魔法少女ばあやの日常

「まずは赤い方から消えてもらいましょうか。アンタの送還さえなけりゃ、魔物はずっとこっちに残るんだから」

 黒い少女が指を鳴らすと、魔物たちがソフィア目がけて突進します。

 悔しいですが、わたしとルーカスに送還魔法がないのは事実。
 ソフィアが落ちたらおしまいです。

 それをわかっていて少女はソフィアを狙う。

「きゃーー! 来ないで、来ないでよー!」
「ソフィアは空に。ここはわたしとルーカスで弱体化させます! バレィラ
!」

 魔法の弓矢を紡いで魔物に向けて放ちます。
 矢を放つ瞬間に魔物が跳ね、わたしに向かってくる。

 このタイミングじゃ、防御が間に合わな……!

「油断するなエデルミラ」

 ルーカスがタイミングをはかって剣で突き、魔物が後方に吹っ飛びました。

「……ありがとうルーカス。助かりました」

 まずは一匹戦闘不能。ルーカスがもう一匹を引き止めている間に

「エスペイラ!」

 飛び上がろうとする片足立ちの体勢で、魔物が停止した。



「ありがと、二人とも! よーし! エクストラディクション!!」

 戦いを重ねたからか、魔法陣は大きく広がり、二体一気に光の中へ消えていきました。

「くっ!! ルーカス様。次こそ魔族側についてもらいますからね!! あたしは……キュリーは諦めない!!」

 背中に生えた翼で羽ばたき、少女……いえ、キュリーは北の空へ飛びさりました。
 時間切れとなり、三人とも元の姿に戻ります。

「なぜあの子は執拗にルーカスを仲間に引き込みたがったのかしら。要がソフィアだとわかっているなら、ソフィアを引き抜いたほうが効率的でしょうに」

 物影に隠れていたぺぺが、わたしのまわりをクルクル飛びながら答えます。

「あのこは、これでルーカス様はあたしのものよー!! とさけんでいたでし。いたい系ってやつでし」
「そ、そうなのね……」

 ぺぺ。アリーナ様に対しても無能って言い切ったし。怖いもの知らずというか……おそろしい子。

「もしかしてキュリーって子、ルーカスさんに惚れた?」
「あんな若い娘が、70の男に惚れるものか」
「乙女心をわかってないねルーカスさん。魔法剣士姿のルーカスさんってめちゃめちゃ美少年だもん。ね、ミラお姉様」

 仕事一筋でこの歳まで生きてきたわたしに、かっこいいかどうかと話をふられても困ります。

 庶出で騎士団長にまで上りつめた、剣の腕がすごいのはわかります。
 70歳になる今でも「うちの娘を嫁に」と縁談が後を絶たないのも耳に入ってきます。

 そのすべてを断り続け、剣の道に邁進してきたルーカス。
 尊敬の念を覚えるわ。

 だからかしら。若い姿が美しいから惚れる、というのはピンとこなかった。

「ごめんなさいねソフィア。わたし、仕事ばかりで色恋に興味を持ってこなかったものだから。女なのに乙女心がわからないみたい」
「あららー、お姉様ってばもしかしてニブチン。そこもまた良いですねぇ」

 よくわからないことを言われて釈然としないものの、一応敵は退けられました。

 わたしももっと精進して、送還魔法を身に着けたいものです。
 そうすればソフィアだけが狙われる事態をさけられるでしょう。


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