魔法少女ばあやの日常

 脳内お花畑満開の王子ダミアンは、手紙に書かれていたとおり、ホノボノ平原にいました。

「あ〜、花嫁はまだ来ないのか。もう5分も待っているぞ」

 腕組みしてウンウンうなっています。

「はやく、はやく、魔法少女ー!!」

 木陰からこっそりとその様子をうかがう人影がひとつ。キュリーです。

「くくくく。本当にこんな簡単な罠にひっかかるとは、あたしたちが何もしなくても勝手に滅びそうね」

 キュリーが勝ち誇って指を鳴らすと、三体の魔物が現れました。

「あいつをやっちまいな」
「ギャオーー!」

 突如現れた魔物に、ダミアンは腰を抜かしました。

「ひえええっ! 食われるぅぅうう! 逃げなきゃ、でも魔法少女が来るんだし……むしろ大歓迎!?」
「何馬鹿なことを言っているんですか殿下! 護衛を一人も連れずに出かけるなんて」

 真っ先に駆けつけたのは、魔法剣士ルークでした。
 ダミアンの頭上に迫っていた魔物を叩き落とします。

「げ、ルーカス! 俺が助けてほしいのはお前じゃない! なんで魔法少女が来ないんだぁあ!」
「ですから、あの手紙は魔物を喚ぶ者たちの罠だと言ったでしょう! 魔法少女より先に魔物の群れが現れたのがその証拠です!」
 
 助けてもらっておいて文句を言うダミアンに、ルークも声を荒らげました。

「間もなく騎士たちも駆けつけますので、保護してもらってください」
「そんなこと言って、俺が魔法少女と仲良くなるのを邪魔するつもりか。二人とも可愛いもんな!」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと逃げてください。魔物ごとしばきますよ」

 キュリーは二人の言い争いも影から見ていました。
 王子を助けに来た、大剣をふるう美少年。
 魔族の中でも、これほどまでに強い美丈夫はいません。

「なんて素敵な人。ルーカスと呼ばれていたわね」

 キュリー18歳、人生初の一目惚れでした。


「ルーク、遅れてごめんなさい。すぐ私たちも戦うわ」
「ちゃっちゃとやっちゃおー!」

 魔法少女ふたりも駆けつけました。
 三人で協力して、魔物を三体とも送還します。

「魔法少女がきてくれたー! 嫁になってくれ!」
「寝言は寝てから言ってください」

 魔法少女ミラの足にすがりついて頬ずりをするダミアン。ミラは顔を引きつらせ、魔法少女ソフィアが杖を振りかぶります。

「この変態! お姉さまのきれいなおみ足に触れるな!」
「うぎゃ!」

 ダミアンは後頭部に会心の一撃を食らって突っ伏しました。
 両手で杖を握ったまま、ソフィアは我に返ります。

「あ、しまった。あたしってば一国の王子様相手に。捕まっちゃうかな」
「謝る必要はないわソフィア。いい薬になるでしょ」
「そうだ。殿下はこれでも懲りないような人だから、謝らなくていい」

 ルークとミラが普段からこの王子に仕えているなと知るはずもなく。ソフィアはよくわからないままうなずきました。


 一方キュリーは魔物が送還されたあと、新たな作戦をねります。

「ルーカス様は魔法少女の協力者なのね。魔物を喚べば、彼は送還するために必ず現れる。ふふふ、あれだけの強さがあるならこちらでもかなりの地位にのぼれるはず。魔法少女を裏切ってこちらについてはくれないかしら」

 組織としての第一目的は、バル王国を自分たち魔族の手中に収めること。
 ですが、キュリーには別の目的が生まれたのでした。


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