魔法少女ばあやの日常

「そっちに行ったぞ!」
「エスペイラ! 足止めしている間に、ソフィア、お願い!」

「任せてください! これで、さいごの1匹!! エクストラディクション!!」

 町に出現した魔物は、ソフィアと協力してそうそうに送還することができました。

 連携がうまくなってきたから、前より苦労せず戦えます。


「ふぃー。ルークさんもお姉さまもおつかれさまでした。帰って休みましょー」
「そうね」

 本業以外でこんなに大立ち回りをするから、疲れてしまう。

 もうとっくに正体がバレているから隠す必要もなく、魔法のホウキで飛んで城まで戻ります。

 帰る頃には夕暮れ空になっていました。

「おつかれでふ、ミラ。ぺぺは先に休むでふ」

 ぺぺが飛んでいきます。窓を開けてあるから、窓からぺぺ用のベッドに直行。
 わたしは城の裏手、庭園のすみで休みます。

 昔から、仕事が一段落するとここで休憩していました。
 表側と違って華やかな植物が植えられているわけでもなく、庭仕事の道具をしまう小屋があるだけ。
 庭師の仕事は朝方なので、それ以外ほとんど誰も来ないのです。

 静かなのが好きなわたしにはうってつけの場所。

「エデルミラ。またここにいたのか」
「ルーカス」

 ルーカスに見つかりました。
 そういえばルーカスも、若い頃はたまに訓練を抜け出してここに来ていました。

 厳しすぎる上官についていけないと言いながらも、少し休むとまた剣をとって訓練に励むのです。

「メイド用に休憩室があるのだからそこを使えばいいのに」
「指導役のわたしがいたら、皆が休まらないでしょう」

 休憩時間も指導役がそばにいるなんて気が気じゃないない。

「まったく。変わらないな」

 ルーカスは肩をすくめて、わたしのとなりに腰を下ろします。

「そういえば、思い人のところに行かなくていいの? その方のためにずっと独身でいたのでしょう」
「だからここに来たんだ」

 噛み合うようで噛み合わない会話。
 ルーカスがわたしを見て言います。

「エデルミラが好きだからずっと結婚せずにいた。今更かもしれない。俺は、ずっとエデルミラが妻ならと思っていた」

 まさかルーカスからそんなことを言われると思わなくて、わたしは言葉につまります。
 

「あなたに告白する人は何人もいたのに」
「ただ一人と決めていたから、眼中になかった」


 こんなおばあさんになってから、ずっと隠していた気持ちを伝えられるなんて。
 ルーカスなら、わたしがこの仕事を誇りに思っていることを知っているから、結婚後家庭に入れなんて言わないでしょう。


 わたしはルーカスをどう思っているの?
 自分に問いかけてみる。

 騎士団長という重大な役目を担っているのに、魔法剣士という、さらに重い役目も引き受けて民のために戦う。

 その心根も、姿も、尊敬できる。
 目が離せなくなるくらい、輝かしい。

 この気持ちに名前をつけるなら、なんと呼ぶのでしょう。

 恋をしたことがないからわからない。
 けれど、もしかしたら、この思いを好きだというのでしょう。


「わたしでいいのかしら」
「もちろんだとも」

 ルーカスに差し出された手に手を乗せる。
 わたしはもう、ルーカスと出会ったころの少女じゃない。
 ルーカスも少年じゃない。

 70歳にして、伴侶を得ることになりました。
 といってもなにか特別に生活が変わるわけではありません。


 わたしはメイドの仕事をするし、ルーカスも騎士団長の仕事がある。
 魔法少女と魔法剣士の役目もある。

 ひとつだけ変わったことというと、二人で話す時間が増えたことでしょう。


 城の裏手で、空を見上げながら他愛のない話をする。
 少女たちがするような燃えるような熱い恋ではないけれど、これがわたしたちの在り方。


「ミラ、ミラーー! 魔物でふ!」
「ルークも急げ!」
「あらあら大変。急いで行かないといけないわね、ルーカス」
「ああ。行こうか」



 ぺぺとノノに呼ばれて、わたしたちは現場に急ぐ。
 ばあや兼魔法少女の日常は今日も大忙しです。



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