ユーメシ! 〜ゲーム実況ユーチューバーの異世界メシテロ〜

「──ってなわけで、今日のキムランゲームチャンネルはここまで。投げ銭スパチャありがと。楽しかったらチャンネル登録と高評価お願いしまっす!」

 いつもの挨拶をして、ネットの配信を切る。
 自分で言っちゃうけど、オレはユーチューバーだ。
 新作ゲーやレトロゲーを隅から隅まで検証して全クリする、ゲーム実況系、アバターで配信するいわゆるブイチューバー。
 チャンネル登録者がようやく5000人超えたところだ。超人気な大物ユーチューバーになると100万人のファンがいる。
 いつかはオレもあの高みに行きたいぜ。

「ふー。深層ダンジョン探索する前に、ひとっ風呂浴びるか。あと配信の編集してポイッターで告知して……」

 ボロアパートのユニットバスは、トイレと風呂が一室にまとめられた極狭。無いよりはまし。
 浴槽にお湯を張ってバスボムを投げ、風呂に飛び込む。

「ラスボスのドロップ素材が何種類あるか確かめたいし、武器をいくつかリュックに入れておいて、回復アイテム縛りプレイもしたいな」

 今攻略配信をしているゲームは、一応ストーリー上のエンドはあるがゲーム自体は永遠に続けられるもの。
 選べる武器種も豊富。
 冒険するだけでなく、住人と結婚したり子どももできるから男女問わず人気が高い。

 実況のことを考えていると、突然お湯に魔法陣らしきものが浮かび上がった。

「は!? なにこれドッキリ!? CG!? カメラどこカメラ!!」

 逃げる間もなく魔法陣に吸い込まれて、気がつくとオレはどこかの海岸にいた。

 よせて返す波、水の色はオレンジ。
 水面からでかい生き物が上がり、オレを食わんと口を大きく開けた。図鑑で見たティラノサウルスのような体で、背中にはコウモリ系の翼が生えている。
 ティラノ(仮)の牙は、一本一本バット並みのサイズある。

〈グギャオオオオオオオォーーーーン!!!!〉
「どう見ても異世界転移です。ありがとうございましたぁああああ!!」

 キムランこと木村セイヤ。全裸のまま異世界転移を果たす。


 頭だけでオレの背丈の2倍あるティラノ(仮)が、地響きを起こしながら追いかけてくる。
 考えるより先に足が動いていた。

「ひぃーー!! 来るな来るな来るな来るな!! オレはひょろいから食べるとこ少ないし美味くないって!!」

 濡れた海岸の砂に足を取られて、思うように進まない。
 せめて姿さえ見えなくなれば逃げられるんじゃないか。目の前に見える森に駆け込む。
 落ちている枝や小石やらが足の裏にクル。裸足で裸だから木の枝もバシバシ当たって痛ってえ!!

 茂みに潜り込んで突っ伏し、息を殺す。
 ズン、ズシン、と迫ってくる足音が、少しずつ遠のいていった。

「た、たすかった……のか?」

 近くにヤツの気配がなくなった。
 左右を確認して、茂みの中から這い出る。

 この世界にはああいうのが普通に闊歩しているのか、それともレアモンスターに遭遇してしまったのか。

 モンスターが出るような世界ってことは、これまでプレイしてきたゲームのようにステータス画面が出たりスキルとか魔法が使えたりするんだろうか。
 とりあえず異世界転移のテンプレに従い、両手を掲げて叫んでみる。

「ステータス、オープン!!」

 だが、何も起こらなかった。

「ポーズの問題かな。そいじゃ、片手を目の前にかざして、ステータスオープン!!」

 だが、何も起こらなかった。

「ふむ。発音が悪かったのかもしれないな。スティタアス、オゥプウーーーン!!」

 だが、何も起こらなかった。

 ふふふ。そうか、そうきたか。
 ゲーム実況ユーチューバーの血が騒ぐじゃないか。
 巻き舌でも駄目なら、文言が違うのか。

「ステータス!!」

 だが、何も起こらなかった。

「オープン!」

 だが、何も起こらなかった。

 こうしてステータスの検証をしているうちに、日が暮れてしまった。




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