魔法少女ばあやの日常

 春も終わりにさしかかった、とある昼下がり。
 ダミアン王子が小躍りしながら陛下の私室に飛び込んできました。

「父上、母上! 魔法少女から手紙が来た! ぜひ王子と結婚したいと書かれています!」
「夢なら寝てから見なさいダミアン。お前なんかと結婚できる奇特な女性はアリーナくらいしかいません」

 王妃様からの容赦ない口撃をされるも、ダミアン王子はへこたれません。

 国王陛下も「本当に触書きを出したのか愚か者!」とご立腹。

「ば、ばあやは信じてくれるよな!? これは魔法少女から俺へのプロポーズ!」
「本物なわけないです。誰かのいたずらでしょう。おとなしくアリーナ様と夫婦になってください」
「アリーナより魔法少女のほうがいいに決まっているだろう! この手紙に、『王子様と二人きりで会いたいです。ホノボノ平原で待っています♡』って書かれている! こんな可愛いこと言われて男として応えないわけには」

 ダメだ。救いようのないダメアンだ。

 わたしが味方すると思われていたのが心外です。この際誰でもいいから味方がほしいのかもしれませんが。

 この場にいる若いメイドや護衛騎士も全員、「だめだこいつ」という顔をしています。

「そんな紙くずさっさと捨てて、語学の勉強をしろ!」と陛下に一喝され、ダミアンは泣きべそで部屋を出ていきました。


 それにしても、誰があの手紙を書いたのでしょう。
 わたしはそんな手紙書いていないし、ソフィアも「一夫一妻のバル国王子がハーレムしたいなんてクズですね」と鼻で笑っていました。

 空になったティーセットをワゴンに乗せてキッチンに向かっていると、ノノが走ってきて、ワゴンに飛び乗りました。

「ミラ、ノノが会いに来たですの」

 まわりにメイドや騎士がいないのを確認してから答えます。

「どうしたの、ノノ。魔物が出たのかしら」
「そうじゃないですの。ルークが、王子がもらったお手紙のことで相談しようって言ってるですの」
「そうね。すぐに行くわ」

 ノノはエプロンのポケットに隠れ、ついてきます。
 兵舎の掃除を頼まれたと他のメイドに言伝てから、ルーカスと合流しました。


「陛下から『本当に魔法少女が手紙を書いたかどうか確かめてくれ』と命を下された」
「ルーカスは魔法剣士になった事を、陛下に伝えているのでしたね」
「立場上、周りの理解がないと何かと不便だからな」

 いま人目を盗んでこっそり活動している身としては、刺さる話題です。
 あの姿になっていることを知られたくない、という思いと、隠したまま活動するのはそろそろ限界、という二つの気持ちが心の中でせめぎ合っています。

「わたしもソフィアもあんな馬鹿な手紙書いていないわ」
「魔法少女はミラとソフィアしかいないですの」

 ノノが補足説明してくれます。

「だとすると、やはり敵の罠か」
「殿下には呼び出しに応じるなと、きつく言い聞かせないといけませんね」

 ダミアン王子は人の話を聞かないタイプなので骨が折れそうですが、止めるしかありません。


「エデルミラさん大変ですーーーー!!」

 話が一段落したところにメイドが三人、血相を変えて駈けてきました。

「どうしたの、あなたたち。そんなに慌てて」
「こ、これが殿下の部屋に」

 真白な紙に見覚えのある癖字で、

『手紙の魔法少女に会いに行ってくる』

 と書かれていました。



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