魔法少女ばあやの日常

「魔法少女の夫に、俺はなる!」

 ダミアン王子が世迷い言を言い始めたのは朝食の席でございました。
 陛下と王妃様は、それはもう白けた顔をしています。

「白昼夢を見ている場合か。お前には婚約者のアリーナがいるじゃないか」
「夢などではありません。城の壁を拳でぶち破りそうな名前の女と結婚なんてできるか! 俺はミニスカ美少女のほうがいい!」
「これが腹をいためて産んだ子だと思うと嘆かわしいですわ」

 恍惚の顔で語る王子に、陛下と王妃様が突っ込み。
 こんなのが夫になるなんて、アリーナ様、おかわいそうに。

「ばあや。書記官に言ってお触れを出させるのだ! 俺が嫁にしてやるから魔法少女は城までくるようにと」
「殿下は気が触れたのですか」
「なんだとう!」
「失礼、つい本音が。……かしこまりました。後ほど伝えます」
「後ほどではだめだ。今、すぐにだ!」

 書記官も鼻で笑うと思います。
 わたしはお辞儀をして、空気が凍りついた食堂をあとにしました。


 書記官のいる棟まで少し離れています。
 長い渡り廊下を歩いていると、開け放たれた窓からぺぺが飛び込んで来ました。

「大変でしよミラァ〜! 魔物が暴れてるでし。ソフィアが向かったでしよ!」
「ちょっとぺぺ。あなた人前で喋ったりなんてしたら、珍獣扱いされて見世物小屋に売り飛ばされてしまうわよ」

 急いであたりを確認。誰もいなかったので胸をなでおろします。

「だいじょーぶでしミラ。ぺぺたち精霊の声は、魔法少女のソシツがある人にしか聴こえないのでし」
「そ、そうなの?」
「神様がそういう効果の魔法をかけてくれてるのでし。その名も、ゴ・ツゴウシュ・ギ!」

 まるで自分の偉業を誇るように胸を張るぺぺ。魔法をかけたのは神様で、ぺぺじゃないですよね。

「ぺぺが見世物小屋行きにならないならいいですが……」
「そんなことより早く! 変身でし!」
「そうですね。騎士たちの剣が通じないなら行くしかありません」

 急かされて、急ぎ変身用の石を握ります。あれが暴れ回ったら町が大騒ぎになります。


「トランスフォルマぺルーカ!」

 人生二度目の恥ずかしい格好をして、わたしは窓から飛び立ちました。


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