魔法少女ばあやの日常

「ぎぃゃーーーー!! ね、ねねねねネズミーーーー!!」

 ある朝、メイドたちと換えのシーツを運んでいると、兵舎の厨房からものすごい声が聞こえてきました。

 白と茶色の鮮やかなネズミが目の前を横切り訓練場の方に逃げていきました。
 一足遅れで厨房の女主人がおたま片手に出てきます。

「兵の食料を狙うとはふてえやろうだ! 二度と来るなよネズ公めが!!」

 見た目はか弱そうな女性なのですが、男ばかりの厨房にいることもあってか、なかなか好戦的です。

 叫び声が兵たちの訓練場にも聞こえていたらしく、ルーカスが様子を見に来ました。

「何を騒いでいる」
「あわわわわ、騎士団長、お騒がせしてすみません。ネズミが入り込んだものですから」
「ネズミ……侵入者か?」
「あ、いえ。本物のネズミです」

 比喩でもなんでもなくネズミ。
 ルーカスはほっとため息を吐きます。

「そちらに行ったように思ったのですが、見ていませんか」
「いや、見ていない」
「そうですか……。くそう。ネズミ捕りを設置しておかないと」

 肩をいからせながら、料理人は厨房に戻っていきました。

「たいへんでしミラぁ〜〜! 魔物がでたでし! はやく来てほしいでし! ソフィアが先に行ったでし」

 ぺぺが物かげで私を呼びます。メイドたちの手前、ぺぺに話しかけるわけにもいかず。どうしたものか考えているとルーカスが言います。

「エデルミラ。シーツは他のものに任せればいいから、兵舎の倉庫を片付けてもらえるか」
「わかりました。ーーあとは任せてもいいかしら」

 メイドたちは「おまかせください」と送り出してくれました。

 ルーカスには心で感謝して、人気のないところまでいって変身。
 ホウキにまたがり飛び立ちます。

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 ぺぺに先導されてついたのは、川辺の公園です。

 体中に目がついた魔物があばれまわっていました。ソフィアが杖を振り上げ、必死に戦っています。

「ソフィア!」
「ミラお姉様! 気をつけてください。こいつ、隙がなくて……」
「なら、停止をかけてみるわ」

 魔物の背面に降りて時計を掴みます。

「時よ止ま……」
「ギャオーース!」
「きゃああああああ!」

 魔法を使う暇すら与えられず、大きな腕で弾き飛ばされてしまいました。

「ミラお姉様! 魔物め、よくもお姉様をーー、きゃああ!」

 杖をかざしたソフィアを、魔物がけとばします。
 いつの間にか魔物の肩に、先日のリザードマンが乗っています。

「ケケケッ。お前らは停止と送還しか使えない。術さえ使えなけりゃ他の人間と変わらねぇぜ!」

 相手もただ召喚するだけじゃなく、わたしたちの弱点を見極めてきているようです。

 術を使おうとするたび、魔物が邪魔してくる。


「こ、このままじゃ……」

 変身していられるのは十分間だけ。もうすぐタイムリミットが来てしまう。

「諦めるな!」

 若い男性の声が私たちを叱咤する。
 わたしをかばうように、黒髪の少年が現れました。
 口元を布で隠しているため顔は定かでありませんが、声と背格好からして男性なのは確かです。
 少年の肩に、城で見かけたあのネズミが乗っています。

「ルーク、君ならできるの! 魔法剣で戦うの!」
「承知した」

 ネズミに返事をして、少年は光をまとった剣を手に魔物に切りかかっていきました。

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