一章 セツカと時の鎖
「……ンちゃん、アイリーンちゃん! しっかりして!」
誰かが私を呼んでいる。肩をゆさぶっている。
目を開けると、視界に入ったのは雲一つない夕空。
背中には土の感触。
だんだんぼやけていた視界がはっきりしてきた。
ウルさんだ。騎士制服を着ている。
「ウル、さん?」
頭が痛い。
ここは、時の森に続く門の前?
「よかった! 目が覚めたんだね。何があったんだい?」
何が、あったんだっけ。
セツカと、アイセと森を調べに入って、剣を持った人たちが襲ってきてーー
「ーーっ、セツカが、危ない。行かないと」
「セツカくんがどうしたって? 詳しく聞かせて」
今気づいた。
ウルさんだけじゃない。もうひとり、男の人がいた。
地面に膝をついて私と目線を合わせてくれる。
「フェンさん」
サングラスをしていないけど、間違いない。紅茶色の髪、通った鼻筋、あごのライン。
一度見たら忘れられない容姿をしている。
黒の瞳がまっすぐ私を映す。
ウルさんとフェンさんなら、助けてくれる。
「武器を持った男の人たちに襲われて。私に眠り薬を飲ませて、セツカはアイセって名乗る吟遊詩人に連れて行かれちゃったの。セツカのこと、時の神子って呼んでいて、追いかけてきたら殺すって」
思い出すだけで体が震える。
このままじゃセツカが危ない。助けなきゃ。でも、あの人たちは武器を持っている。私一人で行っても勝ち目はない。
諦めるなって、スイレン先生がいつも言っているもの。
やれること、全部やる。
「お願い、ウルさん、フェンさん。私、セツカを助けたいよ。力を貸して」
「ああもう、なんて無茶なことをするんだチビのやつ。迷わないよう遺跡まで案内しろってお願いを無視して!」
頭をがしがし掻いて、フェンさんは近くに待たせていたらしい騎馬の手綱を握る。
「ウルくん、アイリーンちゃんを病院に。どこか怪我をしているかもしれない」
「承知しました、陛下」
「アイリーンちゃん。セツカくんはボクとウルくんで連れ戻す。君に何かあったらアーノルドくんが悲しむよ」
フェンさんが私の肩に手を添える。何もせず待ってろなんてお願い聞けるわけ無い。
「私も行く。セツカを助けたい!」
なんでセツカが時の神子と呼ばれているのかわからない。
それに、家族を返せって、どういうことなの。
胸がざわつく。
いま行かないと後悔する。私の中の何かがそう訴えている。
「だめって言うなら自分の足で行くわ」
フェンさんは長くため息をついて、肩をすくめた。
「あは。さすがアーノルドくんの娘。性格がそっくりだ」
「……のようですね。アーノルドもこうと決めたらてこでも動かないから。アイリーンちゃん、僕の馬に一緒に乗るといい。こっちの子のほうがまだ大人しいから」
「ありがとう、ウルさん」
ウルさんの手を借りて、黒い騎馬ちゃんに乗る。ウルさんが言うように大人しくて、私が近づいても暴れたりしなかった。
「よろしくね、黒馬ちゃん」
首すじを撫でると、分かったと言うように黒馬ちゃんが頷く。
フェンさんの乗った騎馬が迷うことなく森の奥を目指し、ウルさんが後に続く。
「時の森はボクの庭だから、絶対迷わない。任せて」
「庭? ずっと閉鎖されていたのに、フェンさんはここに入ったことがあるの?」
すぐ背後からウルさんの声が教えてくれる。
「アイリーンちゃん。この方はフェンネル・クロノス陛下だよ。お忍びのときはフェンと名乗っているんだって。で、僕は護衛としてここにいる」
「え、ええええぇえ!?」
私の声に黒馬ちゃんが驚いて、大きくいなないた。
誰かが私を呼んでいる。肩をゆさぶっている。
目を開けると、視界に入ったのは雲一つない夕空。
背中には土の感触。
だんだんぼやけていた視界がはっきりしてきた。
ウルさんだ。騎士制服を着ている。
「ウル、さん?」
頭が痛い。
ここは、時の森に続く門の前?
「よかった! 目が覚めたんだね。何があったんだい?」
何が、あったんだっけ。
セツカと、アイセと森を調べに入って、剣を持った人たちが襲ってきてーー
「ーーっ、セツカが、危ない。行かないと」
「セツカくんがどうしたって? 詳しく聞かせて」
今気づいた。
ウルさんだけじゃない。もうひとり、男の人がいた。
地面に膝をついて私と目線を合わせてくれる。
「フェンさん」
サングラスをしていないけど、間違いない。紅茶色の髪、通った鼻筋、あごのライン。
一度見たら忘れられない容姿をしている。
黒の瞳がまっすぐ私を映す。
ウルさんとフェンさんなら、助けてくれる。
「武器を持った男の人たちに襲われて。私に眠り薬を飲ませて、セツカはアイセって名乗る吟遊詩人に連れて行かれちゃったの。セツカのこと、時の神子って呼んでいて、追いかけてきたら殺すって」
思い出すだけで体が震える。
このままじゃセツカが危ない。助けなきゃ。でも、あの人たちは武器を持っている。私一人で行っても勝ち目はない。
諦めるなって、スイレン先生がいつも言っているもの。
やれること、全部やる。
「お願い、ウルさん、フェンさん。私、セツカを助けたいよ。力を貸して」
「ああもう、なんて無茶なことをするんだチビのやつ。迷わないよう遺跡まで案内しろってお願いを無視して!」
頭をがしがし掻いて、フェンさんは近くに待たせていたらしい騎馬の手綱を握る。
「ウルくん、アイリーンちゃんを病院に。どこか怪我をしているかもしれない」
「承知しました、陛下」
「アイリーンちゃん。セツカくんはボクとウルくんで連れ戻す。君に何かあったらアーノルドくんが悲しむよ」
フェンさんが私の肩に手を添える。何もせず待ってろなんてお願い聞けるわけ無い。
「私も行く。セツカを助けたい!」
なんでセツカが時の神子と呼ばれているのかわからない。
それに、家族を返せって、どういうことなの。
胸がざわつく。
いま行かないと後悔する。私の中の何かがそう訴えている。
「だめって言うなら自分の足で行くわ」
フェンさんは長くため息をついて、肩をすくめた。
「あは。さすがアーノルドくんの娘。性格がそっくりだ」
「……のようですね。アーノルドもこうと決めたらてこでも動かないから。アイリーンちゃん、僕の馬に一緒に乗るといい。こっちの子のほうがまだ大人しいから」
「ありがとう、ウルさん」
ウルさんの手を借りて、黒い騎馬ちゃんに乗る。ウルさんが言うように大人しくて、私が近づいても暴れたりしなかった。
「よろしくね、黒馬ちゃん」
首すじを撫でると、分かったと言うように黒馬ちゃんが頷く。
フェンさんの乗った騎馬が迷うことなく森の奥を目指し、ウルさんが後に続く。
「時の森はボクの庭だから、絶対迷わない。任せて」
「庭? ずっと閉鎖されていたのに、フェンさんはここに入ったことがあるの?」
すぐ背後からウルさんの声が教えてくれる。
「アイリーンちゃん。この方はフェンネル・クロノス陛下だよ。お忍びのときはフェンと名乗っているんだって。で、僕は護衛としてここにいる」
「え、ええええぇえ!?」
私の声に黒馬ちゃんが驚いて、大きくいなないた。