな人ができた。よそからの流れ者のおれを、言葉もわからないおれを助けてくれる』
『ここにいたい理由ができてしまった。日本に帰れなくても、この世界の、妻と子どもたちを守りたい。●●もこんな気持ちだったのか』
「……と、読めるのはこれくらいです。あとは劣化がひどくて読み取れない」
「これだけ読み取れただけでも感謝だ。本当にありがとう、キムラ殿。そうか、もしかしたらご先祖様の弟君の子孫も、どこかに。会えたならどれだけ嬉しいだろう」
高校生ということは、18才かそこらだ。オレより若くしてこの世界に流されてしまった兄弟。
オレもサイハテ村の人々に助けてもらえなければのたれ死んでいた。二人の苦労は察するにあまりある。
「そのことなんだけど。たぶん、貴之さんの弟の子孫って、この村の人たちのことだと思うんだ」
「は?」
オレが思ったことを口にすると、カズタカさんは目を見開いた。
「サイハテ村の名前……『|最果《さいは》て』って、日本語なんだよ。この兄弟が流されてきた海岸って、オレが流れ着いたのと同じ、そこの森の向こう側にある海岸だ。村長いわく、異界から来る人はみんなそこに流れ着くって話だし」
「この村が……」
「手記には最果ての森と書かれているし、兄弟が流れ着いた時代はまだここに村なんてなかった。弟さんが結婚して子供が生まれて人が増えていった結果、村になったと考えるのが自然だ」
カズタカさんは何か考えるように目を閉じる。
「ふっ。ご先祖様の築いた村にコトリが来たのも、運命なのかもしれないな」
「そうかもしれませんね」
オレも四ノ宮兄弟の血がこの世界に残っていることを考え、不思議な気持ちになった。