魔法少女ばあやの日常

 城に連れ戻されたダミアン王子は、国王様王妃様の両名から叱られ、謹慎処分を言い渡されました。

 色ボケで謹慎をくらう王子なんて、世界広しといえどダミアン王子だけではないでしょうか。
 外に出すと絶対に何かやらかすので、食事を部屋に運びます。

 二人のメイドと手分けしてテーブルに昼食を並べていると、ダミアン王子が叫びました。

「だぁああ、俺はただ魔法少女を嫁にしたかっただけなのに! なんでだめなんだ!」
「あなたには婚約者がいるからです。国の未来を思うならおとなしくアリーナ様と結婚してください」

 わたしは努めて冷静に真実を教えます。

「そう、それだ。ばあや。アリーナとの婚約をなかったことにすれば魔法少女を嫁にできる!?」
「もうだめ、バル国の未来が不安……」

 うっかり口を滑らせたメイドの口にナプキンを当てます。

「思うのはいいですが、今口に出してはいけません」
「ふがふが、てこと、は、メイド長もそう、おもってるんじゃなーー」

 思ってるけど言わないだけです。

「みらぁ〜〜〜」  

 窓の外で右に左に、ぺぺが飛んでいるのが見えました。
 昨日の今日でもう魔物が。休む暇がありません。

「ここは任せてもいいかしら。次に頼まれたことをしなければならないの」
「また騎士団ですか〜? 団長さん、最近お掃除をメイド長に任せすぎですよ」
「そう言わないで。騎士の皆さんは忙しいから、自分たちで掃除するのも限度があるでしょう」

 騎士たちの寮を掃除するだとか物品整理だとか、抜け出す言い訳を作るにも限度があります。
 ルーカスが悪者になるのは申し訳無さすぎる。
 いつかはみんなに打ち明けなければならないでしょう。

 今はとにかく魔物を送還するのが先決です。
 魔法少女に変身し、空をかけます。



「助けてくれーー!」
「うわーー!」

 なんと今回の魔物は町に出没していました。
 これまでは人が少ない森や草原だったのに。

「お前たちは避難誘導を! ここは俺が食い止める!」
「はい、団長!」

 魔法剣士ルークとなったルーカスが部下たちに指示を出し、民を避難させます。

「ソフィア、送還を打てるか?」
「……まだ人がたくさんいるから、下手をすると術に巻き込んじゃいます」

 いつも送還術で送っているのは魔物だけ。陣の中に人間を巻き込んでしまった場合のことを考えるとゾッとします。

 まさかそれを見越した上で、敵は町に魔物を投下したんでしょうか。

「ソフィア! ルーカス!」

 わたしもすぐさま降りて参戦します。

「エス……」

 停止魔法を使おうとして、やめます。
 ソフィアの言うとおり。
 術の効果範囲にまだ人がいる。
 人間に停止魔法が当たってしまったら大変。

 避難誘導が完全に終わるまでは、時間稼ぎをするしかないようです。

 物陰からわたしたちの様子を見て「これでルーカス様を長く拝んでいられるわ!」とウキウキしている人影がいることなど、知る由もありませんでした。


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