ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 ぐぅ〜〜〜、と大きな声で腹の虫が鳴いた。

 ただでさえ土地勘がないのに、日が暮れた森の中を歩き回るのは危険だ。断食健康法なんてのがあるくらいだし、一食抜いたくらいじゃ死なない。
 このまま寝ちまおう。明るくなってから何か探そう。
 あとは、魔法が使えるか検証しないとな。


 外気温は裸でいても少し暑いと感じる程度。日本だと五月の終わりぐらいの気温だろうか。
 そこら辺に積もっていた落ち葉をかき集めて、その上に寝転がる。
 こういうのもなんか楽しい。日本に帰れたらサバイバル生活動画の配信するのもありだな。



 夜が明けて、喉の渇きで目が覚めた。
 飯は食わなくてもいいけど、水分は欲しい。
 海があるなら、そこへ続く川があるはずだ。川を探そう。水辺なら、ついでに食えるものも見つけられるかも。

 耳を澄ませて水の音がしないか探る。
 ガサガサと、草木を揺らす小さな物音がする。昨日のティラノ(仮)のような巨大生物ではなく、ウサギなんかの小動物が立てる音っぽい。

 音源に向かって歩くと、そこにはプッチンするプリンみたいな形のスライムがいた。
 半透明で薄緑。目や口は無い。体の真ん中に黒い玉が入っている。
 スライムはシャ! と短く鳴いて姿勢低くする。

「ああぁ、待ってくれスライム。オレは怪しいやつじゃない。敵じゃないヨー。ちょっと水辺を教えてくれないか。ほら、全裸だから武器も何も持ってないって」

 両手を降参のポーズにして、戦う意志がないことを知らせる。
 この世界で地球ルールが通じるとは限らないけど、何もしないよりは………………。

〈シャアーーーーーー!!!!!!〉
「うお!! スライムが増えた!?」

 スライムが仲間を呼んだ。ざっと見て10匹以上。
 グルルルとうなり、みんながみんな臨戦態勢になっている。とてもじゃないが、友好的に見えない。

〈ゴゴシャー!!!〉
〈ギシャーーーーー!!〉
「ひいいぃあああああああ!!!」

 はい、何もしないほうがマシでした。
 オレもうこの世界で降参ポーズしない!!

 もうどうにでもなれ! そこら辺に落ちていた太い木の枝を拾う。

「ふ、ふふふふ!! スライムっつったらレベル1でも勝てるトラクエ最弱モンスターだからな! けちょんけちょんにしてやるぜ、てやあああ!!」

 振り下ろした木の枝がポヨヨンと弾かれた。

「エエエェェェ。ゼリーみたいな見た目のくせに弾力抜群じゃん。今のは動画的には刺さるとこだろ! 視聴者の欲しがるとこ理解してくれないと」
〈げしゃーーー!〉
「すんません調子乗りすぎましたああああ!!」

 スライムの下にあった枯れ枝や枯れ葉が、じゅわ、と溶けている。ようかいえき……! ポケモ○で見たやつやーん!!
 溶けて死ぬなんて勘弁! 今のオレのレベルと装備じゃスライムに勝てないのは理解した。(装備てかマッパだし)
 こうなったら逃げるが勝ちだ!
 逃げて逃げて走り抜いた先に、川があった。

「おお、ああああああ! 恵みの水だあああ!!!」

 川に頭を突っ込んで水をガブ飲み。
 渇いた喉に水が染み渡る。

「ぷっはー! 生き返ったぁ!!」

 腕で口を拭って、その場に足を投げ出す。
 昨日はステータスを出せなかった。この世界ではステータス画面は出ない仕様なのか。

「ま、ステータスが出なくても魔法くらいは使えるよな。基本中の基本、ふぁいやーー!!」

 だが、何も起こらなかった。

「メラ!」

 だが、何も起こらなかった。

「ヴァーン!!」

 だが、何も起こらなかった。

「考えろ、考えるんだ。ゲームでよくある設定を。大事なのは想像力だ。炎が手のひらに集まるイメージをしながら──イフリぃぃート!」

 だが、何も起こらなかった。
 思いつく限りゲームの炎魔法を唱えてみたが、何も起きない。

「ふむ。オレに炎魔法の才能は無いようだな。では他の属性を。メテオスウォーーム!!」

 だが、何も起こらなかった。

「ライトニング! さんだぁ〜ぼるとぉ! ポイズン! ウインドブレード! ネオジオン!!」

 だが、何も起こらなかった。
 ただただ、森の中にオレの声が響いて消えた。

「うん。どの属性の才能もないかぁ」

 トラクエみたいに、特定のレベルにならないと覚えない仕様か。はたまたモンスターをハンティングする狩猟ゲームのように、レベル制度はなくプレイヤー本人の戦闘センスにかかっているか。
 どっちにしても、今のオレには魔法が使えないことはわかった。


 この世界について詳しくは、人のいるところを探して聞いてみようか。手探り状態のままより、地元民に聞くのもまた必要だ。
 そしてオレは人里を探して歩き回り、途中で予想外の敵と戦うこととなった。


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