二章 アイセと声無き少女
「そうか、君の名前はマーガレットっていうんだね。いい名前だ。名前があるなら呼ばないと失礼だもんな」
「ちょっと待ってよせっちゃん! ボクの心配をしてよ。足蹴られたんだけど!」
せっちゃんはひとしきり笑ってマーガレットに話しかける。
マーガレットもマーガレットで、せっちゃんの手を取って激しく首を上下させる。
『神子さまわかってる。名前は大事。お友達も見習った方がいい』
「はあ!? なんだよそれ。助けに来てやったのにその反応。これだから貴族は嫌いだ」
ボクがぼやくと、マーガレットは黒い目をぱちくりさせて首をかしげた。
『きぞくってなに?』
「君の目は貴色なんだから、魔法使えるでしょ。魔法の血族、貴族」
『魔法を使えるのは神子さまだけでしょう?』
「はあああああ!? 自分が魔法士だってことわかってないの?」
貴族は髪か瞳が黒だと相場が決まっている。その貴色を持つ子どもなのに、自分が魔法士だと知らない?
「どうしたアイセ。マーガレットはなんて言っているんだ?」
「それが、自分は貴族でも魔法士でもないって」
さすがのせっちゃんも、これには動揺した。
どういうことなのかボクにもわからない。でも確かにいろいろおかしい。
貴族なら食うに困らないはずなのに、この子は地図にも載らないような寒村で暮らしていたうえ、年齢に不相応なほど小柄で痩せ細っている。
「アーノルドさんが持ってきてくれた資料には、お兄さんは黒髪だって書いてある。マーガレットのお兄さんも魔法は使えないのかな」
『シオンは天気予報が得意なくらい。シオンが明日雨になるって言うとほんとに雨が降る。森の動物が教えてくれるって言ってた』
わけがわからない。自然の魔法に動物と話す魔法なんてものはない。
動物と会話ができるのは命の魔法だけ。今は亡き先代命の神子がそうだった。つまり動物うんぬんは勘違いだろう。
生まれ持った魔法が火や水、雷、氷といった目に見える形の魔法ではなかったから気づいてないのか?
せっちゃんにそのまま伝えると、せっちゃんは神妙な面持ちでマーガレットに確かめた。
「お兄さんはシオンで、君はマーガレット。なのに、貴族ではない。マーガレットもシオンも花の名前だ。貴色の子に花の名前をつけるという風習を知っている人間がつけたことに他ならない。……マーガレット。君とシオンの名前をつけたのは誰かわかる?」
『じいちゃん。髪はあたしと同じ赤で、目は空の色』
貴色を持たない祖父が、貴族の風習を知っている。
ますますわけがわからない。なんなんだこの子の一族。
知らないことを知りたくて質問するのに、新たな疑問が増える。
せっちゃんもボクも、目を見合わせて黙ってしまった。
「ちょっと待ってよせっちゃん! ボクの心配をしてよ。足蹴られたんだけど!」
せっちゃんはひとしきり笑ってマーガレットに話しかける。
マーガレットもマーガレットで、せっちゃんの手を取って激しく首を上下させる。
『神子さまわかってる。名前は大事。お友達も見習った方がいい』
「はあ!? なんだよそれ。助けに来てやったのにその反応。これだから貴族は嫌いだ」
ボクがぼやくと、マーガレットは黒い目をぱちくりさせて首をかしげた。
『きぞくってなに?』
「君の目は貴色なんだから、魔法使えるでしょ。魔法の血族、貴族」
『魔法を使えるのは神子さまだけでしょう?』
「はあああああ!? 自分が魔法士だってことわかってないの?」
貴族は髪か瞳が黒だと相場が決まっている。その貴色を持つ子どもなのに、自分が魔法士だと知らない?
「どうしたアイセ。マーガレットはなんて言っているんだ?」
「それが、自分は貴族でも魔法士でもないって」
さすがのせっちゃんも、これには動揺した。
どういうことなのかボクにもわからない。でも確かにいろいろおかしい。
貴族なら食うに困らないはずなのに、この子は地図にも載らないような寒村で暮らしていたうえ、年齢に不相応なほど小柄で痩せ細っている。
「アーノルドさんが持ってきてくれた資料には、お兄さんは黒髪だって書いてある。マーガレットのお兄さんも魔法は使えないのかな」
『シオンは天気予報が得意なくらい。シオンが明日雨になるって言うとほんとに雨が降る。森の動物が教えてくれるって言ってた』
わけがわからない。自然の魔法に動物と話す魔法なんてものはない。
動物と会話ができるのは命の魔法だけ。今は亡き先代命の神子がそうだった。つまり動物うんぬんは勘違いだろう。
生まれ持った魔法が火や水、雷、氷といった目に見える形の魔法ではなかったから気づいてないのか?
せっちゃんにそのまま伝えると、せっちゃんは神妙な面持ちでマーガレットに確かめた。
「お兄さんはシオンで、君はマーガレット。なのに、貴族ではない。マーガレットもシオンも花の名前だ。貴色の子に花の名前をつけるという風習を知っている人間がつけたことに他ならない。……マーガレット。君とシオンの名前をつけたのは誰かわかる?」
『じいちゃん。髪はあたしと同じ赤で、目は空の色』
貴色を持たない祖父が、貴族の風習を知っている。
ますますわけがわからない。なんなんだこの子の一族。
知らないことを知りたくて質問するのに、新たな疑問が増える。
せっちゃんもボクも、目を見合わせて黙ってしまった。