ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 家の中は、RPGでよく見る素朴な民家と同じだった。簡素な作りの木のテーブル、丸太を伐っただけの椅子。

 気圧されるまま椅子に腰を下ろすと、向かいにオッサンが座る。
 さっきの女の子が、木をくりぬいて削ったコップをオレの前においた。
 飲めってことかな。コップに入っている赤茶の液体は、甘酸っぱい匂いがする。

「ハルルのみつ、おなかのくすりダ」

 オレが腹壊してるって見ててわかったのか。女の子はたどたどしい口調で教えてくれる。

「ありがとな」

 ハルルのみつを口に含む。はちみつのように濃厚な深さのある甘みだ。けれどべたつくことはなく、サラリと喉を流れる。痛かった腹と喉がちょっと楽になる。

 オッサンはオレが飲み終えるのを待って、話しはじめた。

「俺はこの村のまとめ役、ゴルド。その子はミミ。いきなり見知らぬところに来て戸惑っているだろう」
「オレはキムランです。助けてくれてありがとう。下手したら死ぬところだった」

 ユーチューバー名で名乗る。異世界って苗字持ってる人イコール貴族って展開がよくあるから、うっかりはできない。

「そうか。キムラン。お前さんはナガレビトだろ」
「ナガレビトとは?」
「ナガレビトは、異界からながされてきたヒトのことだ。ここの海はいろんな世界とのサカイと繋がっているらしくてな。何年かに1人くらいの割合で、異界の人が流れつく」
「そうなんですね」

 いろんな世界ってことは、地球以外にもこの海と繋がっているところがあるんだな。

「ゴルドさん達がオレの国の言葉を話しているのはなぜです?」
「この村の住人はみんな、翻訳スキルをもっているからナ。異界から流れ着いた人がこの世界で暮らせるよう導く……アマツカミからそういう役目を与えられている」

 わー、いいなぁ翻訳スキル、超便利じゃん。ここってやっぱりスキルがある世界なんだ。てことはオレも頑張れば魔法使えるんじゃね?

「元の世界に帰る道なんてありませんか」
「さあ。俺は他の世界に行こうなんて考えたことないからわからない。キムランのように異界から来て、元いたところに戻る方法を探す旅に出た者も何人も見てきた。この村にとどまるも、他の町に行くもお前の自由だ」

 例えば魔法が発達している国に行けば、元いた地球……ひいては日本に帰る方法もあるかもしれない。
 可能性はゼロじゃない。それを信じて旅立った者は何人もいるんだから、その人たちの残した足跡もあるだろう。

「……オレは」

 迷うオレの背中に、ポンと小さな手がそえられる。

「だいじょぶだ、そんちょ。キムランはわたしがひろってとたのんだ。わたしが、せきにんをもってそだてる」

 どーんと胸を張るミミ。ネコの子を拾った責任を取るようなことを…………。
 え? オレ、ちゃんと人間として認識されてる?? 二足歩行のネコかイヌと思われてない?
 ゴルドさんもじゃっかん引いてるぞ。

「そ、そうかそうか。ミミの心意気はワカッタ。だが、キムランの気持ちを聞いてからにするんだぞ」
「けってい、キムランはわたしがそだてる」

 え、ええええ………。ミミに袖をがっしり掴まれていて、振り払って旅に出ますなんて言えない空気だ。

「お、おせわになります……?」
「まかせろ」

 キムラン27才。
 幼女に養われることが決定したもよう。




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