魔法少女ばあやの日常

 城に戻ったあと、一応殿下の望みを書記官に言伝します。「婚約者がいるのに他の女も嫁にしようとするなんてクソですね」と軽蔑していました。
 無自覚に敵を増やしていく殿下、将来が心配です。

 次は洗濯の時間なので、城の裏手に向かいます。他のメイドが集めてきてくれたシーツやクロスを洗うのです。
 道すがら人がいないのを確認して、ぺぺと話します。

「アリーナ様は魔法少女になれませんでしたが、仲間が多いほうが助かることは確かですね。いまのわたしとソフィアでは、停止と送還しかできない」
「慣れてくると新たな魔法を覚えられるでし。それに、ぺぺの仲間も魔法少女になれる人を探してくれているでし」
「それなら助かるわ」

 通路の向こうから人が来たので、ぺぺは窓の外に逃げます。
 その人、ルーカスはわたしに声をかけてきます。

「エデルミラじゃないか。これから洗濯か」
「ええ。ルーカスは出動の帰りですか」
「ああ。魔物が出たと聞いたのだが、とっくにいなくなっていた。またあの少女が送還というのをしてくれたのか」
「それはよかったですね」

 ルーカスはわたしをじっと見てつぶやきます。

「知らぬふりをするか」
「なにを、ですか」
「つい昨日、会わなかったか。草原で」

 昨日、エデルミラとしては会っていません。
 ルーカスと顔を合わせたのは、魔法少女として魔物を送還したときだけ。

「会っていません」
「本当に? あのとき魔法少女が連れていた不思議な生物が、いまさっきエデルミラのそばにいた」

 バレていたことを知って、ぺぺが窓の外から戻ってきます。

「ごめんでしミラ。ぺぺがいたせいでし。ミラは隠したがっていたのに」
「いいのよ。いずればれていただろうし、あなたのせいではないわ」

 ふわふわ飛んでいるぺぺを見ても、ルーカスは驚く様子はありません。

「ルーカス、他の人に言わないで。気づかなかったことにして欲しいの。旧知のよしみで聞いてもらえると助かるわ。魔物の送還はきちんとするから」
「……わかった。だが、あのとき一緒にいた騎士もそのぺぺというのを見ているからな。そいつをあまり人に見られないようにしたほうがいい」

 勝手な頼みを、ルーカスは聞いてくれました。
 わたしは頭を下げて仕事に戻ります。今はお洗濯物が最優先です。




「まったく。あれでバレないと思っていたのか。出逢った頃のエデルミラそのものだったからな。わかるに決まっている」

 ルーカスのひとりごとを、ぺぺだけが聞いていました。


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