ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

 雨の日から2日後、男性陣は食料にするモンスターを狩るために森に向かった。
 オレはというと、戦力外通告を受けた。

 まともに戦えないから、せめて一人でスライムが狩れるようになるまで、村に残ってビリーから剣術を教わるのだ。
 うん、オレは足手まといにしかならないから、村長は賢明な判断したよな。悲しいけども。

 そんなわけで、現在村の広場で剣術指導をうけている。ミミをはじめ、今日仕事がない村人が切り株ベンチにこしかけて、オレたちの様子を見守っている。

「煩わせてすまないな、ビリー。本来ならビリーも狩りに行っていたのに」
「気にすんな。身を守るためにも戦えるようになっておくべきだし、それに、キムランに剣術を教えるのは俺にもメリットがある」

 言いながら、ビリーはしまりない顔でギャラリーに目をやる。

「うへへ。オリビアさん見ててくださいね。俺が優しくて強い良い男って分かればオリビアさんは俺のトリコに」

 あー、オリビアさんにいいとこ見せたいのね。好意にちっとも気づいていないらしいオリビアさんは、ミミの隣に座ってニッコリ手を振っている。無自覚に罪作りな人だなぁ。

「まず持ち方はこう。利き手で柄の付け根付近を持って、もう片方の手で支える」
「ふむふむ。こうか」

 ビリーは基本中の基本から教えてくれる。
 剣の持ち方、振り方。なるほどなるほど。言われるままに構えて剣を振る。

「キムラン、そのまま上段から振り下ろす素振りを100回。その後広場を駆け足で10周するんだ。モンスターとの戦闘には剣技だけでなく持久力も必要だからな!」
「わかったぜ、ビリー師匠!」

 と気合い十分でとりかかったが、いかんせん本業がゲーム実況チューバーだったオレ。体力はそんなにない。30回数えたあたりで腕の筋肉が悲鳴をあげ始めた。

「ぐおおおおお、あと、50回ぃぃいいい!!」
「キムランがんばれ〜」

 気の抜けたようなミミの声援をBGMに、ひたすら剣を振るう。

「終わったら走れー! ほら行くぞ、キムラン」
「ひいいいいぃ」

 オレの前を走るビリー。大工をしているだけあって筋力も持久力も半端ない。ビリーと同時に走り出したはずなのに、3周の周回遅れで10周を終えた。

 もうむりぽ。走り終えると同時に倒れるオレ。心臓バクバク、全身熱くて息ができねぇ。

「キムラン、みず」
「さんきゅ〜ミミ」

 腰に手を当て、くみたての井戸水を一気にあおる。

「うまい! もう一杯!」
「たんとのめ」

 ミミ、ものごとには限度ってもんがあるぜ。ミミは桶たっぷりの水を持ってきた。さすがに一抱えある桶の水を飲んだら死ぬ気がする。

「キムラン、ここでいったん昼休憩にしよう。飯食ったらまたここに集合な」
「わかった」

 ビリーはオレより5周多く走っていたのに息一つあがっていない。オレが女なら惚れるわ。

「キムランががんばるように、ちからつくものつくる」

 ミミ母さんがやる気です。家に帰るなり寸胴鍋を出しました。前に村長からもらった乾麺を茹でます。

「たくさんまぜまぜめん、つくる」
「沢山混ぜ混ぜ麺、何が入るんだ?」
「やさいと、ほしたコケトリスにく」
「コケトリスってなに」
「とり」

 質問攻めにしてもミミは怒らない。

 見た目ニワトリ肉な干し肉を細切れにして、つるつるした野菜と葉野菜もみじん切り。油をしいたフライパンを魔法コンロに乗せて、肉を先に入れる。

 カリカリになったところで残りの具材を一気に入れて炒める。野菜から出てきた水分で、コケトリスとみじん切り野菜たちはトマトベースのミートソースのようになる。

 いいニオイでよだれがとまらん。

「キムラン、めんのおゆきって」
「おう、任せとけ!」

 棚の中に木を編んで作ったザルがあった。そこに鍋を傾けて、麺をあける。白くて真珠のような艶のある麺だ。

「めん、ここにいれて」
「はいよ!」

 ミミの持つフライパンに麺を投入。麺と具材をとことんまでからめる。塩とスパイスをふりかけて完成だ。

「できた。たくさんまぜまぜめん」
「みんな見てるー? 沢山混ぜ混ぜ麺できたよーー! うまそーーー!! いえーい!」
「キムランうるさい」
「ごめんなさい」

 カメラカメラ、とついカメラを探してピースしたらミミに怒られた。
 皿に盛り付けて、二人でアマツカミにお祈りして実食。

 担々麺とミートソースパスタの間の子というとイメージしやすいだろうか。
 麺はソースとよくからまっていて、干し肉の旨味が全体に行き渡っている。甘さと塩気とほんのりの辛味。野菜も細かく切られているのに歯ざわりと舌触りがしっかり感じられる。

「あー、すっげー美味い。日本で生きているときにこれとめぐりあいたかった。近くに沢山混ぜ混ぜ麺の店があったら絶対あししげく通ってるわー」
「にほん?」

「日本はオレのいた国の名前。いつかミミも行ってみるといいぞ。この世界っていろんな世界と接してるんだろ? うまくすれば自由に行き来する方法も見つかるかもしれないじゃん」
「いけるのか」

「かもしれない、であって絶対じゃないぞ。オレまだ世界の仕組みをなんにも知らないもん」

 そんなことを話しながら食事を終えた。
 広場に戻ると、ビリーが気持ち悪い笑顔で小躍りしていた。心なしか燃え盛るピンクのオーラが見える。

「ふっふっふ。聞けキムラン。さっきオリビアさんに足が早いんですねって言われたんだ。これはもう告白と同義。そうに違いない」
「勘違いだと思う」
「自分が相手にされてないからってひがむなよ〜? キムラン!」
 
 背中を力いっぱい叩かれ、オレは合わせてうなずくしかない。やる気マシマシになったビリーにより特訓メニューをさっきの2倍にされ、オレは翌日全身筋肉痛で泣くこととなった。




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