一章 セツカと時の鎖

 町の中心にある噴水広場は、船着き場から近いからか人が多く行き交う。
 すれ違いざまに何人もが振り返る。
「何アレー」「あんな色の髪見たことない」と嗤いあっているのが聞こえた。

 そんなこと、わざわざ口に出さないでほしい。髪色が気持ち悪いと言われたって、俺の意思で変えることができないのに。

 帽子のつばをつまみ深くかぶり直す。

 わかりやすいからといってここを集合場所に選んだことを後悔した。

 人ごみを抜けると、琴の音色と男の歌声が聞こえた。
 噴水の縁に腰掛け、金髪の吟遊詩人が三日月形の琴をつま弾く。


――花の国では、植えていい花はひとつだけだと決まっていました。
 それ以外のものは植えてはいけないといわれていました。
 ある男は、種を植える場所を探していました。
 でも、花の国に植えるなと追い出されてしまいました。
 どこでなら自分の種は蒔けるのか。

 たくさん旅をして、肥料もなにもない土に蒔くしかありませんでした。
 花の国では咲けない種は芽吹き、小さな花が咲きました。

 いつしかいろんな花が咲いていて、花の国に負けない立派な花畑ができたのです――


 なんてあたたかい歌声と音色だろう。
 詩を書いた人の優しさも伝わってくる。

 歌が終わり拍手する。
 吟遊詩人の青年は軽くお辞儀をして、海色の瞳と目があった。

「やぁ。ボクの歌が気に入ったかい、せっちゃん」
「せっちゃん?」
「きみのことだよ」
「名乗った記憶がないんだが」

 嘘くさい笑顔を浮かべながら、青年は俺の帽子に指をかける。
 隠していた銀髪と瞳をのぞき込んでくる。
 その目に俺を嗤う気配はない。

「名乗らなくてもわかるよ。ボクたちは同士だから。ボクのことはアイセとでも呼んで」

 なぜだろう。
 初めて会うはずなのに既視感が……。

 ああそうか。このおどけた話し方。
 フェンさんみたいなんだ。
 二人がかもす雰囲気は天地ほど違うけど、話し方がそっくりだ。

「……一緒にされたくないんだけど」
「なにと?」
「なんでもないよ。ただの独り言。忘れて」
 
 独り言にしたって脈絡がない。

「あ、いたいた。セツカー!」

 後方からリーンの声がする。
 何度か人とぶつかり頭を下げながら、人ごみのむこうから抜け出てきた。

 肩で息をして、呼吸を落ち着けてから俺の隣に立つアイセに気づいた。

「こちらの方はセツカの知り合い?」
「いや、いまここで初めて会った」

 アイセはリーンを値踏みするように上から下まで見て、胸もとを見て指を鳴らす。

「合格。少なく見積もってもᎠはある。宿をまだ借りてないならボクの部屋に来なよ。一晩中、歌を聞かせてあげる。なんならきみが歌ってくれても……」

 アイセが言い終える前に、アイセの腹に右ストレートが決まった。

「さいってーー!! 初対面の女の子を見て第一声がそれ!? 次言ったら海に沈めるわよ!」
「落ち着けリーン。海に沈めるな」
「とめないでセツカ」

 急いでリーンを羽交い締めにする。
 この一撃は予測不可能だっただろう、アイセはみぞおちを押さえてうずくまっている。

「すまないアイセ。リーンは怒ると拳で語るタイプなんだ。気をつけてくれ」
「ハハハー。ボクが失言する前に教えてほしかったかな……」


 情けない声を出して、アイセが力なく笑った。


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