二章 アイセと声無き少女

 一通りの説明を聞いて、ボクは外に出る。
 秋の夜の空気は冷え切っていて、厚手のローブでも寒さを感じる。

「村人たちの埋葬は済んでいるんだよね。お墓はどこ?」
「村はずれの、そちらに。その、一番新しい墓石がシオン君のものです」

 団長さんに案内されて墓の前に立つ。
 シオンが持っていた木刀、そして野の花が供えられている。

 シオンが自分の上着をマーガレットに着せていなかったら、マーガレットも低体温で亡くなっていたのだろう。

「あと三〇分でも早く駆けつけていたなら、シオンも一命をとりとめたかもしれない。そう思うとやりきれないです。…………俺達が見つけたとき、シオンは言ったんです。「妹を助けて、勇者さま……」って」

 団長さんが歯を食いしばり、その頬に涙が伝う。
 他の騎士たちもまた、村人たちを、シオンを救えなかったことを悔いて心から泣いている。

 こんなに、心がキレイな人間もいるんだな。

 歌いたい。
 生まれて初めて、誰かを弔うために歌いたいと思った。

 手が琴を探した。
 弦を弾き、愛の歌を奏で、歌う。
 先代様の手記に残されていた、子どもたちのための子守唄だ。



 愛の神さま、お願いです。
 どうか、妹のために命を賭した優しき兄が、安らかに眠ることができますように。
 村人たちの魂が、救われますように。



 歌い終えて振り返ると、その場にいたみんなが号泣していた。
 最初ボクを見たときに愛の神子って悪魔の神子か!? と騒いでいた人たちまで。

「え、ちょ、なんでみんな泣いてるの!?」
「……ありがとうございます、神子様。きっとみんな、安らかに眠れる」

 団長さんが袖で涙を拭い、無理やり笑顔を作った。


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