婚約者にベタぼれな僕に、自称乙女ゲームの主人公だという男爵庶子がすり寄ってきた
パーティー当日。僕の髪、白茶に揃えたドレスをまとったクラウディアのエスコートをする。
僕のタキシードはクラウディアの瞳と同じ蒼を基調としたもの。
クラウディアは結い上げたことでうなじが見えて色っぽい。普段が可憐なビオラなら、今は白百合のような、大人びた美しさだ。
惚れ直した、と素直な感想を伝えると、恥ずかしそうにはにかむ。
「えと、あの、ベリアル様も、いつも以上に麗しいです」
なんて、嬉しいことを言ってくれる。二時間かけて身支度をしたかいがある。
「きゃー! ベリアル超かっこいい! クラウディア、そこはあたしの居場所よ! ベリアルはあたしと結婚するの! どきなさい!」
ユカリがパーティー会場に入ってくるなりクラウディアを突き飛ばし、僕の腕に手をかけた。
せっかく微笑んでくれていたのに、クラウディアの顔から笑顔が消えた。かわりにとても悲しそうな顔になる。
このユカリとかいう失礼な女、百回は注意したのについぞ“ベリアル”呼びを直さなかった。
馬鹿につける薬はないのか。
僕の大切なクラウディアを粗雑に扱われて我慢できるものか。
「退くのはお前の方だ。百回言ってもわからないようだが、僕の妻になる女性はクラウディアただ一人。今すぐ出ていってくれ」
ユカリの手を振り払い、転んでしまったクラウディアを助け起こす。
「クラウディア。今すぐ教会に行って結婚式を挙げよう」
「そいつは悪役令嬢なのよ。結婚するなんて正気!?」
まだわけのわからないことを言う。
いわく、ユカリは乙女ゲームというものの主人公に転生したとかしないとか。
そしてクラウディアはユカリをいじめ抜く悪役だと言う。そのゲームの中でユカリは複数の男たちと惚れたはれたのやり取りをし、最終的に僕と結婚するのだとのたまう。
妄想の垂れ流しを聞かされうんざりした。
「僕の目には君のほうがよほどたちの悪い悪人に見える。天使のような心根のクラウディアを悪人呼ばわりするな」
「そんな。悪役はクラウディア、あたしは主人公よ!? 目を醒ましてベリアル!」
「みんなの前で他家の令嬢を突き飛ばしておいて、自分は悪くないと」
ユカリははっとして、周囲に目をやる。
ようやく、パーティー会場中の生徒から冷ややかな視線が送られていることに気づいたようだ。
クラウディアは背筋をピンと伸ばしてユカリに言う。
「わたくしはベリアル様の婚約者です。そして婚約者のいる男性に、不用意に触れるのは淑女としてあるまじき行動だと理解しておられますか」
「あんたが婚約者の座を降りればいいのよ! あたしがそこに座るんだから!」
「降りる理由がありません。わたくし、ベリアル様に相応しくなるためこれからも努力を惜しまないつもりです。どうしてもベリアル様の隣に立つと仰るなら、この婚約を決めた国王陛下に打診なさってください」
こうしてクラウディアの気持ちをはっきりと聞けたのは初めてだ。
こんな場合だが、なんて嬉しいんだ。
僕の隣を譲らない、隣にいるために努力し続けると言ってくれる。
こんなに素晴らしい女性、世界中探しても他にいない。
「正義は悪に勝つ、ゲームだって最後に勝つのは主人公だもん!」
ユカリは喚き散らしながら会場を出ていった。
この事件が父であるカロウ男爵の耳に入り、以降ユカリが学校に戻ってくることはなかった。
僕 に迷惑をかけ、家名に泥を塗ったとして、カロウ領の隅に追いやられたらしい。
そして僕とクラウディアは学生のうちに婚姻届を提出した。
互いを高め合える伴侶、最高に可愛らしく努力家なクラウディア。
卒業後、僕たちは三人の子宝にも恵まれ、死が二人を分かつまで末永く幸せに暮らすことになった。
END
僕のタキシードはクラウディアの瞳と同じ蒼を基調としたもの。
クラウディアは結い上げたことでうなじが見えて色っぽい。普段が可憐なビオラなら、今は白百合のような、大人びた美しさだ。
惚れ直した、と素直な感想を伝えると、恥ずかしそうにはにかむ。
「えと、あの、ベリアル様も、いつも以上に麗しいです」
なんて、嬉しいことを言ってくれる。二時間かけて身支度をしたかいがある。
「きゃー! ベリアル超かっこいい! クラウディア、そこはあたしの居場所よ! ベリアルはあたしと結婚するの! どきなさい!」
ユカリがパーティー会場に入ってくるなりクラウディアを突き飛ばし、僕の腕に手をかけた。
せっかく微笑んでくれていたのに、クラウディアの顔から笑顔が消えた。かわりにとても悲しそうな顔になる。
このユカリとかいう失礼な女、百回は注意したのについぞ“ベリアル”呼びを直さなかった。
馬鹿につける薬はないのか。
僕の大切なクラウディアを粗雑に扱われて我慢できるものか。
「退くのはお前の方だ。百回言ってもわからないようだが、僕の妻になる女性はクラウディアただ一人。今すぐ出ていってくれ」
ユカリの手を振り払い、転んでしまったクラウディアを助け起こす。
「クラウディア。今すぐ教会に行って結婚式を挙げよう」
「そいつは悪役令嬢なのよ。結婚するなんて正気!?」
まだわけのわからないことを言う。
いわく、ユカリは乙女ゲームというものの主人公に転生したとかしないとか。
そしてクラウディアはユカリをいじめ抜く悪役だと言う。そのゲームの中でユカリは複数の男たちと惚れたはれたのやり取りをし、最終的に僕と結婚するのだとのたまう。
妄想の垂れ流しを聞かされうんざりした。
「僕の目には君のほうがよほどたちの悪い悪人に見える。天使のような心根のクラウディアを悪人呼ばわりするな」
「そんな。悪役はクラウディア、あたしは主人公よ!? 目を醒ましてベリアル!」
「みんなの前で他家の令嬢を突き飛ばしておいて、自分は悪くないと」
ユカリははっとして、周囲に目をやる。
ようやく、パーティー会場中の生徒から冷ややかな視線が送られていることに気づいたようだ。
クラウディアは背筋をピンと伸ばしてユカリに言う。
「わたくしはベリアル様の婚約者です。そして婚約者のいる男性に、不用意に触れるのは淑女としてあるまじき行動だと理解しておられますか」
「あんたが婚約者の座を降りればいいのよ! あたしがそこに座るんだから!」
「降りる理由がありません。わたくし、ベリアル様に相応しくなるためこれからも努力を惜しまないつもりです。どうしてもベリアル様の隣に立つと仰るなら、この婚約を決めた国王陛下に打診なさってください」
こうしてクラウディアの気持ちをはっきりと聞けたのは初めてだ。
こんな場合だが、なんて嬉しいんだ。
僕の隣を譲らない、隣にいるために努力し続けると言ってくれる。
こんなに素晴らしい女性、世界中探しても他にいない。
「正義は悪に勝つ、ゲームだって最後に勝つのは主人公だもん!」
ユカリは喚き散らしながら会場を出ていった。
この事件が父であるカロウ男爵の耳に入り、以降ユカリが学校に戻ってくることはなかった。
そして僕とクラウディアは学生のうちに婚姻届を提出した。
互いを高め合える伴侶、最高に可愛らしく努力家なクラウディア。
卒業後、僕たちは三人の子宝にも恵まれ、死が二人を分かつまで末永く幸せに暮らすことになった。
END
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